ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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番外編 78 -気になる俳優さんの素顔-

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仁人さんと結婚式を挙げて、正式に結婚したということを書面でも発表して数年。無事に大学を再び卒業した私にもいろいろあった。まず、せっかく入り直した大学だったが、学科を変えたりだとかね。

「奏、料理本の依頼がある」

「うぅん……」

「いいと思うけど、俺は。あ、でも奏の手料理をみんなが知るのは腹が立つかも」

「同担拒否みたい……」

「間違いではないな、ある意味」

「仁人さん、またファンの人に弄られても知らんで」

「別にいい」

「ひ、開き直った……」

最初は社畜時代の経験から心理関係に進んでいたけれど、仁人さんとの出会いを経て、栄養士などの方面に方向性を変え、転科試験を受け栄養学部を卒業した。思い切って転科したおかげで、結婚後からやっている仁人さんのオフィシャルアカウントの動画チャンネルで、度々一緒に企画をしている。

顔出し断固拒否の仁人さんによって、私の顔は隠されているので、前みたいに外へ出ても取材が来る、なんてことはない。そもそも、あの時がおかしかっただけでもあるが。

「でもなぁ、料理本なんて出すほどのもんやないけんど」

「コメント見てたら、気持ちはわかるけどな。普通に食べてみたい、って思うし、手順も簡単。挑戦しやすい」

「そりゃあねぇ、ちゃんと考えちゅうよ。やっぱり、料理ってみんなが毎日するもんやき、少しでも苦やないもんにしちゃりたいやん」

一時期はすでに結婚発表をしているにも関わらず、関係を匂わせる女優さんもいたが、仁人さんのファンのおかげで自滅していったのは記憶に新しい。そして前から公表してはいたが、ファンの人たちの情報もあって、今では仁人さんの愛妻家という世間の評価は芸能界で一番だ。

周りから見ても溺愛具合がすごい仁人さん、熱い要望に応える形で動画チャンネルを作成し、そこで私との日常というか、料理を作って食べるだけの動画を配信している。ちなみに私にはよくわからないけれど、見る人たちからすれば本当に嬉しいらしく、毎度大人気らしい。

ありがたいことに、私の作る料理を参考にしているとコメントも多くもらっている。最近はバレンタイン用とか季節行事向けのお菓子なんかも、簡単にできるように配信してみたり。そういう季節行事向けは、恋する女の子たちに絶大な人気だと、鹿島さんから聞いた。

「そういえば、もう一つ。質問コーナーみたいなものをやってみては、と鹿島さんから言われた」

「質問コーナー?」

「ああ、俺と奏の二人で、お互いに聞きたいことを質問して答える。追加でコメントによく来る質問も答える、って企画」

「それ、私の需要はないと思う」

「鹿島さんと俺から言わせると、奏の方が熱望されてる」

「えぇ……」

どうも、完全メディア拒否の仁人さんによって、隠された存在でありながら確かに現実に存在する奥さん、という私はあまりにも秘密すぎてむしろ気になるらしい。さらに仁人さんが過保護に溺愛している、となると余計に知りたいとのこと。

まあ、芸能界で一番と言われるほどの愛妻家の評価を持つ彼が、そこまでのめり込む、となると気になるのは当然かもしれない。自分のことだから、そのあたりの評価は過大だとは思うけど。

「ほら、これとかな」

「うわぁ……恥ずかしい……」

【藤木くんのどこが好きとか、めっちゃ知りたい。いつも藤木くんの方から奥さんの話聞くから、たまには】

なんてコメントを見れば、それこそ惚気でしかない。この人、一体何の話をしているんだ、とも思うが、彼はバラエティー番組でもよく惚気を連発しているらしいので、もはやいつものこと。

「仁人さん、自重して……」

毎度のごとく惚気が始まるため、藤木仁人ファンの間では惚気エピソード集なるものが作られているんだとか。新しい内容が追加されるたびに、界隈は賑わっていると鹿島さんがニコニコしていた。

クールな印象が強い仁人さん、私の話や辛い物が苦手と言ったことは、彼の印象に悪影響を及ぼすのでは、と心配していたが、いい方向へそれらは作用したのがありがたい。近年では主役・悪役・脇役問わず様々なドラマや映画で活躍しており、バラエティーなどもいろいろ出ている。

社長さんからも、仁人さんの演技の幅の広がりや安定した精神状態に体調と、大きく成長が感じられる、と以前話をしていただいた。仁人さんの両親も、少しずつ歩み寄りをしているようで、たまに連絡が来ると、彼が複雑な表情ではあったが報告してくれる。

専ら、最近のどこぞのサイトでは仁人さんの惚気エピソードが検索上位ランキングに入っているらしいので、いい加減キャラ崩壊では、と心配にはなった。でも、それ以上に、少しでも彼の素の部分を含めて藤木仁人という役者を愛してくれている人がたくさんいるのは、純粋に嬉しいよね。

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