ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

文字の大きさ
上 下
60 / 79

60

しおりを挟む
 ルビとスタールビーの魔力が増幅しているのは肌で感じられる。だから確かにそこにいるとわかるのだが、視認できないのだ。
 これが鉱物人形の戦闘?
 魔力が高まっているからだろう、ふたりから溢れ出す魔力が紅玉色の光として捉えられるようになった。
 蛇型の魔物が翻弄されているのがわかる。
 右へ、左へ。
 首も尻尾も使える部分は使って動いているが、彼らを捉えきれていないようだ。魔物にとって、この屋内は狭すぎるのかもしれない。
 衝撃波や咆哮で建物が軋み、揺れる。その都度、アメシストが結界を張り、シトリンが剣で飛翔体を弾いた。

「すごい……」
「一撃で仕留めるのかと思ったけど、慎重ね」
「そうなんですか?」
「彼らにとっても、あまり敵対したことのない相手なんでしょう。慎重なのはいいことよ」

 セレナは答えながら、手を動かしている。術の準備のようだ。

「ところで、セレナさんはなにを?」
「倒したら毒素が充満、みたいなのもあるからね。精霊管理協会の制服ってその辺のことも考慮されていて術が編み込まれているんだけど、念には念を」
「現場に出ているだけありますね……」

 ひょっとしたら、セレナの準備が整うのを待っているのかもしれない。彼女の手が止まったとき、赤い光が蛇型の魔物を分断した。
 私の前方、地面に着地する音が二つ。すぐさまスタールビーが手をかざして結界を張る。
 魔物が霧散した。蛇型の血煙が周囲の闇に溶けていく。

「――倒せたから引くぞ。ほかに魔物はいないはずだ」

 結界は消さずに、スタールビーが告げる。

「呼吸はしないほうがいい。腐るぞ」

 ルビが剣を虚空にしまうなり説明してくれた。彼の服の一部が溶けている。鉱物人形は衣装も含めて身体の一部だと説明されたのを思い出した。
 私が手を伸ばそうとしたところで、アメシストが私を横抱きにする。

「治療は後だよ。脱出しよう」

 建物が焼ける音がする。魔物がいたあたりの床が溶け始めていた。
 私が頷いたのを確認して、撤退作業に入る。階段を降りて、来た道を辿って外に出た。

「よっ。お疲れ様だったな」

 先に脱出していたオパールと合流した。彼の足元には腕と身体が別々にまとめられたステラが倒れている。大きな人形が落ちているみたいな感じで、どことなくシュールだ。

「サンプルが取れなかったけど、まあ仕方がないわよねえ」

 オパールに向かって、セレナが肩をすくめた。オパールが苦笑する。

「データが取れりゃ充分だろ? 始末書と報告書、オレも手伝うからあんまり無茶してくれるな。きみは人間で、オレの伴侶なんだから。鉱物人形の未亡人とか、勘弁願いたいんだが」
「そっちもあんまり格好つけないでほしいわね」
「後輩に戦闘を見せるのが今回の仕事に含まれているんだろ? 任務を遂行しただけなのに、その言い方はないだろ」

 ふたりのやり取りを見ていると、互いを信頼し心配していたのがよく伝わってくる。何かあったときにすぐに回復させたい都合で結婚しているのだとオパールは言っていたはずだが、彼らがパートナーとして選んだのは必然だったのだろうと思えた。
 精霊管理協会の職員になるなら結婚必須みたいだけど、じゃあ精霊使いはどうなんだろう?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!

汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が… 互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。 ※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...