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「ありがとう、ございま」
「きゃあ!!」
初めてをたくさん知ることができて、本当に嬉しくて、お礼を言おうとした時だった。わざとらしい悲鳴と共に水が上から降ってきた。
「うわ、汚らしい犬じゃない」
「ちょっと、ベインズさん。あなた何をしているの」
突然のことに未だに状況が飲みこめず、水をかけられた、と認識した時にはイザベル様が静かに怒っていた。ベインズ、との言葉に彼女が水をかけたことを理解する。そして汚らしい犬と言う言葉。彼女は私がどんな扱いを受けていたのかを知っているのかもしれない。本当は、私が主様にふさわしくないということを知っているのかもしれない。
「あらぁ、ごめんあそばせ?どうも汚いモノが目の前にあって、綺麗にしてあげようと思ったの」
「ベインズさん、イザベル様に対して不敬です。それ以上は見過ごせません」
「誰に向かって口をきいているのかしら。あれだけ痛めつけられて、まだ言えるの?これだから躾けのなっていない犬は嫌いなのよ」
歪な形をした口で浮かべる笑み。アレを彼女は見ていたというの?その恐怖にさっきまでのイザベル様に対する不敬からの怒りが冷めてしまいそうになる。
「面白かったわ、とっても。あなたのあの、絶望した、か・お」
耳元で囁かれ、語尾が甘えた声になりゾッとした。やっぱり彼女はあの日のことを知っている。あの日、私がイザベル様にもらったお菓子を踏みつけられた日の教育を。
「じゃあね、罪人さん」
しっかりと吹き込むように耳につぶやかれた言葉は私の気持ちを暗闇へと落としていく。ベインズ嬢はヒラヒラと手を振ってその場を離れていってしまう。ここには水をかけられた私と、呆然とするイザベル様だけ。あとは何ごとかと、こちらを見る学生しかいない。
「ノア、無事か」
「あ、るじ、さま」
「キース、ノアが!!」
「わかっている、イザベル」
騒ぎを聞きつけてか、主様、ランドルフ様、カーティス様がこちらに走ってやってきた。水に濡れてしまった私に制服の上着をかけてくださる主様。主様に悟らせてはいけないと、なぜか瞬時に思った。私がどんな扱いをされて育ったのか、主様にはまだ詳しく言っていない。知られたくなかったから。食事がどんなものだったのか、どうこう言ったのもイザベル様が初めてだった。
「震えているな」
そっと主様に横抱きにされて、その場を連れだされる。ランドルフ様は目に涙を浮かべたイザベル様をそっとその腕で隠すように連れている。カーティス様は周囲の人を牽制していた。
「もうし、わけ、ありません・・・」
「いい、気にするな。お前のせいじゃない、ノア」
弱くなった私は、主様の腕の中で震えるしかできない。なんと、無力なのだろうと思う。この程度、主様の手を煩わせるにはいかないと言うのに。
「きゃあ!!」
初めてをたくさん知ることができて、本当に嬉しくて、お礼を言おうとした時だった。わざとらしい悲鳴と共に水が上から降ってきた。
「うわ、汚らしい犬じゃない」
「ちょっと、ベインズさん。あなた何をしているの」
突然のことに未だに状況が飲みこめず、水をかけられた、と認識した時にはイザベル様が静かに怒っていた。ベインズ、との言葉に彼女が水をかけたことを理解する。そして汚らしい犬と言う言葉。彼女は私がどんな扱いを受けていたのかを知っているのかもしれない。本当は、私が主様にふさわしくないということを知っているのかもしれない。
「あらぁ、ごめんあそばせ?どうも汚いモノが目の前にあって、綺麗にしてあげようと思ったの」
「ベインズさん、イザベル様に対して不敬です。それ以上は見過ごせません」
「誰に向かって口をきいているのかしら。あれだけ痛めつけられて、まだ言えるの?これだから躾けのなっていない犬は嫌いなのよ」
歪な形をした口で浮かべる笑み。アレを彼女は見ていたというの?その恐怖にさっきまでのイザベル様に対する不敬からの怒りが冷めてしまいそうになる。
「面白かったわ、とっても。あなたのあの、絶望した、か・お」
耳元で囁かれ、語尾が甘えた声になりゾッとした。やっぱり彼女はあの日のことを知っている。あの日、私がイザベル様にもらったお菓子を踏みつけられた日の教育を。
「じゃあね、罪人さん」
しっかりと吹き込むように耳につぶやかれた言葉は私の気持ちを暗闇へと落としていく。ベインズ嬢はヒラヒラと手を振ってその場を離れていってしまう。ここには水をかけられた私と、呆然とするイザベル様だけ。あとは何ごとかと、こちらを見る学生しかいない。
「ノア、無事か」
「あ、るじ、さま」
「キース、ノアが!!」
「わかっている、イザベル」
騒ぎを聞きつけてか、主様、ランドルフ様、カーティス様がこちらに走ってやってきた。水に濡れてしまった私に制服の上着をかけてくださる主様。主様に悟らせてはいけないと、なぜか瞬時に思った。私がどんな扱いをされて育ったのか、主様にはまだ詳しく言っていない。知られたくなかったから。食事がどんなものだったのか、どうこう言ったのもイザベル様が初めてだった。
「震えているな」
そっと主様に横抱きにされて、その場を連れだされる。ランドルフ様は目に涙を浮かべたイザベル様をそっとその腕で隠すように連れている。カーティス様は周囲の人を牽制していた。
「もうし、わけ、ありません・・・」
「いい、気にするな。お前のせいじゃない、ノア」
弱くなった私は、主様の腕の中で震えるしかできない。なんと、無力なのだろうと思う。この程度、主様の手を煩わせるにはいかないと言うのに。
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