男装従者と転生悪役令嬢の受難

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「ノア、触れてもいいか」
「我が身は主様のものです。そう確認などされなくとも良いのです」
なぜ、そんなことを聞くのだろうと思う。この身は主様に捧げたものだ、主様が私に対して許可を取らなくてもいいと言うのに。
「それでも、あんなことをした俺が言うのもなんだが、お前を大事にしたいんだ」
「そ、れは・・・」
「ノア、俺はノアを愛してる」
「あ、主様！？」
「ずっと俺の側にいて」
「わ、わたしは・・・」
昨日とは打って変わって優しい主様の声。流されてしまいそうだ、主様に。私は疎まれた子、生まれてきてはいけなかった子。主様の優しさの上でいつまでもいてはいけない。
「ノア、俺のためだけに生きろ。お前の目に、俺以外を映す必要はないし、その耳に俺以外の声を聴く必要もない」

主様には、何でもお見通しみたいだと思った。私はこの身の純潔を主様に捧げてしまった、それがこのアークライト家ではどういう意味を持つのかも知りもしないで。私の罪は生まれてきたことだと言うのに、これ以上罪を重ねてどうするというのだ。私はただのアークライト家の分家筋の、忌み子。後ろ盾もない、何の役にも立てない、いらない子。
「私は、主様のお役にも、アークライト家のお役にも立てません。後ろ盾も何もありません。そもそも私は生まれてはいけなかった子なのです。本来であれば、主様のお側にいることも・・・いえ、生きていることさえも許されてはいないのです」
お前さえいなければ、その言葉を聞くたびに苦しかった。誰かに愛してほしい、私も愛されたい、そんな願いを打ち砕くような言葉。
「誰がそんなことを？」
心臓を掴まれたかのような、緊張感が一瞬にしてこの場を支配した。さっきまでの優しい声はどこいったのか、同じ声のトーンなのに、主様が怖い。

「っあ、その・・・」
「いや、聞くだけ無駄だな。ああ、ノアに怒っているわけじゃないんだ。すまない、怖がらせてしまった」
また元に戻った主様は優しく笑いかけてくださり、私なんかのために主様のジャケットをひざ掛けにしてくれる。
「主様、その、私のようなものにこれ以上は・・・」
「俺がしたいからしているんだ。ノア、自分を貶めるのはやめろ。お前はこの俺が選んだ唯一の伴侶」
「主様、私にそのような情けは不要です。どうか一思いに切り捨ててください。そうすれば、わたっ」
「ノア、何度も言わせるな。お前はアークライト家の跡取りである俺、キース・アークライトが選んだ妻だ。たとえお前自身であろうと、否定をすることは許さない」
「もう、しわけあり、ません」

主様の怒りに触れてしまい、主様の怒気に身体が震えてしまう。思ったよりも主様に貫かれたときの恐怖というのは残っているようで、震える身体を制御できない。
「わかればいい、ノア。俺がノアを苦しめるものすべてから守る、お前を害そうとする者は全部、払い除ける。だから、どうか俺の側にいて」