23 / 41
23
しおりを挟む
「それでは、失礼いたします。ユーニス皇女殿下」
「ありがとうございました」
皇女お披露目の時期が決まったので、日々ダンスの特訓や、貴族の知識だけでなく皇族に必要な知識を叩き込む。幸いにも、先生方は優しい人ばかりで、よく褒めてくれるのでモチベーションを維持できている。これでモチベーション維持が難しかったら、キツイ毎日だったのは目に見えている。
すでにお披露目はまだでも、通達は出ているので、私の教師である先生方は私を皇女扱いする。おそらく、そう呼ばれることへ慣れさせる名目もあるのだろう。最初は背筋がもぞもぞする感覚があって、変な感じになっていたが、今ではそう言うこともない。
「ユーニス様、少し休憩をいたしませんか?」
「アン……ありがとうございます。ちょうど、休もうかなと思っていました」
頃合いを見計らっていつも声をかけてくれるアン。彼女の間合いを読むスキルは、本当に素晴らしい。タイミングよく現れるので、実はどこかで見ているのでは、と思うこともしばしば。
「お茶をどうぞ」
変わらない優しい笑みのアンは、私が皇女だと先に通達が為されても態度を変えることはなかった。もちろんそれはこの屋敷にいる人たち全員もそう。変わらず私に接してくれるアンは、忙しくなった私のサポートを懸命にしてくれる。
「ユーニス」
「レイフ様!」
遠慮がちに部屋へ入ってきたのはレイフ様。彼も、皇女の通達以降とても忙しいようで、毎日のように手紙が届いているのだとか。内容はお茶会のお誘いが主らしい。ようは、みんな新しく迎え入れられた皇女が気になるってことだ。
「頑張っているな、教師たちが教えることがなくなる、と嘆いていたぞ」
「私にできることを、精いっぱいすると決めましたから」
「ユーニスらしいな。そうだ、これを渡そうと思ったんだ」
何か用事があってきたのだろうということは予想ができていたが、まさかドレスを持ってこられるとは思わなかった。お披露目では一緒に婚約発表も行うから、皇室ではなくレイフ様がドレスを選ぶことになったのだそう。
「父上も母上も、ユーニスにこれを使ってほしいと送ってきている」
先日、私が皇女として通達がされる直前にレイフ様のご両親である先代ウェイン公爵夫妻にもお会いした。レイフ様と一緒に会ったけれど、とてもよく似ているご両親で、私のこともすんなりと受け入れてくださった。
「これ、は……?」
「ウェイン公爵夫人になる女性が、婚約披露の際につけるネックレスだ。結婚式当日は結婚式専用のティアラもある」
「ゆ、由緒正しきお品……わ、私が使っていいんですか?」
「当然だ、君はもう公爵夫人になることが決まっているからな」
「あ……は、はい……」
代々受け継がれているのだと言うネックレスは、気軽に受け取っていいものではない思うが、次に使うのは私だから、と渡される。あまりにあっさりとしているので、そんなに簡単に渡していいものだったのかと戸惑った。
「ドレスは、お披露目も結婚式もどちらも作るからそのつもりで」
「は、はい!」
今日のご飯にも飢えていた私からすると、ドレスを仕立てるなんて恐れ多すぎる。しかし、今後は公爵夫人として立場がある人間になる。そのことを考えると、人前に出るときだけでもドレスを仕立てたり、一級品を使うことへ慣れる必要があると思った。普段着はシンプルにしてもらえたら、嬉しいけどね。
「次も、頑張れ」
「ありがとうございます、レイフ様」
そろそろ次の授業だろう、と退室するレイフ様に声をかけてもらう。少しの気遣いでも、私にとっては頑張る力になる。彼には支えてもらってばかりだ。
「私も、頑張らなくちゃ」
皇女お披露目まではそんなに時間がない。数多くの貴族がその日は集うことになる。もちろん、王都周辺に住まう貴族だけでなく、辺境の地を治める貴族も、他国の王侯貴族も来る。それまでに皇女として隙のない振る舞いを身に付けなければならない。
「大丈夫、だいじょうぶだよ」
母の教えは私のことをいつだって勇気づけてくれる。至らない部分を補うように、教えられたことは私をカバーする。そのおかげで勉強にだってついて行けるのだ。
