スライムイーター ~捕食者を喰らう者~

謎の人

文字の大きさ
8 / 78
2話 捕食者を喰らう者

今日も今日とて、楽しい冒険に出かけましょう

しおりを挟む
 
 
 ここ、アクアマリンが水の街と呼ばれているのは、街門を東へ抜けた先に巨大な湖が広がっているためです。

 この美しく壮大な光景は見る者を楽しませる観光スポットとして有名であると同時に、街の住人にとっては大きな水質資源となります。

 街の地下には碁盤状に整えられた水路が張り巡らされ、湖水は生活用水として活用されます。

 湖の一部は街の港と隣接しています。
 渡し船が行きかい、商人と品物が溢れ、様々な言語が入り乱れ、この街の日常はいつも混沌かつ華やか。

 道を行く人々の衣服や装飾は、流行りを取り入れ洗練され、洒落ています。

 山間の村々を転々としてきた私からすると、生れて始めて見る都会の風景でした。

 湖と反対側、街の西には緩やかな丘が連なる草原が広がり、陸路を通って王都へ向かう者たちの宿泊と観光の街として知られています。

 主要な街路には左右に旅客目当ての出店が並び、食欲をそそる食べ物から、異国情緒溢れる土産品まで様々。

 商人たちが威勢よく張り上げる声が途絶えることはありません。
 彼らの声がそのまま、街に朝を知らせます。


「……んん」


 街を流れる河沿いの、とある宿屋の一室にて。
 私は目を覚まし、大きく伸びをします。

 ベッドとクローゼットしかないこの手狭な部屋は、冒険者ギルドと併設された建物で、宿無し冒険者に格安で一部屋提供してくれます。

 太っ腹、と言いたいところですが、これは治安維持のための処置だそうで。

 出稼ぎのために都会に出て冒険者になる者は数多いますが、言うほど楽な仕事ではありません。

 彼らは当然持ち家などなく、寝泊まりするには街の宿屋を借りるしかありませんが、そんな余裕のある者はそもそも冒険者などに身を落とすことはないのです。

 では仮に、そんな最底辺の職業にさえあぶれてしまった者がいたとしたら、果たしてどうなるのでしょう? 
 彼らは一体どうやって、日銭を稼ぐことができるでしょう? 

 冒険者という枠からはみ出して、本当のならず者になられては困るのです。
 そうした最悪の事態を避けるため、駆け出し冒険者は多少優遇してもらえます。


「ただし、安値で貸し与えられるのにも条件はあるの。ひと月に三つ以上の依頼を達成すること。当たり前だけど、法に触れるような真似を仕出かさないこと。あくまでも立派な冒険者として独り立ちするための支援だということを忘れないように」


 リオンさんから頭が痛くなるほどに言いつけられています。
 きちんと守らなくては。

 簡素なベッドから降り、カーテンを開きます。
 縦横無尽に走る運河を渡し船がいくのを横目に朝の支度を整え、部屋を出ます。

 さあ、今日も今日とて、楽しい冒険に出かけましょう。


「と言っても、隣の建物に移動するだけ」


 楽ちんです。

 冒険者ギルドは街門のすぐそばに立つ、街で一番目立つ建物と言えるでしょう。

 余所の土地からやって来る旅客が多い中、冒険者の目に留まりやすくするためか、正面には街のシンボルである水瓶を描いた赤の旗が翻ります。

 リオンさんによれば、冒険者志望の無法者を必要以上に街へ入れさせないためでもあるとか。

 物々しい装備の無頼漢が、赤や白のドレスを纏ったお嬢様に混じって街路を歩く様など、考えるだけカオスです。


「まあ、都会の街なんてそういうもんかな」


 冒険者となって早三か月。

 こうして改めて街を見回していると、どこか懐かしく。
 盗賊に襲われた荷馬車に乗って、すぐそこの街門をくぐったのが昨日のことのようです。 

 助けてくれた操者のおじさんは元気にしているでしょうか。

 荷馬車の荷物から服やらお金やらちょろまかし、後の面倒な処理をすべて押し付け、混乱に乗じて逃げたことを思うと、もう二度と会いたくありません。


「どうか会いませんように」


 門に掲げられた紋章には、ギルドの旗と同じ水瓶が描かれています。

 水を司る女神様の象徴だそうで、この街では至る所でこの紋章を見ることができます。
 中央区にある神殿には女神像が祭られているらしいので、いつか見に行きたいものです。

 所詮建前であったとしても、人々はいざという時縋ることのできる存在を欲し、神の威光があるからこそ安心して日々を生きていくことができるのです。

 であれば、私もそれに肖りましょう。

 まだ見ぬ女神様に祈りを捧げ、私はギルドの扉を開きます。 
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス召喚されて助かりました、逃げます!

水野(仮)
ファンタジー
クラスでちょっとした騒動が起きていた時にその場に居た全員が異世界へ召喚されたみたいです。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

処理中です...