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2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて
第三の事件 解答編
しおりを挟む「えっと。執事さんが毒殺されたんだっけ? 毒は紅茶に入っていたのよね」
きっとまたわたしの意見を聞かれるだろうと思って、そんなことを口に出して整理してみます。
ゆかりさんは他にも、警察が来るまでの時間と双子の安否を気にしていました。
きっと、そこが今回のポイントとなるのでしょう。
皆が紅茶を口にしていた中、犯人は一体どうやって執事さんだけを毒殺することができたのか。
今度はしっかり受け答えしよう、と小さく意気込むわたしの前で、スケッチブックが裏返されます。
そこに書かれたゆかりさんの言葉は、
〝執事さんは自殺したの〟
でした。
続けて、
〝自分で毒を入れた紅茶を、自分の意思で飲んだの。これが三つ目の事件の真相〟
「…………。いや、ちょっと待って、ゆかりさん……」
わたしがこのひと言を口にするまでけっこうな時間が掛かりました。
だって、ねえ? 自殺って……。
一体何をどうしたらそんな結論に至るというのでしょうか。訊ねずにはいられません。
「説明を、順序立てて説明を……」
わたしの慌てようをたっぷり楽しんだ後、ゆかりさんは答えを教えてくれます。
〝初歩的なことなのよ、みぃちゃん〟
どこかで聞いたような決め台詞を引用して、ゆかりさんはスケッチブックを捲ります。
〝おかしな点を挙げるとするなら、まず事件直前に執事さんが他の人と一緒に食事をしているというところ〟
「え、何かおかしいの?」
〝執事や家政婦といった職業の人たちは雇われている立場だから、洋館に招かれた親族の人たちはお客様でもあるの。普通そういう人たちの前で食事を摂ったりしないわ〟
「ふうん、そういうものなんだ」
〝そして最大の疑問点は、執事さんの死についての描写が少な過ぎることよ〟
「少なすぎる?」
そういえば、と思い返してみると、執事さんが亡くなってすぐに警察が到着する場面に飛んでいました。
第一、第二の事件と違って、探偵役であるユウトとサヤカが詳しく調べたり、考えをまとめたりする描写がありません。
ゆかりさんに言わせると、それはわざとそうしているのだそうです。
〝推理小説において必要なことは全部描写されているわ。逆に余計な描写は省くものよ。特にトリックに関する部分なんかは。執事さんの毒殺についてろくに考察されていないのだとしたら、それはその必要がないから〟
「良く分からないけれど……。つまり、解き明かすべきトリックなんて存在しなくて、一番簡単な方法で毒を飲ませた……。いいえ、飲んだということ?」
ゆかりさんはこくりと頷きます。
「ゆかりさんがそうだという根拠は、小説の中でそういう描写がされていないから?」
ゆかりさんはしっかりと頷きます。
「でも、なんかそれって……」
わたしはもやっとしてしまいます。
言わんとしていることは理解できますが、何というか、ずるい……。
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