上 下
23 / 54

23

しおりを挟む
 医師の診察を待つ間、そうしてずっと話を聞いた。かなりストレスをため込んでいたようで、三人とも泣いていた。泣いているということは、この三人は双子の味方なのだろうと断定できる。うまくいけば、こちらに引き込んであの子たちの味方をもっと作ってあげられるかもしれない。

「アイリーン王女殿下、お話を少し」

「はい、今行きます」

頃合いを見計らってか、医師がこちらにやってきた。

「どうでしょうか」

「栄養状態があまり……」

傷跡は幸いにして残るようなものはないと、詳しく説明をしてくれた。そのことを父に説明するように要請もする。医師の診察があれば父もさすがに動くはずだ。

「失礼いたします。アイリーン王女殿下、陛下がお呼びです」

「わかりました、すぐに」

 そうして少し医師と話をしていると、父の側仕えをしている侍従が呼びに来た。どうやら、あの近衛騎士は私の命令通りに書類を渡したよう。もしかしたら渡してもらえないかも、と心配していたけどそれは杞憂だった。

 それからは、こちらが驚くほどスムーズに事を運ぶことができた。私だけがやきもきしていただけで、本当は父にちゃんとこの件は別口で伝わっていたらしく、私の出る幕はなかったようにも感じる。しかし父はそれでも私を褒めてくれた。今までなら絶対になかったことだ。

「アイリーンよ、もう一つお前には任せたい公務がある」

「はい、陛下」

 父に任された新たな公務、外交に関することが増やされた。外交と言っても他国からの輸入品などを管理することだけれど。それだけだとしても、国内の状況なども管理しないといけないので、意外と難しい公務だ。

「さがってよい」

「はい」

父とはしばらく話をしたが、相変わらず読めない方だ。私のことを信用はしているのだろう、娘として愛してくれているのだろう、それはわかっている。だけど、どこか不審に思ってしまうのだ。私は本当に父の期待通りに動けているのだろうかと。

「疑うなんて、しちゃいけないわね」

父が信用してくれているのだったら、私はその信用を裏切らないように動くだけだ。父の決定に異を唱えないのと同じことをすればいい。父が私の命を握っているようなもの。私が国の役に立てないと判断されたその瞬間に殺されたっておかしくはない。

「アイリーン王女殿下、また事後報告書類が届くかと思いますので、そちらに署名をよろしくお願いいたします」

「わかりました、確認をしておきます」

 父の部屋を退室し、私は双子たちの待っている部屋に帰った。正直、事後報告はありがたい。今後、この王宮内の派閥がどう動くか関係してくると思っているから、報告書類があるのは本当にありがたい限り。王妃様がどうなろうが、本心としては知ったこっちゃない。だけど、あの子たちにとっては大切な母親だ。いつか大人になった時に知りたいと思う日が来るかもしれない。


「あねうえさま!!」

「おねえさま!!」

 ここにいると案内された先で、侍女にお茶を用意してもらってのびのびと遊ぶ双子を見つけた。あちらも私を見つけたようで、嬉しそうに寄ってくる。駆け寄ってこないあたり、厳しいマナー教育を受けているのだと感じた。

 侍女と近衛騎士たちには今後の双子の扱いを軽く伝えて、そのまま側仕えとして側にいるようにとも伝える。詳しい聴取があることも忘れずに伝えておいた。三人は、双子に何もできなかったと、側仕えの資格はないと言うけれど、私からすればあの二人を守った立役者だ。彼女たちこそが側仕えにふさわしい。

「また、この子たちを頼みます」

「はい!!」

「必ずや、お守りします!!」

「この身に代えても、必ず!!」

侍女たちに双子のことを任せて私は授業に行くことにした。授業には間に合っているけれど、お昼ご飯を食べる余裕はない。今から支度をノソノソとされるくらいなら食べないほうがましだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される

葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。 彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。 ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。 父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。 あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。 この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。 さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。 そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。 愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。 ※小説家になろうにも掲載しています

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...