ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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番外編 73

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「お料理……どうしようかなぁ」

仁人さんはお仕事で不在、私は大学から帰ってきてお夕飯の支度中だ。そんな中で披露宴の食事をビュッフェにするのかコース料理にするのかで迷う。

「高知だったら皿鉢(さわち)とかもあるがやけどなぁ」

ここは東京、高知の結婚式でも出されることがある皿鉢料理は当たり前ながら、そもそも選択肢になかった。何年か前に招待された親戚の結婚式、披露宴がかなり大規模だったのだが、そこでは皿鉢料理だった。ほかにも結婚式をした親戚もいたが、そちらはコース料理がでたので、選ぶ人にもよる。

「まあ、私も皿鉢らぁ正月くらいやしな。あ、いや、もうちょっと食べるか……。とにかく、私的にはお父さんも堅苦しいのが嫌いやき、ビュッフェかな。後は仁人さんの意見を聞いてから」

ちなみに本日のお夕飯は、どんぶり系にしようと思って具材を切っていたところだ。仁人さんからはもうすぐ帰ると連絡をもらっているので、何事もなければまもなく帰宅するはず。

「あ、そういえば……お母さんから頼まれちゅうことがあったな」

ぐつぐつと鍋で煮込んでいる間に、母親からの連絡をチェックする。結婚式の招待をどうするか、という内容だ。招待客が親族でいるのならば、早めに報告してスケジュールを調整してもらいなさい、と来ている。

「あの子たちにはまだ、結婚式するって言うてなかったわ。そら言わないかんけんど……大丈夫かね?」

『招待するがやったら、前もって言うちょっちゃっちょって』なんて言われたら、言うしかない。何せ、従妹たちには結婚相手の話まで詳しくしていなかった。結婚するとは言っていたが、まだ誰ととか、顔合わせもしていないもので。

「そらねぇ……言うちょかないかんろうけんど……うーん、心配やな。反応が」

母は、仁人さんの人気を知っている。だからこそ、従妹たちに衝撃が少ないように言え、と言っているのだ。たしかに、私も従妹たちの誰かが突然、有名人連れてきて結婚しますって言われたら驚く。

「奏、ただいま」

「おかえり、仁人さん」

「どうしたんだ? そんなつぶやいて」

「あ、えーと……その。まだ従妹たちに仁人さんと結婚するって言ってなくて……。結婚するのは言ってるけど、誰ととは言ってないから、母がびっくりさせないように先に言うちょきやって」

「なるほどね、それは言っておいたほうが良いかもな」

仁人さんと暮らし始めてから、私は方言をあまり隠さなくなったので、よく方言が飛び出している。たまに聞き返されることもあるが、ニュアンスでわかるようになった、と言われると嬉しいものだ。

余談だけど、うちの両親はがっつり方言で喋るので、わかりづらいものは私が間に入って通訳することがある。さすがにわからない表現は仕方がない。

「ひいとい、遊びにいくのもえいけんど……呼べんきな」

「ひいとい?」

「あ、一日、のこと。従妹たちと一日遊ぶ機会をもらって、そのときに言うのもありかなって」

「へえ、一日のことをひいといって言うのか」

「最近の子はあんまり使わんかもやけど、お父さんとかはよう使うで」

仁人さんから、方言で喋ってほしい、という希望もあって、方言を使うがなんだか違和感があることもある。やっぱり、都会に住んでいるからだろうか、なんて。

「あ、美味そうだな」

「今日はちょっとだけピリ辛のどんぶり。私も辛いもんは苦手やき、そんな辛うはないと思う」

今は方言で話すことにも慣れて、だいぶ隠していた喋り方が出てきたので、バイト先なんかで方言が出ないように気を付けている。仁人さんや鹿島さんは付き合いが長くなってきたので、わかってくれることもあるが知らない人からしたら何を喋っているのかわかりづらい。

「いただきます」

「はい、どうぞ」

「うまいな、すごくうまい。俺でもこの辛さは全然大丈夫」

「よかった!」

今日あったことなんかをお互いに話し、結婚式の内容も少しだけ話をする。準備はずいぶんと進んでいて、今や細かいところの決定とドレス選びまで進んできている。
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