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2話 捕食者を喰らう者

迫り来る脅威?

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 事の起こりと言えるほどのものはありません。

 先日無事依頼を達成して部屋に帰り、報奨金を確認してみたところ、いつもより若干金額が多かったのです。

 いくら数多くの依頼を熟しているとはいえ、所詮は清掃作業。
 報酬などたかが知れています。

 そこで重宝するのが、倒した怪物の角や爪なんかを剥ぎ取って売りさばくという手法でした。

 一括りにドロップアイテムと称されるそれらは、観光客向けの土産品として店頭に並べられたり、すり潰して漢方にしたり。

 硬質な素材を用いた武器なんかを作ることもできるので、怪物の死体漁りは冒険者の基本です。

 スライムの場合は核です。
 核はゼラチン質の個体のようですが、天日干しにすると水分が蒸発して小さな黒い玉となります。

 私はそれを売って、日々のお小遣いとしているわけです。


「ここ半月ほど、どうにも収入が多くて。少々浮かれていたところだったんですが。理由を考えるに、どうやらそれが原因かと」
「なるほど。道理で羽振りがいいわけだ」


 リオンさんはからかうように、首にかけていた装飾品を見咎めます。

 これは最初に倒したスライムの核を記念品として取っておき、ネックレスに加工してもらった物です。
 お洒落、してみたかったんです。


「うーん……」
「何かまずいことでも?」


 考え込むリオンさんを見て、また何かやらかしたかと身構えますが、幸いリオンさんは首を横に振りました。


「まさか。君が倒した怪物だもん。獲得したアイテムはすべてアルルさんの物だよ。ただし、街中であまりおおっぴらにやると、ねえ?」
「安易に真似する輩が出てくると?」
「そういうこと。金銭目的の怪物狩りが一般市民にも波及すれば、冒険者が冒険者たる意味がなくなってしまうでしょう?」


 街中をうろつくスライムは、子どもが踏みつけただけでも絶命するほど脆弱で、汚泥やら苔やらをすすって生きています。

 ひなたぼっこで自然死する個体も多く、実際スライムを倒さずとも核はたくさん落ちているのです。

 それがお金になると知れ渡れば、わざわざ探して拾っていく者が出てきます。

 その先で、欲深な輩は夢を見てしまうでしょう。
 冒険者になれば、楽に金稼ぎができる、と。

 それはギルドにとって、もっとも歓迎したくないタイプの無法者です。
 自覚の足りない自殺志願者とも言えます。


「一応ギルドが目を光らせているから、頭の隅にとどめておくくらいで大丈夫だけど」
「肝に銘じます」


 神妙に頷く私。

 リオンさんは「よろしい」と満足し、話を戻します。


「それにしても……、確かにちょっと気になるね。スライムなんてどこにもでもいるものだけど」


 万年筆を軽く頬に押し当て、今後の方針を検討します。


「これは一度、調査隊を派遣した方がいいかなあ」


 不可解なことが起これば調査を行う。
 それは、街の役所として機能を有するギルドの仕事でした。

 しかし、リオンさんはどこか浮かない顔をしています。


「何か気になることでも?」
「ええまあ。スライムってどこにでもいるじゃない?」
「文字通り、掃いて捨てるほどいますね」
「そして、とても弱い。ええ、日の光の下を歩くだけでダメージを受けてしまうほど脆弱な怪物。要するに、そんなものに構ってくれる奇特な人はごく限られてしまうわけ」
「動かせる人員はいないと?」

「ううん……。少なくとも現状何か起こっているわけではないから、ギルドとしては報酬を用意して人員の募集を呼びかけることしかできないかな。ギルド側から依頼する調査となると、即ちそれは税金から支払われるわけで」
「予算を出してもらえないと?」
「出してもらえたとしても、私の残業手当にも及ばないくらいかな。そうすると、ね?」
「依頼を受ける冒険者がいないわけですか」


 何とも軽んじられている気がします。
 たかがスライムとはいえ、身近にある脅威にそこまで無頓着でいられるだなんて。

 私は憤りますが、リオンさんはにへらと困り笑顔で、


「実際問題、水気の多いこの街ではスライムの大量発生なんて大雨の次の日とかによくあることだから。放置しておいて大事に繋がるとは思えなくて。……ふむ」


 一頻り悩んだ後、ぱっと表情を明るくして身を乗り出してきます。


「アルルさん。君を期待の新人冒険者と見込んで、是非お願いしたいことが!」


 期待の眼差しで見つめられます。悪い気はしませんでした。


「ええ、ご依頼とあらば喜んで」


 二つ返事でオーケーします。
 手に入れたばかりのお掃除武器を構え、堂々と胸を張って見せます。

 もとよりそのつもりだったのです。
 のらりくらりと騙し騙しで三か月。この辺りが頃合いでしょう。

 ようやく冒険者らしい冒険へ乗り出す時。


「私だって冒険者なんですから!」


 それっぽい意気込みだけは十分でした。
 
 
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