20 / 41
20
しおりを挟む
あとは若い二人で、とまるでお見合いのような言葉を残して一時退室したお父さまたちは、ニコニコしていて。私の本当の家族のように温かだった。
「ユーニス」
「本当は、こんな形で知らせるつもりではなかったんですが……その。ずっと待たせてしまってすみませんでした」
「いや、いいんだ。聞かせてくれるか?」
「はい……」
二人きりと言ってもアルは同じ場所にいるが、アルはアルでのんびり過ごしていた。そんな静かな空間で、私は自分の思いを溢す。こんな感情も全て隠さないといけないと思っていたけれど、彼だけは隠さなくていいと言ってくれた。彼だけが、私を見つけてくれた。
「嬉しいよ」
きつく抱きしめられて、息が止まりそうだ。でもその苦しさは、私にとって嫌なものじゃない。まるで何かを確認するかのようなそれに、ひどく安心を覚える。
「陛下たちもそろそろ、待ちくたびれているだろう」
「そうですね、きっと首を長くして待っています」
ふふ、と笑みをこぼすと彼も軽く噴き出していて。私たちの周囲を、アルも飛び回っていて、なんだか祝福されているように感じた。
「丸く収まったようで何より。ここからは私が、引き継ぐことになった。イーデンは騎士団に、シリルは研究所へ戻った。父上と母上も対策を考えるらしい。俺はここで出た案を持って二人の対策に追加する役目だな」
「イアン……」
「レイフからそう呼ばれるのは久しいな。学院ぶりか?」
「茶化すな……」
本当に仲のいい関係だったようで、互いの名前を呼び捨てにしあうイアン兄さまとレイフ様。同い年だと言う二人は、帝国内にある帝立学院でもずっと一緒だったと、懐かしそうに兄さまが言った。
「ユーニスは、今回の発表に何か思うこととかはないのか?」
いきなり兄が三人、というか皇帝一家が家族になって自分の皇女になることについて思うことがないわけではない。急に兄と呼ぶのに慣れなくても、無理にでも呼ばないとどこかでボロが出る。そう思って違和感なく呼びなれるように兄さま、お父さま、お母さまと意識をして呼んでいるわけであるが。
「私はまだ、この国の貴族のことをよく知らない。そんな私が言うのも可笑しいかとは思いますが……一般的に自身の利益を優先する者は多くいます。それは貴賤関係なく、あるはずです。だから、このまま私の立場のお披露目と同時に婚約発表をするのであれば、私の背景を利用すればいいと思います」
「利用?」
不思議そうに首をかしげる二人に、私は覚束ない説明ながらも伝えた。実話を脚色して伝えれば、そこまで反発は招かないはずだと。私はリリム王国の辺境伯爵領で育ったが、あまりいいとは言えない環境で育った。それを偶然そちらの方へ魔物の討伐の関係で出向いていた二人に出会う。そしてここに来るに至った経緯を言えば、まあ矛先は変えられるはず。
「なるほど、責任の所在を王国へ投げるわけか」
「はい、王国は十年以上前とはいえ、他国のそれも同盟国から皇女が嫁いできているのに、何もしていない。それは、大きな過失であると私は考えます。通常であれば、少しは気にかけるはずです。何せ、嫁いできているのは他国の皇女なのですから」
同盟国と言えど、アルムテア帝国とリリム王国の関係は仲良しというわけではない。それはリリム王国にいた時から……あの狭い世界にいた時からわかっていた。戦争を起こしたいわけじゃないけど、私の存在を忘れ去り、何もしなかったリリム王国は私がアルムテア帝国にその身を引き取られても文句は言えない。だって、何の支援もしなかったんだから。
「我が妹は、なかなかに賢いようだな」
「母に、たくさんのことを教わりました。その中には少ない情報でも、状況を把握する術が含まれていましたので……私は、教わったことを忘れたくない」
「……ユーニス」
母との記憶は、本当に数少ない。でもその一つひとつは、私の大切なものだ。忘れたくない、一つも取りこぼしたくない。その思い出は、私と母の大切な時間。
「ユーニスの言う通り、王国側へその責任を押し付けると言うのもいい案だ。しかし……国家間の諍いは免れない。それはどうするつもりなんだ」
「何か、国家間でいい材料となる取引があれば、それで代替するのがいいかと。私はリリム王国とアルムテア帝国の間で何か交易などがあるのかは、さすがにわかりません。なので、そのあたりを使うのも手ではあると。あとは……リリム王国内の情勢を考えると……」
伯爵家の屋敷の側からほとんど出たことがないが、遠き思い出の母との外出で、昔の事ではあるけれど一応は領地の景色が残っている。その時に感じた、悲しい気持ちも。
「ユーニス」
