虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

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同じ国の貴族と言えど、考え方に違いが出るのは当然のことだ。リリムでは現在もレジスタンスメンバーが水面下で活動しており、度々、進捗などが手紙で送られてくると兄さまたちから聞いている。手紙も普通に見える内容で送られていて、きちんと検閲対策もされているらしい。

「アルムテアはリリムよりも大きい国、人の流れだって比べられないくらい多い。みんな腹芸が得意、ということですね」

わずかな笑みに遊び心を含ませて言えば、アランには正確に伝わったようでクスクスと笑ってくれる。どこにでも腹を読み合い、食えない相手と笑顔で牽制し合い、そこで戦う必要がある。貴族特有の嫌な戦場、リルも苦手だと笑っていた。

「殿下がそう思われるほどとは……」

アラン自身は露骨なタイプにしか会ったことがなかったと、苦笑い。騎士として従事するにしても、文官などの分野で働いているにしても、隠す人は隠す。むしろ自分の思考を知られるというのは、不利になるから。

「私も、元々はリリム王国の中でも辺境の地を治める伯爵家出身。こんな言い方は変かもしれませんが、王都に住まう貴族からすれば、同じ伯爵位であろうと天と地の差がある田舎者です」

「私は士官学校に通っていたとはいえ、浅学ですので……殿下のご出身であるエインズワース伯爵領のことをあまりよく知らず……その、王都はやはり栄えていた、と」

「気にすることはありません、アラン。私だって、こちらに来て初めてこんなにも様々なことに触れ合う機会を得たのです。そしてあなたの質問に対する答えは、もちろんイエスですね。基本的に、伯爵領から出られなかったので、実際の様子はわかりませんが義妹たちの反応を見るに非常に栄えた都市です」

カミラや継母はよくブティックに出掛けるために頻繁に、王都へ通っていた。ついでにカミラの方は火遊びも激しかったようだが。継母も上手に隠していたので父は知らないが、そこそこ遊んでいたと最近知ったし、後腐れのない関係で遊ぶのは王都ではよくあることのようだ。

「ただ、一極集中、と言えばいいでしょうか。王都ばかりが栄え、王都よりも離れるほどに貧困層が目立ちます」

「それは……治める領主の手腕、ですか」

「それも関係はすると考えられますが、一番は地方があまりいい状況ではない、ということが大きいです」

アルムテアよりも土地が瘦せているのか、作物が単純に合わないのか、原因は調査が為されていないこともあって不明。けれど、伝え聞いた話ではエインズワース伯爵領よりも荒廃した土地があるのだとか。伯爵領は森があるし、私自身も結界を張って守護を維持していた。

よその土地の中には、荒廃した原因が魔物の頻出という理由もあった。森を隔てているし、雪がよく降る地方の辺境、もちろん作物の育ちはよろしくない。伯爵領以外にそんな酷い土地が存在したのか、と当時は驚いたが、国内において魔物対策が必要ないのは王都くらい。

王都に近い都市であれば、そこまで心配することもないかもしれないが、それ以外は常に危険がある。作物が育たない、育っても野生動物に食べられてしまうこともあれば、魔物に襲われる危険性も出てくる。その辺りを含めて考えると、おそらくまだエインズワース伯爵領は地方の中でもマシなほうだ。

「同じ地方でも格差が出るほど、バランスが崩れ去っている。にも関わらず、王都も地方の一部領主たちも、知らないフリ。まもなく、でしょうね」

「まもなく、ですか」

「ええ、もう耐えられないでしょうから」

決壊寸前で維持されている水面、たった一滴でもそこに何かが落ちれば。今までの我慢が、間違いなく噴出する。その状態まで、あの王国は来てしまっている。戻れないところまで、お互いが来てしまったと言うべきか。

貴族の中でも、現状を憂いている人たちはいるようで、味方になってくれている、という連絡もあったが、大半が敵と言える。そして、好き勝手に過ごす貴族に抱え込まれている騎士や兵士の中にも、レジスタンスに隠れて参加している者もいる。

誰もが、己の守りたい大切な人のために、と武力を手にするのだ。解決できなくても、現状を少しでも打破しようと、同じ目的を持つ者とともに。私にはできなかったことを、彼らは自らの手で行い、切り開いていく。

「王城で働く騎士も、地方で働く兵士も、みんな家族がいます。もちろん、地方出身の者もいれば、孤児院から見いだされた者もいます。離れて働いていれば、当然家族が心配です」

アルムテアのように安心して暮らせる場所は、王国にはない。その場所を、これから彼らは作っていくのだろう。今の私にできることはほとんどないけれど、少しでも彼らが穏やかに暮らせる国に変えられるよう、手伝うことくらい。




※諸事情につき、更新がまた止まります。再開がどれくらい早くにできるかもわかりませんが、今後ともよろしくお願いいたします。
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