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存在が消えた、そうとしか思えない状況だった。
「なんで……どうして……」
誰も、私に気が付かない。目の前にいても、声をかけても、何の反応も返してはもらえない。まるで、初めから私という人間がそこには、彼らの中には存在していないよう。
それは、ルーナ・フェアフィールド、私の存在そのものが消えてしまったということ以外、何も言えなかった。
**********************************
フェアフィールド伯爵家の長女、ルーナ。それが今世での私の名前だった。この世界はとある乙女ゲームの世界を題材にした漫画の世界で、私は何の因果か、前世で好きだったその漫画の世界に転生を果たしていた。しかし、原作の漫画と違うのは、私がこの伯爵家ではいじめられているという点だ。
原作上では、幼いころに再婚した父と新たな母となる女性との間に生まれた異母妹を虐め、お金持ちだった伯爵家のお金を浪費、お金に物を言わせるタイプのとんでもない女性だったルーナ。いわば悪役で、漫画の舞台である学園でも傍若無人ぶりを発揮、最終的にヒロインを暗殺しようとして失敗し、殺されてしまった。
しかし、私はそれをしなかった。悪役になって死にたくない一心で、母は違うが妹を可愛がっていたつもりだったし、学園に入学してもヒロインには優しくしていたつもりだった。
「お姉さまって、卑しいのねぇ」
「あっ……」
父は後妻との娘である異母妹ばかりを可愛がり、気が付けば私は使用人同然の生活を送る羽目になったし、私に少しでも優しくしてくれた使用人さんたちは軒並み解雇され、今いるのは私に優しくない人たちばかり。
「やだっ! 本当に汚いんですけど!」
やっとの思いで分けてもらえた古いパンを大事に持って、与えられた部屋へ戻っていると、どこからともなくやってきた妹。彼女にわざとぶつかられて、私はパンを落としてしまった。そのパンしか私の食べるものはないので、たとえ、床に落ちたものだったとしても食べ物だ。
床から拾ってまた大事に抱え直す私を見て、妹は冷たい目で私を見て笑う。いつから私を間違ったのだろうか。それさえも、もう私にはわからない。
「まあ、そんなネズミに構う必要はないわ。早くこちらへいらっしゃい」
「お母さま! あんなネズミ、どこぞへとやってよ!」
「そうねぇ……我がフェアフィールド伯爵家にこんなのがいるなんて知られたら、格が下がってしまうものね」
使用人さんのお仕着せよりもボロボロの服を纏う私は、さぞ、汚く映るだろう。継母たちとは違う服装なのだから。
「これ、外に放り出しておいて」
「かしこまりました、奥様」
私を伯爵家の人間とは思っていない使用人さんに無理やり引きずられて、外へ放り出される。それを見て笑う継母と妹に何も言うことはできなかった。
「なんで……どうして……」
誰も、私に気が付かない。目の前にいても、声をかけても、何の反応も返してはもらえない。まるで、初めから私という人間がそこには、彼らの中には存在していないよう。
それは、ルーナ・フェアフィールド、私の存在そのものが消えてしまったということ以外、何も言えなかった。
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フェアフィールド伯爵家の長女、ルーナ。それが今世での私の名前だった。この世界はとある乙女ゲームの世界を題材にした漫画の世界で、私は何の因果か、前世で好きだったその漫画の世界に転生を果たしていた。しかし、原作の漫画と違うのは、私がこの伯爵家ではいじめられているという点だ。
原作上では、幼いころに再婚した父と新たな母となる女性との間に生まれた異母妹を虐め、お金持ちだった伯爵家のお金を浪費、お金に物を言わせるタイプのとんでもない女性だったルーナ。いわば悪役で、漫画の舞台である学園でも傍若無人ぶりを発揮、最終的にヒロインを暗殺しようとして失敗し、殺されてしまった。
しかし、私はそれをしなかった。悪役になって死にたくない一心で、母は違うが妹を可愛がっていたつもりだったし、学園に入学してもヒロインには優しくしていたつもりだった。
「お姉さまって、卑しいのねぇ」
「あっ……」
父は後妻との娘である異母妹ばかりを可愛がり、気が付けば私は使用人同然の生活を送る羽目になったし、私に少しでも優しくしてくれた使用人さんたちは軒並み解雇され、今いるのは私に優しくない人たちばかり。
「やだっ! 本当に汚いんですけど!」
やっとの思いで分けてもらえた古いパンを大事に持って、与えられた部屋へ戻っていると、どこからともなくやってきた妹。彼女にわざとぶつかられて、私はパンを落としてしまった。そのパンしか私の食べるものはないので、たとえ、床に落ちたものだったとしても食べ物だ。
床から拾ってまた大事に抱え直す私を見て、妹は冷たい目で私を見て笑う。いつから私を間違ったのだろうか。それさえも、もう私にはわからない。
「まあ、そんなネズミに構う必要はないわ。早くこちらへいらっしゃい」
「お母さま! あんなネズミ、どこぞへとやってよ!」
「そうねぇ……我がフェアフィールド伯爵家にこんなのがいるなんて知られたら、格が下がってしまうものね」
使用人さんのお仕着せよりもボロボロの服を纏う私は、さぞ、汚く映るだろう。継母たちとは違う服装なのだから。
「これ、外に放り出しておいて」
「かしこまりました、奥様」
私を伯爵家の人間とは思っていない使用人さんに無理やり引きずられて、外へ放り出される。それを見て笑う継母と妹に何も言うことはできなかった。
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