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3話 ゆかりさんとわたしと、校舎裏にて
眠り姫の目覚め
しおりを挟む結局その後すぐ、わたしは解放されました。
しかし峰岸さんはその場に残され、今頃先生と無意味な押し問答を繰り返しているのかと思うと、気の毒でなりません。
「ゆかりさんに相談してみようかな……」
独特の視点を持ち、ミステリーに強いゆかりさんなら何か良いアドバイスをしてくれるかもしれません。
さすがに現時点で分かっていることを伝えただけでは無理でしょうけれど。
まあ、話のきっかけとしては十分です。
そんなことを考えながら、わたしはゆかりさんのお家の前に到着します。
鍵を開け、ガラガラと引き戸をスライドさせます。
「お邪魔します。……あれ?」
いつもの、コンコンという返しがありません。
それに、夕方なのに家の中の明かりが少ないような気がします。
怪しまれないようにと、ゆかりさんはひとりで居る時は極力電気を使いませんが、わたしがいつも来ている時間帯なら遠慮する必要はないはずです。
「ゆかりさん? 寝ているのかな……」
廊下を進み、いつもの縁側の向かいの部屋へ入ると、そこにゆかりさんは居ませんでした。
卓袱台の上にぽつんとスケッチブックだけが乗っていて、覗いて見ますが特別わたしに向けたメッセージは見られません。
「ゆかりさーん……。いないの……?」
わたしの呼ぶ声が虚しく響き、返って来るものはありません。
ざわっと胸の奥が波立ちます。心臓もドクドクと高鳴って、耳の奥を叩くようにうるさいです。
外から差し込む夕刻の光が、わたしを変に焦らせます。
「……っ」
昨夜のようにゆかりさんを感じ取ろうとしても、いつもの物静かな雰囲気を捉えることはできず。
ゆかりさんはここに、この家にいない……?
じゃあ、どこに?
答えは一つしかありません。
今のゆかりさんが行ける場所は、この家か、自身の肉体が眠る病室だけ。
病室に行く時は、そういう気分になった時点で事前にわたしに報せてくれるはずです。
今ここにいないのは、わたしを待っていてくれなかったのは、つまり幽霊となった彼女の意思ではないということになります。
それが意味するところは……
「まさか……」
わたしにも心当たりがありました。
「目が、覚めたの……?」
独りきり寂しい部屋の中、わたしの呟きが響きました。
自分で発したひと言が引き金となって、
「ゆかりさん……っ」
次の瞬間、わたしは震える膝を叩いて駆け出していました。
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