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「奏、身体は大丈夫か?」
「は、はい……」
初めて抱かれてから数時間、ようやく解放された私は甲斐甲斐しく世話を焼かれていた。お風呂にまで一緒に入ってこようとするのを止めて、なんとか一人で入り。結局、震える足腰では移動ができなかったので連れて行ってもらったのは言うまでもないが。
「じゃあ、髪乾かすぞ」
「お願いします」
だるい身体を動かしてお風呂場を出た私は、そのまま着替えて仁人さんのいる場所に向かった。そしてソファに座らされる。髪を乾かしてくれるとのことだった。ドライヤーで丁寧に乾かし、最後は櫛まで使って仕上げてくれる仁人さん。本当に至れり尽くせりで。
「うん、可愛い」
髪を綺麗に梳かした彼は、満足そうにつぶやいた。


「奏、これからの話をしよう」
「はい」
 少しだけ仮眠をとった私たちは、起き上がってコーヒーを飲みながら椅子に腰かけて話をする。仁人さんは芸能人だから、いろいろと声明を出したりとしなければならないらしい。
「一応、事務所を通して結婚報告を出すつもり。奏のことは何も出さないから安心してほしい。それから、結婚式なんだけど……」
「結婚式、ですか?」
「うん、それなりに大きな式になりそうなんだ。もし嫌だったら最低限に絞るけど、深い付き合いのある芸能人仲間もいたりするからさ……できれば、呼びたいっていうか……」
「大丈夫です。私のほうは……その、あまり招待する方がいないので、差が出るかもしれませんが……」
「全然、気にならないよ。ありがとう、奏。結婚式は内輪にするつもりだから、披露宴のほうが大きくなるし」
具体的な招待客はあとで考えるとして、と仁人さんは言った後、雑誌を複数冊出した。どれもウェディング雑誌で、中にはカタログも入っていた。
「式場の希望とかあるなら、と思って買っておいたんだ。ちなみにこっちは仕事の関係で伝手があったところのカタログ。このカタログのところは洋装も和装もあるし、式場併設かな」
分厚いものから、ちょっと薄めのものまで、雑誌自体は様々。その中には白無垢や色打掛などをメインにしているものや、ドレスがメインのもの、両方を同じくらい載せているものと、バランスよく集められている。
「招待する人数によって、どこで披露宴をするのかは考えないといけないけど……さ。俺、わがままだから、奏にはドレスも白無垢も着てほしい」
「よ、予算の問題もありますから……」
売れっ子芸能人である仁人さんの前でいうことではなかったけれど、私だって、額が少なくてもお金は出したい。
「それもそう、だな……」
「すみません、失礼だとはわかっているんですけど……。仁人さんだけにお金の負担はかけたくなくて」
「ううん、そうやってちゃんと言ってもらえるほうがいい。結婚は一人ではできないからな」
一人で結婚式はできない、たしかにその通りだ。相手がいて初めて成立するものだから。まずはどこの式場にするとかを私たちは話し合った。その話し合いはとても楽しかった。


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番外編もここで完結とさせていただきます。
また話を追加した際には、どうぞよろしくお願いいたします。
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