26 / 54
26
しおりを挟む
翌朝は早くに起きて、何とか朝食を食べた。そのあとは護身術の訓練を行い、それが終われば宰相へと報告書やら公務に必要な書類やらを提出したりとやり取りをたくさんした。
「アイリーン王女殿下、少しお顔の色が……」
「大丈夫です、行きましょう」
例の護衛騎士に顔色が悪いと指摘されるが、無理を押してそのまま次のことをする。今日は授業はないが、その分だけ公務が入っていたりする。
しかし、本日の重要ミッションは公務ではない。それは双子の一日に寄り添うことだ。いわば、授業参観みたいなもので、今日一日、公務のない時間であの子たちがやっている授業を見学させてもらうことになっている。
「……そっか」
ぼそりとつぶやいた言葉が誰にも聞かれなくてよかったと思う。魔法実技の授業を見学しているのだけれど、私とは違って将来が楽しみなほどに二人は才能にあふれていた。私のようなそよ風しか起こせない魔法とは違う。それを見て、嫉妬しないわけがなかった。
当たるのは大人げないと分かっているし、才能は人それぞれだと分かっているからこそ、やり場のない自分への怒りが出てくる。
うらやましい、ずるい、私だって。
どんなに努力しても、魔法の才能は開花する兆しを見せなかった。魔法がほとんど使えないと知った王宮の人たちが、失望していたのを私は知っている。嫉妬したって意味がないこともちゃんと理解しているのに、ずるい、と思う気持ちが生まれる。それが本当に嫌で嫌で仕方がない。
自分の中で折り合いがついていると思っていた。できないものはできないし、努力でどうにもできないことだってあることも、きちんとわかっている。それなのに、どうしてこうも辛いのだろうか。
「あねうえさま!!」
「おねえさま!!」
教師に褒められて嬉しそうに魔法を見せてくれる弟妹に、純粋に笑みを浮かべた。やはりどれだけ嫉妬したって愛おしいことに変わりはない。そして、この国を継ぐのは私ではなくこの二人だと、直感できる。きっと、この子たちは素敵な大人になるだろう。
見学時間はあっという間に過ぎ去って、すぐに公務へと戻らなければならない時間となった。護衛騎士を連れて部屋へ戻り、昼食は食べないままに書類と向き合う。あの子たちを見ていたら、私も頑張らなければと思う。価値を示し続けなければ、私に待っているのは死亡フラグ一択、努力しないで搭載済みフラグに殺されるのは冗談じゃない。
「失礼いたします、アイリーン王女殿下」
「……、なんでしょうか」
「これ以上はお身体に障ります、お戻りください」
「もう、そんな時間ですか。わかりました」
夜に図書館へと出かけ、寝る時間になるまで資料を読み込んでいると、またお迎えが来た。あの護衛騎士だろうと思って振り向くと、そこにいたのはロイドさんだった。少しの違和感があったけれど、とりあえずは移動しようと梯子に上って本を返し、また下りた時だった。
「危ない!!」
「っ」
食事が不規則だったのが原因かはわからないけれど、立ち眩みを起こしたらしく身体が傾いていく。頭は一瞬にして真っ白だ。
「アイリーン王女殿下!!大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
「だいじょうぶ、です。少し、立ち眩みを起こしただけのようなので」
「ですが……」
「そんなことよりも、あなたは誰ですか。あなたはロイド様ではないですね」
抱きかかえられた時に気づいた、この人は本物のロイドさんじゃないと。自分に起こった立ち眩みよりもそっちの別人疑惑のほうが大変まずい。よもや、誘拐か。それとも暗殺か。
「アイリーン王女殿下、少しお顔の色が……」
「大丈夫です、行きましょう」
例の護衛騎士に顔色が悪いと指摘されるが、無理を押してそのまま次のことをする。今日は授業はないが、その分だけ公務が入っていたりする。
しかし、本日の重要ミッションは公務ではない。それは双子の一日に寄り添うことだ。いわば、授業参観みたいなもので、今日一日、公務のない時間であの子たちがやっている授業を見学させてもらうことになっている。
「……そっか」
ぼそりとつぶやいた言葉が誰にも聞かれなくてよかったと思う。魔法実技の授業を見学しているのだけれど、私とは違って将来が楽しみなほどに二人は才能にあふれていた。私のようなそよ風しか起こせない魔法とは違う。それを見て、嫉妬しないわけがなかった。
当たるのは大人げないと分かっているし、才能は人それぞれだと分かっているからこそ、やり場のない自分への怒りが出てくる。
うらやましい、ずるい、私だって。
どんなに努力しても、魔法の才能は開花する兆しを見せなかった。魔法がほとんど使えないと知った王宮の人たちが、失望していたのを私は知っている。嫉妬したって意味がないこともちゃんと理解しているのに、ずるい、と思う気持ちが生まれる。それが本当に嫌で嫌で仕方がない。
自分の中で折り合いがついていると思っていた。できないものはできないし、努力でどうにもできないことだってあることも、きちんとわかっている。それなのに、どうしてこうも辛いのだろうか。
「あねうえさま!!」
「おねえさま!!」
教師に褒められて嬉しそうに魔法を見せてくれる弟妹に、純粋に笑みを浮かべた。やはりどれだけ嫉妬したって愛おしいことに変わりはない。そして、この国を継ぐのは私ではなくこの二人だと、直感できる。きっと、この子たちは素敵な大人になるだろう。
見学時間はあっという間に過ぎ去って、すぐに公務へと戻らなければならない時間となった。護衛騎士を連れて部屋へ戻り、昼食は食べないままに書類と向き合う。あの子たちを見ていたら、私も頑張らなければと思う。価値を示し続けなければ、私に待っているのは死亡フラグ一択、努力しないで搭載済みフラグに殺されるのは冗談じゃない。
「失礼いたします、アイリーン王女殿下」
「……、なんでしょうか」
「これ以上はお身体に障ります、お戻りください」
「もう、そんな時間ですか。わかりました」
夜に図書館へと出かけ、寝る時間になるまで資料を読み込んでいると、またお迎えが来た。あの護衛騎士だろうと思って振り向くと、そこにいたのはロイドさんだった。少しの違和感があったけれど、とりあえずは移動しようと梯子に上って本を返し、また下りた時だった。
