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「別れ話じゃないからね、奏ちゃん」
「俺は、別れるつもりなんて一切ないからな」
あまりにも思いつめた表情をしていたからなのか、別れ話を否定されてますますよくわからない。別れ話でないなら、なんだというんだ。
「これからのこちらのスケジュールを少し話しておこうと思ってね」
「スケジュール……、ですか?」
「そう、スケジュール。仁人の仕事のスケジュールはこんな感じで、年末年始はお休み取ってるから空いてるよ」
スケジュール帳を出してわかりやすいように指し示しながら一つ一つ教えてくれる鹿島さん。そのスケジュール帳は恐ろしいほど予定が詰まっていて、日によっては分単位。それでよく年末年始のお休みが取れたな、なんて思う。
「なんで……」
「二人はずっと会っていなかっただろう?その間にできていたはずの話し合いも、コミュニケーションも何もできなかった。正直、ストレスをためた仁人には手を焼かされてね……。だから、この際二人で存分に恋人をしてもらおうと思って」
仁人さんに抱きしめられた時も泣いたのに、また涙が溢れてくる。そんな時間をわざわざ作ってもらわなくても、私は大丈夫なのにって思うと同時に嬉しいと思い上がってしまう。
「奏、俺が一緒にいたいんだ。時間を割きたいと思うのも、どんなに忙しくてしんどくたって会いたいって思うのも奏だけだから」
「そういうわけだから、奏ちゃん。二人でよく話し合ってね、俺、帰るから」
鹿島さんはさっさとその場からいなくなってしまって、私は真剣な顔の仁人さんと二人きりにされてしまった。なぜだかそれが気まずくて仕方がない。
「俺と、結婚してくれませんか」
「……?」
「急で驚いていると思うし、嫌かもしれない。でも、俺……。奏と会えなくなって気づいた。いつまでもこんな守れない距離に奏をいさせたくない。何より俺が奏がそばにいないと何もできないってことに気づいた。俺にとって奏は人生を支えてくれている存在なんだ」
「そん、な、こと、して、な」
「してる。奏がいなかったらメンタルも何も整えられないし、生活だってまともにできない。イライラしてばっかりで、何度、記者たちに怒鳴りそうになったことか」
「っく、ふ、うぅ……」
「実は、俺の両親にも奏の両親にも結婚の許しはもらってるんだ。あとは、奏が頷いてくれたら嬉しい」
「わたし、は……」
結婚できません、その言葉が出てこない。本当はずっとそばにいたい、でもそれをしてもいい、シンデレラの時間は終わった。私にかけられた魔法は。終わったのだ。
「ごめん、なさい」
ようやく絞り出せた言葉は、ただの謝罪の言葉だった。そして私が、町娘に戻る時間が来てしまった。
「俺は、別れるつもりなんて一切ないからな」
あまりにも思いつめた表情をしていたからなのか、別れ話を否定されてますますよくわからない。別れ話でないなら、なんだというんだ。
「これからのこちらのスケジュールを少し話しておこうと思ってね」
「スケジュール……、ですか?」
「そう、スケジュール。仁人の仕事のスケジュールはこんな感じで、年末年始はお休み取ってるから空いてるよ」
スケジュール帳を出してわかりやすいように指し示しながら一つ一つ教えてくれる鹿島さん。そのスケジュール帳は恐ろしいほど予定が詰まっていて、日によっては分単位。それでよく年末年始のお休みが取れたな、なんて思う。
「なんで……」
「二人はずっと会っていなかっただろう?その間にできていたはずの話し合いも、コミュニケーションも何もできなかった。正直、ストレスをためた仁人には手を焼かされてね……。だから、この際二人で存分に恋人をしてもらおうと思って」
仁人さんに抱きしめられた時も泣いたのに、また涙が溢れてくる。そんな時間をわざわざ作ってもらわなくても、私は大丈夫なのにって思うと同時に嬉しいと思い上がってしまう。
「奏、俺が一緒にいたいんだ。時間を割きたいと思うのも、どんなに忙しくてしんどくたって会いたいって思うのも奏だけだから」
「そういうわけだから、奏ちゃん。二人でよく話し合ってね、俺、帰るから」
鹿島さんはさっさとその場からいなくなってしまって、私は真剣な顔の仁人さんと二人きりにされてしまった。なぜだかそれが気まずくて仕方がない。
「俺と、結婚してくれませんか」
「……?」
「急で驚いていると思うし、嫌かもしれない。でも、俺……。奏と会えなくなって気づいた。いつまでもこんな守れない距離に奏をいさせたくない。何より俺が奏がそばにいないと何もできないってことに気づいた。俺にとって奏は人生を支えてくれている存在なんだ」
「そん、な、こと、して、な」
「してる。奏がいなかったらメンタルも何も整えられないし、生活だってまともにできない。イライラしてばっかりで、何度、記者たちに怒鳴りそうになったことか」
「っく、ふ、うぅ……」
「実は、俺の両親にも奏の両親にも結婚の許しはもらってるんだ。あとは、奏が頷いてくれたら嬉しい」
「わたし、は……」
結婚できません、その言葉が出てこない。本当はずっとそばにいたい、でもそれをしてもいい、シンデレラの時間は終わった。私にかけられた魔法は。終わったのだ。
「ごめん、なさい」
ようやく絞り出せた言葉は、ただの謝罪の言葉だった。そして私が、町娘に戻る時間が来てしまった。
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