「ありがとうございました」
皇女お披露目の時期が決まったので、日々ダンスの特訓や、貴族の知識だけでなく皇族に必要な知識を叩き込む。幸いにも、先生方は優しい人ばかりで、よく褒めてくれるのでモチベーションを維持できている。これでモチベーション維持が難しかったら、キツイ毎日だったのは目に見えている。
すでにお披露目はまだでも、通達は出ているので、私の教師である先生方は私を皇女扱いする。おそらく、そう呼ばれることへ慣れさせる名目もあるのだろう。最初は背筋がもぞもぞする感覚があって、変な感じになっていたが、今ではそう言うこともない。
「ユーニス様、少し休憩をいたしませんか?」
「アン……ありがとうございます。ちょうど、休もうかなと思っていました」
頃合いを見計らっていつも声をかけてくれるアン。彼女の間合いを読むスキルは、本当に素晴らしい。タイミングよく現れるので、実はどこかで見ているのでは、と思うこともしばしば。
「お茶をどうぞ」
変わらない優しい笑みのアンは、私が皇女だと先に通達が為されても態度を変えることはなかった。もちろんそれはこの屋敷にいる人たち全員もそう。変わらず私に接してくれるアンは、忙しくなった私のサポートを懸命にしてくれる。
「ユーニス」
「レイフ様!」
遠慮がちに部屋へ入ってきたのはレイフ様。彼も、皇女の通達以降とても忙しいようで、毎日のように手紙が届いているのだとか。内容はお茶会のお誘いが主らしい。ようは、みんな新しく迎え入れられた皇女が気になるってことだ。
「頑張っているな、教師たちが教えることがなくなる、と嘆いていたぞ」
「私にできることを、精いっぱいすると決めましたから」
「ユーニスらしいな。そうだ、これを渡そうと思ったんだ」
何か用事があってきたのだろうということは予想ができていたが、まさかドレスを持ってこられるとは思わなかった。お披露目では一緒に婚約発表も行うから、皇室ではなくレイフ様がドレスを選ぶことになったのだそう。
「父上も母上も、ユーニスにこれを使ってほしいと送ってきている」
先日、私が皇女として通達がされる直前にレイフ様のご両親である先代ウェイン公爵夫妻にもお会いした。レイフ様と一緒に会ったけれど、とてもよく似ているご両親で、私のこともすんなりと受け入れてくださった。
「これ、は……?」
「ウェイン公爵夫人になる女性が、婚約披露の際につけるネックレスだ。結婚式当日は結婚式専用のティアラもある」
「ゆ、由緒正しきお品……わ、私が使っていいんですか?」
「当然だ、君はもう公爵夫人になることが決まっているからな」
「あ……は、はい……」
代々受け継がれているのだと言うネックレスは、気軽に受け取っていいものではない思うが、次に使うのは私だから、と渡される。あまりにあっさりとしているので、そんなに簡単に渡していいものだったのかと戸惑った。
「ドレスは、お披露目も結婚式もどちらも作るからそのつもりで」
「は、はい!」
今日のご飯にも飢えていた私からすると、ドレスを仕立てるなんて恐れ多すぎる。しかし、今後は公爵夫人として立場がある人間になる。そのことを考えると、人前に出るときだけでもドレスを仕立てたり、一級品を使うことへ慣れる必要があると思った。普段着はシンプルにしてもらえたら、嬉しいけどね。
「次も、頑張れ」
「ありがとうございます、レイフ様」
そろそろ次の授業だろう、と退室するレイフ様に声をかけてもらう。少しの気遣いでも、私にとっては頑張る力になる。彼には支えてもらってばかりだ。
「私も、頑張らなくちゃ」
皇女お披露目まではそんなに時間がない。数多くの貴族がその日は集うことになる。もちろん、王都周辺に住まう貴族だけでなく、辺境の地を治める貴族も、他国の王侯貴族も来る。それまでに皇女として隙のない振る舞いを身に付けなければならない。
「大丈夫、だいじょうぶだよ」
母の教えは私のことをいつだって勇気づけてくれる。至らない部分を補うように、教えられたことは私をカバーする。そのおかげで勉強にだってついて行けるのだ。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる