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1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
私と一緒ね。
しおりを挟むすっかり元気をなくした逢引き男女を先に帰して、わたしと相原さんはさらに司書の先生からいくつかの質問を受け、いくつかの答えを返し、
「はい。よくわかったわ。二人ともありがとうね」
相応の時間が経った後、ようやく解放されました。
「長々とごめんなさい。一応容疑者だから、聞いておかないといけないことがたくさんあって」
逢引き男女がいなくなった途端、態度を急変させた司書の先生が優しげに微笑みかけてきます。
いつもの柔和な雰囲気の先生でした。
「また後で話を聞くことがあるかも知れないけれど、特に相原さんには証拠の提出をお願いしたいのだけど、あなたたちを特別疑っているわけじゃないから。あまり気にしないで頂戴」
「そうなんですか? 疑われていないんですか?」
そう言われてすんなりと安心できるほど、わたしの精神は丈夫に出来ていません。
訊ね返さずには、確認せずにはいられません。
司書の先生は、申し訳なさそうに眉根を下げて答えます。
「ええ、まあ。でもね、あの二人が色水を持ち込んだ犯人でなかった場合というのも考えなければならないわ。他にああいう悪戯を仕掛けた人物がいるかもしれない。そしてその犯人は捜し出さないと」
相原さんが口を挟みます。
「でも、先生。そんなことができる人なんていませんよ。だって、昨日の図書当番の人が戸締りの際にきちんと見回りをしているはずですから」
この言葉に、先生は頷いて同意を示します。
「ええ。その時私も一緒だったから、そんな悪戯の仕掛けを見落としていたとは考えられないわ。今日の朝も昼休みもたくさんの生徒が出入りしていたはずだから、そんなものがあれば誰かが気づくか、誤って仕掛けを作動させてしまっていたでしょう。無差別な悪戯にしてはやり方がおかしいし、辻褄が合わない」
続いて、声のトーンをひとつ落として、こんなことを言いました。
「だからもしそんな仕掛けができるのは、今日の放課後図書館に居て、あの二人があそこに居る時に色水を仕掛けることができたのは、あなたたち二人だけ。そういうことになるのよねえ」
深い色の瞳に心の中まで見通すように見つめられて、わたしはふいにドキリとします。
何もやましいことは無いのに、咎められていることを謝らなければいけないような気持ちが沸いてきます。
「えっと……」
言葉が続かないわたしに、助け舟を出してくれたのは相原さんでした。
「だとすると、この子より私の方が遥かに可能性高いですね」
「え?」
驚いて隣を見やると、相原さんが自信に溢れた笑顔でウィンクを返してきます。
〝私に任せて〟
そう言いたげでした。
「だって私はこの子よりずっと長い時間図書室に居ましたし、動機もあります。正直、あの二人に怒りを感じていました。今回正当な処分を降してもらえて、とってもすっきりしています」
疑われているにもかかわらず、笑顔で堂々と言い切って見せた相原さん。
司書の先生はぷっ、と思わず吹き出して、
「あはは、意地悪言ってごめんね。あなたたちを疑ってなんかいないわ。だって二人とも本が好きな人だから。本を汚すような人のことを許せないって怒ってくれる人だから」
そして、先生はにこりと可憐な笑みを見せました。
「私と一緒ね」
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