11 / 78
2話 捕食者を喰らう者
迫り来る脅威?
しおりを挟む事の起こりと言えるほどのものはありません。
先日無事依頼を達成して部屋に帰り、報奨金を確認してみたところ、いつもより若干金額が多かったのです。
いくら数多くの依頼を熟しているとはいえ、所詮は清掃作業。
報酬などたかが知れています。
そこで重宝するのが、倒した怪物の角や爪なんかを剥ぎ取って売りさばくという手法でした。
一括りにドロップアイテムと称されるそれらは、観光客向けの土産品として店頭に並べられたり、すり潰して漢方にしたり。
硬質な素材を用いた武器なんかを作ることもできるので、怪物の死体漁りは冒険者の基本です。
スライムの場合は核です。
核はゼラチン質の個体のようですが、天日干しにすると水分が蒸発して小さな黒い玉となります。
私はそれを売って、日々のお小遣いとしているわけです。
「ここ半月ほど、どうにも収入が多くて。少々浮かれていたところだったんですが。理由を考えるに、どうやらそれが原因かと」
「なるほど。道理で羽振りがいいわけだ」
リオンさんはからかうように、首にかけていた装飾品を見咎めます。
これは最初に倒したスライムの核を記念品として取っておき、ネックレスに加工してもらった物です。
お洒落、してみたかったんです。
「うーん……」
「何かまずいことでも?」
考え込むリオンさんを見て、また何かやらかしたかと身構えますが、幸いリオンさんは首を横に振りました。
「まさか。君が倒した怪物だもん。獲得したアイテムはすべてアルルさんの物だよ。ただし、街中であまりおおっぴらにやると、ねえ?」
「安易に真似する輩が出てくると?」
「そういうこと。金銭目的の怪物狩りが一般市民にも波及すれば、冒険者が冒険者たる意味がなくなってしまうでしょう?」
街中をうろつくスライムは、子どもが踏みつけただけでも絶命するほど脆弱で、汚泥やら苔やらをすすって生きています。
ひなたぼっこで自然死する個体も多く、実際スライムを倒さずとも核はたくさん落ちているのです。
それがお金になると知れ渡れば、わざわざ探して拾っていく者が出てきます。
その先で、欲深な輩は夢を見てしまうでしょう。
冒険者になれば、楽に金稼ぎができる、と。
それはギルドにとって、もっとも歓迎したくないタイプの無法者です。
自覚の足りない自殺志願者とも言えます。
「一応ギルドが目を光らせているから、頭の隅にとどめておくくらいで大丈夫だけど」
「肝に銘じます」
神妙に頷く私。
リオンさんは「よろしい」と満足し、話を戻します。
「それにしても……、確かにちょっと気になるね。スライムなんてどこにもでもいるものだけど」
万年筆を軽く頬に押し当て、今後の方針を検討します。
「これは一度、調査隊を派遣した方がいいかなあ」
不可解なことが起これば調査を行う。
それは、街の役所として機能を有するギルドの仕事でした。
しかし、リオンさんはどこか浮かない顔をしています。
「何か気になることでも?」
「ええまあ。スライムってどこにでもいるじゃない?」
「文字通り、掃いて捨てるほどいますね」
「そして、とても弱い。ええ、日の光の下を歩くだけでダメージを受けてしまうほど脆弱な怪物。要するに、そんなものに構ってくれる奇特な人はごく限られてしまうわけ」
「動かせる人員はいないと?」
「ううん……。少なくとも現状何か起こっているわけではないから、ギルドとしては報酬を用意して人員の募集を呼びかけることしかできないかな。ギルド側から依頼する調査となると、即ちそれは税金から支払われるわけで」
「予算を出してもらえないと?」
「出してもらえたとしても、私の残業手当にも及ばないくらいかな。そうすると、ね?」
「依頼を受ける冒険者がいないわけですか」
何とも軽んじられている気がします。
たかがスライムとはいえ、身近にある脅威にそこまで無頓着でいられるだなんて。
私は憤りますが、リオンさんはにへらと困り笑顔で、
「実際問題、水気の多いこの街ではスライムの大量発生なんて大雨の次の日とかによくあることだから。放置しておいて大事に繋がるとは思えなくて。……ふむ」
一頻り悩んだ後、ぱっと表情を明るくして身を乗り出してきます。
「アルルさん。君を期待の新人冒険者と見込んで、是非お願いしたいことが!」
期待の眼差しで見つめられます。悪い気はしませんでした。
「ええ、ご依頼とあらば喜んで」
二つ返事でオーケーします。
手に入れたばかりのお掃除武器を構え、堂々と胸を張って見せます。
もとよりそのつもりだったのです。
のらりくらりと騙し騙しで三か月。この辺りが頃合いでしょう。
ようやく冒険者らしい冒険へ乗り出す時。
「私だって冒険者なんですから!」
それっぽい意気込みだけは十分でした。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる