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「ユーニス嬢、あなたがどんな選択をしたとしても、我々は必ず応援する。できれば皇女として入ってもらいたいが……」
「その心は」
「私だって可愛い娘が欲しい」
陛下はにこやかに応援すると言ってくれたが、続いた第二皇子殿下の発言で、娘が欲しい、という本音が出ていたので、男ばかりなのは陛下も嫌だったようだ。
「さて、ふざけるのはここまでにしてくださいね?」
「はい……」
全く話が進まない、と皇妃様が陛下に怒っていて、やはり勢力的には皇室トップは皇妃様で間違いない。そんな皇妃様のおかげで話も元に戻り、私の身分についての話になった。
「ユーニス、差し支えなければで構わない。よかったら、君のことを教えてほしい」
イアン皇太子殿下からも、私のことを聞かれたが、彼は知っているとばかり思っていた。何せ、彼はレイフ様のお友達でもある。レイフ様からおおよその話くらいは聞いていると思っていたからだ。どうやら、レイフ様は誰にも私のことを言わなかったみたい。
「ユーニス、大丈夫だ」
「……はい」
言おうか迷っている私の手に自身の手を重ねたレイフ様。彼にとても勇気をもらえたし、アルも側に帰ってきて私の近くに待機してくれている。陛下も皇妃様も私のことを利用することはないと、少しだけしか話はできていないが、確信できる。
「母からは、神の子だと言われました。そして、そうであるなら人とは違う部分は隠しなさい、と」
「違う部分、というと例えば、そのアルビスが懐いている点もそうかな?」
「はい。昔から、森に入れば自然の動物が寄ってきて……よく手助けをしてくれました。お腹が空いていたら、木の実を分けてくれたりとか。薬草がたくさん生えている場所を教えてもらったこともあります。魔法も、母曰く適性が高いので、神の子であるのは間違いないと」
「魔法については、イアン兄上から聞きました。ただの石にも魔法付与ができるほどに、優秀だと。私も、魔法には覚えがある方ですが……あなたのように石に魔法付与はできません。私は兄上から話を聞いて、まず挑戦しましたが、そもそも魔法を付与する段階に持っていくことさえもできませんでした」
おそらくその魔法付与の技術も、神の子特有の能力でしょう、と続ける第三皇子シリル殿下。彼の話を聞いていると、どうも普通の魔法使いだろうが、名高い魔法使いだろうが関係なく魔法付与は宝石にしかできなかったらしい。現段階で、帝国内においてただの石を魔法石にすることができるのは、私だけということになる。
「シリルができないのなら、普通の人はできないねぇ。イアン兄さんも俺も、魔法の適性はあるけどそこまでではないし」
「イーデンも俺も、魔法はたしかにまあまあだな」
第二皇子イーデン殿下と皇太子殿下も、シリル殿下の話にふむふむと頷いていた。魔法の適性がどれほど高いのか、というのは基準がわからないので何とも言えない。しかし、シリル殿下は研究所の副所長であり、大変優秀な研究員でもあるということから、その適性はかなり高いはずだ。
「そもそも、イーデン兄上は腕力振りでしょう。私も魔法特化なので、腕力に関してはからっきしですが……」
三兄弟の皇子様方はそれぞれ、得意分野があるらしく、剣術に特化しているのがイーデン殿下。魔法に特化しているのがシリル殿下。その両方をまあまあで使えるのがイアン殿下と、本人たちより解説された。偏りがないので、役割分担しやすい、とカラカラ笑っていたので、互いにコンプレックスを抱く、なんてことはないようだ。
「決定権は、もちろんユーニスちゃんにあるわ。あなたの望みを、私たちは叶えるし、必ず力になる」
優しい笑みの皇妃様に、私は記憶の中で笑っている母を重ねる。母も優しい人だった。笑顔が柔らかくて、でも気高くて。父と母は政略結婚で、父の心が自分にはないと分かっていても、それでも母は伯爵夫人として大きな背中を見せていた。
「……ユーニス」
「レイフ様……」
考えこむ私を、心配そうに見つめるのはレイフ様だ。私がどんな選択をするのか、その選択で私が傷つくことがないか不安だと瞳が訴えかけている。あまり表情が動かない人だと、最初は思っていたけれどこの人は良く見れば、感情表現が豊かな人だと知ったのは、いつだったか。
「私は……」
少ない情報しか持っていなくとも、どこの国の王侯貴族は似たような状況だと判断できる。レイフ様の言葉からも察せられるが、下手な動きをすればそれこそ私自身も危険になる。それらすべてを回避し、どうしても避けられない諍いは皇室が介入できる立場、もう選ぶべきものは一択。
