ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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番外編 75

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最初に私が試着したドレスは、仁人さんの選んだものではなく、担当さんが選んでいたものだった。と言っても、私のために選んだのではなく、どんな形のものがあるのか、というのを見せてもらうために出してくれていたものだったのだが。

それは一番人気だというプリンセスラインの豪奢なドレスだった。細かな装飾やレースがふんだんにあしらわれていて、まさしくお姫様のようなドレス。自分にどういう形のドレスが似合うかもわからなかった私はそのドレスをまず試着したが、どうも衣装に着られている感が否めなかった。

「それでは、また次回に細かな部分を決めていきましょう」

「はい、ありがとうございました」

結局、ドレスを仁人さんに選んでもらったら、ドンピシャでよかったので、彼の見る目はすごいと思う。さて新郎である仁人さんのタキシードは新婦ほど衣装が多かったわけではないので、わりとすぐに決まったのは言うまでもない。彼も自分に似合う色をよくわかっているので、私もこれはどう、と目を引いたタキシードを着てもらうくらいで終わった。

そんなこんなで、二時間ほどの衣装合わせを終えた私たちは、式場を出て家へ帰る。今日の衣装合わせの写真はたくさん撮ったので、帰ったら家族に送るのだ。母も父も、私たち二人の衣装の写真が見たい、と連絡が来ていた。早めに送ってあげないと電話が鳴りそうだ。

「ご飯、すぐに作るね」

「手伝うよ」

「ありがとう」

「今日は何にするんだ?」

「プルコギにしようかと思ってる。コチュジャンもあるし、ニラも玉ねぎもあるき」

帰宅して母には写真を送った後。お夕飯の支度に取り掛かろうと、エプロンをつけてキッチンに立った。すぐ仁人さんもついてきて、手伝うと言って彼も持っているエプロンを身に着けていた。

ラフな服装にエプロン姿だって、さまになる。イケメンってずるい、なんてクスリと笑えば彼には不思議そうな顔をされた。私たちは二人並んで調理に取り掛かり、私が切った食材を仁人さんに炒めてもらったり、お皿に盛り付けてもらったりした。

「あんまり辛くないき、食べやすいと思う」

「あ、本当だ。これも食べられる辛さだ、美味い」

「よかった」

出来上がったプルコギを食べての感想に、安心する。彼は辛いものが苦手だから、極力、辛さを控えたものを作りたい。元々、私も辛いものが苦手なので、とても辛いと言うようなものは作ることがないが、私は大丈夫でも彼が大丈夫じゃない、ってことはあるので。

「いつも思うけど、奏は料理が上手だよな」

「え、あ、あぁ……まあ、それなりに料理する機会はあったからかも? 」

「なんで疑問形?」

「あー、うん。私の家、親が仕事の関係で忙しくて……一人でご飯を食べることも多かったし、作ることも多かったの」

大人になってから両親と話ができるようになった。それまではまともに話すことさえもできず、ただ言われた通りにレールの上を歩いていたようなものだ。

「前に言ったと思うけど、あんまり仲良くなかったの。そういうこともあってね、料理は割と早い段階で覚えたよ」

たくさん失敗したし、包丁の扱いだって最初は下手くそだった。ほぼ毎日、嫌でも料理をしなければならない状況になれば、さすがに上達もしたけど。

「ごめん、奏」

「どうして?」

「言いづらいことを、聞いたから」

「そんなことない、今は気にしてないから大丈夫。ありがとう」

前は、親が嫌で仕方がなかったけれど、もうそんなことはない。嫌なこともあったし、死んでしまう方がマシかもしれないと思ったこともあった。でも、また歩き出せば素敵な人と巡り合えた。

人生って、本当に何があるかわからないよね。

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