「本当は、こんな形で知らせるつもりではなかったんですが……その。ずっと待たせてしまってすみませんでした」
「いや、いいんだ。聞かせてくれるか?」
「はい……」
二人きりと言ってもアルは同じ場所にいるが、アルはアルでのんびり過ごしていた。そんな静かな空間で、私は自分の思いを溢す。こんな感情も全て隠さないといけないと思っていたけれど、彼だけは隠さなくていいと言ってくれた。彼だけが、私を見つけてくれた。
「嬉しいよ」
きつく抱きしめられて、息が止まりそうだ。でもその苦しさは、私にとって嫌なものじゃない。まるで何かを確認するかのようなそれに、ひどく安心を覚える。
「陛下たちもそろそろ、待ちくたびれているだろう」
「そうですね、きっと首を長くして待っています」
ふふ、と笑みをこぼすと彼も軽く噴き出していて。私たちの周囲を、アルも飛び回っていて、なんだか祝福されているように感じた。
「丸く収まったようで何より。ここからは私が、引き継ぐことになった。イーデンは騎士団に、シリルは研究所へ戻った。父上と母上も対策を考えるらしい。俺はここで出た案を持って二人の対策に追加する役目だな」
「イアン……」
「レイフからそう呼ばれるのは久しいな。学院ぶりか?」
「茶化すな……」
本当に仲のいい関係だったようで、互いの名前を呼び捨てにしあうイアン兄さまとレイフ様。同い年だと言う二人は、帝国内にある帝立学院でもずっと一緒だったと、懐かしそうに兄さまが言った。
「ユーニスは、今回の発表に何か思うこととかはないのか?」
いきなり兄が三人、というか皇帝一家が家族になって自分の皇女になることについて思うことがないわけではない。急に兄と呼ぶのに慣れなくても、無理にでも呼ばないとどこかでボロが出る。そう思って違和感なく呼びなれるように兄さま、お父さま、お母さまと意識をして呼んでいるわけであるが。
「私はまだ、この国の貴族のことをよく知らない。そんな私が言うのも可笑しいかとは思いますが……一般的に自身の利益を優先する者は多くいます。それは貴賤関係なく、あるはずです。だから、このまま私の立場のお披露目と同時に婚約発表をするのであれば、私の背景を利用すればいいと思います」
「利用?」
不思議そうに首をかしげる二人に、私は覚束ない説明ながらも伝えた。実話を脚色して伝えれば、そこまで反発は招かないはずだと。私はリリム王国の辺境伯爵領で育ったが、あまりいいとは言えない環境で育った。それを偶然そちらの方へ魔物の討伐の関係で出向いていた二人に出会う。そしてここに来るに至った経緯を言えば、まあ矛先は変えられるはず。
「なるほど、責任の所在を王国へ投げるわけか」
「はい、王国は十年以上前とはいえ、他国のそれも同盟国から皇女が嫁いできているのに、何もしていない。それは、大きな過失であると私は考えます。通常であれば、少しは気にかけるはずです。何せ、嫁いできているのは他国の皇女なのですから」
同盟国と言えど、アルムテア帝国とリリム王国の関係は仲良しというわけではない。それはリリム王国にいた時から……あの狭い世界にいた時からわかっていた。戦争を起こしたいわけじゃないけど、私の存在を忘れ去り、何もしなかったリリム王国は私がアルムテア帝国にその身を引き取られても文句は言えない。だって、何の支援もしなかったんだから。
「我が妹は、なかなかに賢いようだな」
「母に、たくさんのことを教わりました。その中には少ない情報でも、状況を把握する術が含まれていましたので……私は、教わったことを忘れたくない」
「……ユーニス」
母との記憶は、本当に数少ない。でもその一つひとつは、私の大切なものだ。忘れたくない、一つも取りこぼしたくない。その思い出は、私と母の大切な時間。
「ユーニスの言う通り、王国側へその責任を押し付けると言うのもいい案だ。しかし……国家間の諍いは免れない。それはどうするつもりなんだ」
「何か、国家間でいい材料となる取引があれば、それで代替するのがいいかと。私はリリム王国とアルムテア帝国の間で何か交易などがあるのかは、さすがにわかりません。なので、そのあたりを使うのも手ではあると。あとは……リリム王国内の情勢を考えると……」
伯爵家の屋敷の側からほとんど出たことがないが、遠き思い出の母との外出で、昔の事ではあるけれど一応は領地の景色が残っている。その時に感じた、悲しい気持ちも。
1
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました
ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる