ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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番外編 72

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「奏、今いいか?」

「あ、はい!」

大学で講義がないから休日の私と、たまたま仕事が休みだった仁人さん。のんびりとした朝を過ごし、私も自室の片づけをして一息ついたところだった。開け放っていた自室のドアから顔をのぞかせた仁人さんに、私は側へ近寄る。

「こら、また敬語になってる」

「う……すみませ、じゃなかった、どうしたの?」

「今日、時間あるならこの式場に行ってみないか?」

「あれ、ここってこの間の……」

「ああ、今ちょうどフェアをやっているらしくてな。さっき電話で問い合わせたら、混雑もしてないからいつでも大丈夫だって」

仁人さんがスマホで見せてくれた画面には先日もらった、結婚式場のパンフレットの中にあった式場の一つ。あれから話をして、仁人さんと私のお互いが納得できる結婚式をしよう、と方向性は決まった。

仁人さんは人気芸能人、どうしても仕事の関係上ひっそりとお式をすることは難しい。身内向けの結婚式と仕事での付き合いがある人たち向けの結婚式、二回するのはどうか、と彼からは最初に提案があった。

私はというと、二回も結婚式をする費用の高さを考えてしまい、どうしてもそれに頷けないでいた。仁人さんの仕事の関係者となると同じ俳優さん仲間だけでなく、制作に関わる人たちもいる。もちろん、所属事務所の社長さんだって来る。

どうしても規模が大きくなってしまうのを、仁人さんは気にしていて。披露宴を大きく、挙式は内輪でという最初の予定で結局は落ち着いたのだけれどね。

「綺麗な挙式場……」

人前式、神前式、仏前式、教会式など。主流なスタイルをそれぞれ調べ、集めた式場のパンフレットも照らし合わせて、最終的に人前式に落ち着いた。一般的にチャペル式は結婚式場にあるチャペルだと知って、二人で驚いたりもした。

「披露宴の会場規模も十分、対応ができる。挙式は挙式、披露宴は披露宴、ってしっかりと分けられそうだと思ってさ」

人前式にすると決めてから、いくつか候補は絞っていたが、やはり実際に見に行ったほうが早い。せっかく仁人さんが確認もしてくれたのなら、行ってみよう、と二人で早速出かけることとなった。

「ここ、最初の頃に仕事で来たことがある。まだ駆け出しで、名前もない役だったから、結婚式の列席者として座ってた」

「お仕事で……」

よく仕事の話や、売れる前の話もするようになった仁人さん。式場のスタッフさんに案内されながら会場を見て、コソコソと話をする。最後に見せてもらったチャペルが写真で見るよりもずっと綺麗で、心がワクワクするような場所。

「なんだか、落ち着く雰囲気だね」

「そうだろ、それが俺はいいなって」

真っ白、というわけではなく、ウッディ感もあって身内で挙式するのに良さそうだ。真っ白のチャペルも憧れはあるけれど、緊張が強くなりそう。

「こちらへどうぞ」

事前に仁人さんの事情をお伝えしていたためか、個室へ通されて詳しく話を聞くことになった。こちらの希望する内容を聞いて、スタッフさんは笑顔で全部叶えられます、と言い切ってくれる。披露宴の規模も大まかに伝えると、それならと併設されている隣の披露宴会場がいいと紹介もしてくれて。

「ここに、しようか」

「うん、仁人さん」

二人で考えて結婚式をこの場所で挙げることにした。そこからは挙式の日取りなどの日程から、規模、前撮りやらなにやらと、たくさんの資料とともに次回の打ち合わせ日まで決まり。次の打ち合わせでさらに詳しく決めないといけないので、家に帰ってもやることは山積みになることとなった。
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