虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
上 下
33 / 41

33

しおりを挟む
「レイフ様、今お時間よろしいでしょうか?」

「どうしたんだ、そんなにかしこまって。時間は大丈夫だが……」

「あ、あの……ご相談が、あり、ます」

「うん」

イアン兄さまに相談してすぐに、レイフ様に相談はできなかった。どうしても言えなくて、自分なりに考えをまとめてから、ようやく言える覚悟が決まった今日。

「実は、地方へ視察に行きたいと思っています。イアン兄さまに相談して、長期的にスケジュールを組むことで、一回の視察をしっかりと行えるように計画をしていて……」

「視察か。最近、護身術の練習をしていたのはそういうことだったか」

「はい……地方視察にはきちんと目的もあります。私はレイフ様のこ、婚約者として発表されていますが、一応その、皇女という身分をいただいております。その身分に恥じない働きをしたいです。やるべきことは、たくさんありますから」

「……急ぐ必要はないと思っていたが……ユーニスが望むのならば、俺は応援する」

「ありがとうございます、レイフ様」

眉根を寄せてはいるものの、イアン兄さまの言っていた通り、私の考えていることを否定することはなくて。それどころか、応援するとまで言ってくれた。その表情は、大手を振って賛成という感じではないが、私の意思を尊重するという、彼の気持ちを感じられる。

「視察に一緒に行けたらよかったんだがな、俺は帝都を離れられないだろう。その分、俺もやれることがあったらサポートできるようにするから、何でも相談してほしい」

レイフ様の温かな言葉に、少しだけ自信が出てきた。始まる前から、まだ何もしていないのに不安になっていた。何かあるかもしれない、と自信がなかった。決まってすらいないことに、そんなに頭を悩ませる必要はない、だって私は一人じゃないのだから。

「どこからまわっていく、とかも決まっていないので、気候状況などを含めて決定していくつもりです。アルムテアの気候状況も、今は勉強中です」

「アルムテアの北部はエインズワース領よりも厳しい積雪になるし、南部に行けば夏の気温が非常に高くなる。どちらも特徴のある気候だが、年によって南部は雨量が極端に多いん場合もあるしな。逆に北部は積雪量が多くなることもあるから、勉強することは重要だな」

「やはり、年によって変わりますよね……相手は自然ですし、エインズワース領も似たような感じでした。リリム王国内の他の領地がどういう感じだったかまでは、把握できていないですが……」

「それは仕方がないことだ。これから、頑張って行けばいい」

「はい、頑張ります」

もしや険悪ムードになるかも、なんて思っていたが、そんなことにはならずにレイフ様との話が進んでいく。彼自身もウェイン公爵領を治める立場だから、自分の領地を視察することはあるのだろう。気候に注意が必要だというのは、彼がよく感じたことの一つだったと考えられる。

エインズワース領も、年によっては積雪量の多さが全然違ってくるので、当然ながら作物の収穫量も変わる。そこは領地に住まう民たちの状況を正確に把握していなければ、対処できない状況に繋がっていくこともある。

実際に、あの領地では経営者が何も見ていなかったがゆえに、民たちが苦しんだ。通常であれば、収穫量に合わせて納める税金を一律どころか増額させ続けて徴収。その収入はあの一家の贅沢へ消えた。

私はあの場所では無力で、何かをすることはできなかった。少しでも止めることができる力があれば、変わっていたかもしれないと言うのに。発言どころか、存在さえも許されなかった私にできることなど、もう今では外からどうにかする以外にはない。

「レイフ様、私は……みんなが平等とは言いません。でも、みんなが幸せを感じられる場所を守ることは、大事なことだと思っているんです」

レイフ様には言えなかった言葉を、部屋に戻ってきたときにつぶやく。今はアルも窓から外へ出ていったために、本当に一人だ。心の中に秘めたものは、なかなかに言い難い。感情を抑えるため、ということもあるが、言いづらいことはそれなりにある。

「その幸せも、感じられる状況にするのが私たちの仕事だけどね……」

後悔ばかりが募っているけれど、それに囚われたままでは何もできない。私は、過去を悔いるのを辞めて前を向かなければならないのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...