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2話 捕食者を喰らう者

解散! 新米パーティー

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「なあリーダー、提案があるんだ」
「承諾します。私はこちらへ」


 最後まで聞かずに返事を返して、私は細い脇道に逸れます。

 これ以上居心地の悪いパーティーのリーダーを務めるつもりはありません。意見は一致しているようですし、ちょうど良いでしょう。


「ちょ、ちょっと待ってよ。もしかして分かれるつもり?」


 背後でオリビアさんが信じられないと声を上げます。


「地下水道は広大ですが、道筋は見取り図の通りです。であれば、手分けしての方が効率良いでしょう?」


 リオンさんの話では、万が一のため後からベテランの冒険者を数名送り込んでくれる手はずのようですし。
 問題はないと思いました。


「だからってね……。それに地図は一つしかないでしょ?」
「では役割を分担しましょう。地図を持つ私は地下水道の調査を。クランさんはスライムの掃討を。脇道に逸れなければ、ただ真っ直ぐに来た道を辿るだけ。外に出るのは簡単です」


 仮に迷ったとしても、どこかの突き当りまで適当に歩けば上にあがるための階段やはしごを見つけることができるはず。懸念事項は皆無でした。


「他のお三方はどうされますか?」


 不満顔のオリビアさんと、その向こうのお二人にも訊ねてみます。まあ、一応。


「当然こっち」
「わ、わたしも!」


 リーフさんに続き、マインさんが元気よく挙手しました。


「まあ、そうでしょうね。では、ご武運を」
「二人とも待ちなさい! ちょっとクラン? あんたはあんたで、まったくもう! それに仮にもリーダーがそんなことでどうするの?」


 私は彼らに背を向け、一人脇道に逸れて黙々と歩み始めます。

 背中に響くオリビアさんの小言もやがては遠ざかり、そのまま消えていくはずでした。


「待ちなさいってば!」


 後ろから襟首を引っ張られます。オリビアさんです。


「おや、こっちでよろしいので?」
「……仕方ないでしょ、あんただけ放っておけないもの」
「それはそれは。心強いです」
「……ふん、どうだか。ほんと、生意気ね」


 ぶっちゃけ本心でした。団体行動は苦手ですが、見知らぬ場所で一人ぼっちというのも少し。

 そんな不安を見抜いてのことか、道行きの友はオリビアさんのお説教でした。


「ねえ、一旦落ち着きなさいよ。子供みたいな喧嘩している場合じゃないでしょ? 即席とはいえ、私たちはパーティーなのよ? 確かに、彼は功を急ぐあまり、あんたのこと目の仇にしているわ。嫉妬しているのよ。同期の女の子が前代未聞の記録を達成するだなんて」
「掃除屋の称号がそんなに眩しく映るものですか?」


 皮肉を返すと、オリビアさんは一拍置き、その理由を口にしました。


「クランはね、いち早く冒険者として名を上げて王都入りしたいのよ。なにせ、彼のお兄さんは第一級冒険者である"勇者"なんだから」
「ほほう?」
 
 
 "勇者"。
 その称号については聞いたことがありました。

 "異端なる掃除屋"と同じく、冒険者の間で広まる二つ名であり、その頂きを飾る称号と言えるでしょう。

 一から十まで分けられる冒険者の等級の中で、最高位に輝く第一級冒険者。その中から抜きんでた、たった一人の真の豪傑に与えられる栄誉。

 数多の怪物を薙ぎ払い、その頂点に君臨する魔神王をも打ち滅さんとする伝説の英雄。
 来るその日、その時に、全冒険者を率いるべきその人であることを意味します。

 もっとも、そんな英雄譚はすべてはおとぎ話の中での出来事。絵空事です。すっかり形骸化した今、残っているのはその呼び名くらい。

 今の"勇者"様は、はてさてどんなお人でしたっけ?


「そんなことも知らないで冒険者やってるの、あんた?」
「なにぶん、見習いなもので」


 飄々と言ってのける私に対して、オリビアさんは盛大なため息。
 ただ、根が真面目なのでしょう、丁寧に教えてくれます。


「勇者ロキ。彼のお兄さんはね、こんな田舎の街で生まれて、冒険者のトップレベルまでのぼり詰めた、正真正銘の天才なのよ」
「田舎の街? ここが? いたって普通の大都市に見えましたけれど」


 てっきりこの街が国の中心地かと思っていました。


「そんなわけないじゃない。あんた、一体どんな僻地から出てきたの?」
「ええと……。野山に囲まれたのどかな村々?」
「なによ、それ」


 一番記憶に残っている村は、緩やかな丘陵の上にありました。通称〝遊牧の村〟として親しまれ、周囲には点々と小さな集落があった気がします。

 まばらに生えた木々。
 万葉の揺れる大地。
 絵本に描かれるような風景が延々と広がり、良く晴れた日に風車小屋の天窓を開けば、好きなだけ世界を見渡すことができました。

 各家庭こじんまりした家を持ち、
 高原に生きる牛や馬を家畜とし、
 畑仕事で生計を立て、
 大きな街との交流は乏しく、
 人の行き来もあまりない。

 雄大な自然界の中に取り残された今にも忘れ去られそうな村。そんな印象しか残っていません。


「飽きれた……。あんた、王都グランセルへ行ったら気絶するんじゃない?」
「失礼な」


 そこまで田舎者ではないと信じたいです。
 
 
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