「危ない!!」
「っ」
食事が不規則だったのが原因かはわからないけれど、立ち眩みを起こしたらしく身体が傾いていく。頭は一瞬にして真っ白だ。
「アイリーン王女殿下!!大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
「だいじょうぶ、です。少し、立ち眩みを起こしただけのようなので」
「ですが……」
「そんなことよりも、あなたは誰ですか。あなたはロイド様ではないですね」
抱きかかえられた時に気づいた、この人は本物のロイドさんじゃないと。自分に起こった立ち眩みよりもそっちの別人疑惑のほうが大変まずい。よもや、誘拐か。それとも暗殺か。
10
お気に入りに追加
2,714
あなたにおすすめの小説
幸せの鐘が鳴る
mahiro
恋愛
「お願いします。貴方にしか頼めないのです」
アレット・ベイヤーは私ーーーロラン・バニーの手を強く握り締め、そう言った。
「君は………」
残酷だ、という言葉は飲み込んだ。
私が貴女に恋をしていると知りながら、私に剣を握らせ、その剣先をアレットの喉元に突き立たせ、全てを終わらせろと言っているのを残酷と言わず何と言うのか教えて欲しいものだ。
私でなくともアレットが恋しているソロモン・サンに頼めば良いのに、と思うが、アレットは愛おしい彼の手を汚したくないからだろう。
「………来世こそ、ソロモンと結ばれる未来を描けるといいな」
そう口にしながら、己の心を置き去りにしたままアレットの願いを叶えた。
それから数百年という月日が経過し、私、ロラン・バニーはローズ・ヴィーという女性に生まれ変わった。
アレットはアンドレ・ベレッタという男性へ転生したらしく、ソロモン・サンの生まれ変わりであるセレクト・サンと共に世界を救った英雄として活躍していた。
それを陰ながら見守っていた所、とある青年と出会い………?
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
虐げられるのは嫌なので、モブ令嬢を目指します!
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢の私、リリアーナ・クライシスはその過酷さに言葉を失った。
社交界がこんなに酷いものとは思わなかったのだから。
あんな痛々しい姿になるなんて、きっと耐えられない。
だから、虐められないために誰の目にも止まらないようにしようと思う。
ーー誰の目にも止まらなければ虐められないはずだから!
……そう思っていたのに、いつの間にかお友達が増えて、ヒロインみたいになっていた。
こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなったのーー!?
※小説家になろう様・カクヨム様にも投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される
葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。
彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。
ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。
父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。
あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。
この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。
さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。
そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。
愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。
※小説家になろうにも掲載しています
申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!
甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。
その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。
その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。
前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。
父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。
そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。
組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。
この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。
その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。
──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。
昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。
原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。
それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。
小説家になろうでも連載してます。
※短編予定でしたが、長編に変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる