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あれからキース様にさんざん遊ばれた私は、お風呂に入っていた。もちろん、噛み痕やらキスマークやらが大量についた身体なんぞ人様に見せられるものではないので、一人で入っている。
「あいたたた……」
鈍い痛みを訴える腰や股関節に、苦笑いが浮かぶ。過激な言葉を言われはしたものの、一応は理性があったらしい。ナカに出されはしなかった。
「ノア、大丈夫か」
「は、はいっ!」
ゆっくりと、のんびり湯船に浸かっていると、外からキース様のお声がかかる。こうして遅いと度々、身に来るのだ。
「着替え、置いとくからな」
「あ、ありがとうございます」
そして彼自ら、私の着替えを用意してくれる。なんでも、たとえ侍女と言えど、私の世話をするのは妬いてしまうとのこと。私としても、誰かにお世話をしてもらうのは慣れていないので、キース様の心遣いがありがたい。
「そろそろ、出ないと、ね……」
キース様と穏やかな日々を過ごせるようになって、ずいぶんと傷は癒えた。心の傷はなかなか難しいけれど、身体の傷はほとんど残っていない。
それも、すべてキース様とお父様、お母様のおかげだ。傷痕が残らないようにと専用の薬を取り寄せたり、定期的な医師の診察を受けさせてくれたりしたから。
「でも、いいの、かな……」
けれど、それでも大きな傷はいくつか残ってしまう。ほとんどないといっても、残るものがある。それは私の心に大きな棘となって刺さっていた。
バスタオルに身を包み、大きな姿見の前で背中を見る。鞭で打たれた痕がくっきりと残っている場所があり、そこはドレスを着ても見えてしまう位置だった。
「相応しい、のかな……」
急に不安感が押し寄せてくる。大丈夫だと分かっているのに、こんな身体、本当はダメなのではないか、と思ってしまう。
「ノア、俺はありのままのノアを愛しているよ」
「キ、キース様?!」
洗面台に手をついて、傷だらけの自分から目を逸らす。そのためにキース様がやってきていたことに気が付けなかった。落ち込む私をギュッと後ろから抱きしめて囁く彼に、自然と涙がこぼれた。
「だっ、て……」
こんな身体、汚い、と言いいたくても言葉が出ない。
「それは、お前がたくさん頑張った証だろう。それを否定する必要はないよ」
優しく、傷があってもなくてもいい、と伝えてくれる。そう、この傷は私が耐えてきた証だ。だからこそ、私は自分で自分を否定するその言葉が言えなかった。たとえ、本当にこの傷だらけの身体が汚いとわかっていても、思っていたとしても、それは私が諦めずに主様のお側に立つために頑張ってきたもの。
厳しいオルブライト家のすべてを教育されて、主様に相応しい従者として努力を重ねてきた証。簡単に自分でそれらを否定できるものではなかった。
「ノア、大丈夫だ」
こくり、と俯いたまま頷く。前よりもずっと伸びた髪が頬に触れる。私はもう孤独な従者じゃない。オルブライト家では愛されなかったけど、私を愛してくれる人がいる。もう、愛がほしいと泣かなくていい。
全てを認めてくれるキース様がいるから。
「あいたたた……」
鈍い痛みを訴える腰や股関節に、苦笑いが浮かぶ。過激な言葉を言われはしたものの、一応は理性があったらしい。ナカに出されはしなかった。
「ノア、大丈夫か」
「は、はいっ!」
ゆっくりと、のんびり湯船に浸かっていると、外からキース様のお声がかかる。こうして遅いと度々、身に来るのだ。
「着替え、置いとくからな」
「あ、ありがとうございます」
そして彼自ら、私の着替えを用意してくれる。なんでも、たとえ侍女と言えど、私の世話をするのは妬いてしまうとのこと。私としても、誰かにお世話をしてもらうのは慣れていないので、キース様の心遣いがありがたい。
「そろそろ、出ないと、ね……」
キース様と穏やかな日々を過ごせるようになって、ずいぶんと傷は癒えた。心の傷はなかなか難しいけれど、身体の傷はほとんど残っていない。
それも、すべてキース様とお父様、お母様のおかげだ。傷痕が残らないようにと専用の薬を取り寄せたり、定期的な医師の診察を受けさせてくれたりしたから。
「でも、いいの、かな……」
けれど、それでも大きな傷はいくつか残ってしまう。ほとんどないといっても、残るものがある。それは私の心に大きな棘となって刺さっていた。
バスタオルに身を包み、大きな姿見の前で背中を見る。鞭で打たれた痕がくっきりと残っている場所があり、そこはドレスを着ても見えてしまう位置だった。
「相応しい、のかな……」
急に不安感が押し寄せてくる。大丈夫だと分かっているのに、こんな身体、本当はダメなのではないか、と思ってしまう。
「ノア、俺はありのままのノアを愛しているよ」
「キ、キース様?!」
洗面台に手をついて、傷だらけの自分から目を逸らす。そのためにキース様がやってきていたことに気が付けなかった。落ち込む私をギュッと後ろから抱きしめて囁く彼に、自然と涙がこぼれた。
「だっ、て……」
こんな身体、汚い、と言いいたくても言葉が出ない。
「それは、お前がたくさん頑張った証だろう。それを否定する必要はないよ」
優しく、傷があってもなくてもいい、と伝えてくれる。そう、この傷は私が耐えてきた証だ。だからこそ、私は自分で自分を否定するその言葉が言えなかった。たとえ、本当にこの傷だらけの身体が汚いとわかっていても、思っていたとしても、それは私が諦めずに主様のお側に立つために頑張ってきたもの。
厳しいオルブライト家のすべてを教育されて、主様に相応しい従者として努力を重ねてきた証。簡単に自分でそれらを否定できるものではなかった。
「ノア、大丈夫だ」
こくり、と俯いたまま頷く。前よりもずっと伸びた髪が頬に触れる。私はもう孤独な従者じゃない。オルブライト家では愛されなかったけど、私を愛してくれる人がいる。もう、愛がほしいと泣かなくていい。
全てを認めてくれるキース様がいるから。
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