「これからよろしくね、ユーニス」
「その心は」
「私だって可愛い娘が欲しい」
陛下はにこやかに応援すると言ってくれたが、続いた第二皇子殿下の発言で、娘が欲しい、という本音が出ていたので、男ばかりなのは陛下も嫌だったようだ。
「さて、ふざけるのはここまでにしてくださいね?」
「はい……」
全く話が進まない、と皇妃様が陛下に怒っていて、やはり勢力的には皇室トップは皇妃様で間違いない。そんな皇妃様のおかげで話も元に戻り、私の身分についての話になった。
「ユーニス、差し支えなければで構わない。よかったら、君のことを教えてほしい」
イアン皇太子殿下からも、私のことを聞かれたが、彼は知っているとばかり思っていた。何せ、彼はレイフ様のお友達でもある。レイフ様からおおよその話くらいは聞いていると思っていたからだ。どうやら、レイフ様は誰にも私のことを言わなかったみたい。
「ユーニス、大丈夫だ」
「……はい」
言おうか迷っている私の手に自身の手を重ねたレイフ様。彼にとても勇気をもらえたし、アルも側に帰ってきて私の近くに待機してくれている。陛下も皇妃様も私のことを利用することはないと、少しだけしか話はできていないが、確信できる。
「母からは、神の子だと言われました。そして、そうであるなら人とは違う部分は隠しなさい、と」
「違う部分、というと例えば、そのアルビスが懐いている点もそうかな?」
「はい。昔から、森に入れば自然の動物が寄ってきて……よく手助けをしてくれました。お腹が空いていたら、木の実を分けてくれたりとか。薬草がたくさん生えている場所を教えてもらったこともあります。魔法も、母曰く適性が高いので、神の子であるのは間違いないと」
「魔法については、イアン兄上から聞きました。ただの石にも魔法付与ができるほどに、優秀だと。私も、魔法には覚えがある方ですが……あなたのように石に魔法付与はできません。私は兄上から話を聞いて、まず挑戦しましたが、そもそも魔法を付与する段階に持っていくことさえもできませんでした」
おそらくその魔法付与の技術も、神の子特有の能力でしょう、と続ける第三皇子シリル殿下。彼の話を聞いていると、どうも普通の魔法使いだろうが、名高い魔法使いだろうが関係なく魔法付与は宝石にしかできなかったらしい。現段階で、帝国内においてただの石を魔法石にすることができるのは、私だけということになる。
「シリルができないのなら、普通の人はできないねぇ。イアン兄さんも俺も、魔法の適性はあるけどそこまでではないし」
「イーデンも俺も、魔法はたしかにまあまあだな」
第二皇子イーデン殿下と皇太子殿下も、シリル殿下の話にふむふむと頷いていた。魔法の適性がどれほど高いのか、というのは基準がわからないので何とも言えない。しかし、シリル殿下は研究所の副所長であり、大変優秀な研究員でもあるということから、その適性はかなり高いはずだ。
「そもそも、イーデン兄上は腕力振りでしょう。私も魔法特化なので、腕力に関してはからっきしですが……」
三兄弟の皇子様方はそれぞれ、得意分野があるらしく、剣術に特化しているのがイーデン殿下。魔法に特化しているのがシリル殿下。その両方をまあまあで使えるのがイアン殿下と、本人たちより解説された。偏りがないので、役割分担しやすい、とカラカラ笑っていたので、互いにコンプレックスを抱く、なんてことはないようだ。
「決定権は、もちろんユーニスちゃんにあるわ。あなたの望みを、私たちは叶えるし、必ず力になる」
優しい笑みの皇妃様に、私は記憶の中で笑っている母を重ねる。母も優しい人だった。笑顔が柔らかくて、でも気高くて。父と母は政略結婚で、父の心が自分にはないと分かっていても、それでも母は伯爵夫人として大きな背中を見せていた。
「……ユーニス」
「レイフ様……」
考えこむ私を、心配そうに見つめるのはレイフ様だ。私がどんな選択をするのか、その選択で私が傷つくことがないか不安だと瞳が訴えかけている。あまり表情が動かない人だと、最初は思っていたけれどこの人は良く見れば、感情表現が豊かな人だと知ったのは、いつだったか。
「私は……」
少ない情報しか持っていなくとも、どこの国の王侯貴族は似たような状況だと判断できる。レイフ様の言葉からも察せられるが、下手な動きをすればそれこそ私自身も危険になる。それらすべてを回避し、どうしても避けられない諍いは皇室が介入できる立場、もう選ぶべきものは一択。
「これからよろしくね、ユーニス」
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