ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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58 ‐藤木仁人‐

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「藤木さん、一般女性の方とお付き合いをされているというのは本当ですか!?」
「藤木さん!!熱愛報道について何か一言!!」
まとわりついてくる記者、週刊誌に奏と付き合っていることが抜かれてからずっとこんな感じだ。俺は記者に囲み取材をされることは慣れている。でも奏はそうじゃない。奏は本当に一般人だ、絶対ここで食い止めなければ奏に被害が出る。
「藤木さん、彼女さん、こんな女性なんですね!!お付き合いに至った経緯を教えてください!!」
その一言は、強烈な一言だった。俯く奏を無理やり写したような写真をスマホの画面に表示させてこちらに見せる一人の記者がいた。幸いにして、髪の毛に隠れて彼女の顔はほとんど写っていないが、雰囲気や服装なんかは見る人が見れば誰かわかってしまうような状態で。
「彼女は、一般人です。執拗に彼女を追うのはやめていただけますか」
彼女に迫られたということで、その記者たちに怒鳴りそうな自分を必死で抑え込み、努めて冷静に無表情で怒りを示す。
「住む世界が違うと、思ったことはありませんか!?」
「ご結婚予定などがあるということでよろしいでしょうか?!」
こちらの事情を考えもせずに次から次に質問が飛んでくる。奏もこんな目にあったんだと思うと、どうしても許せない。
「仁人、時間だ」
「はい、鹿島さん」
小声で後ろに控えていた鹿島さんからそろそろ出るようにと促されたため、一言、釘を刺すことにした。
「私にとっての彼女は心から大切に思う存在です。これ以上、彼女への付きまといなどを繰り返すようでしたらしかるべき措置を取らせていただきます」
要は邪魔する奴は馬に蹴られてしまえ、ということである。事務所のほうでは、すでに俺と奏の仲は公認状態だから、俺がどんなに交際を肯定しても問題はない。
「仁人、よく耐えたな」
「うん、鹿島さん……。俺、自分でもそう思う」
長い付き合いの鹿島さんには俺がキレそうだったのがバレていたみたいだ。本当に、よく耐えたなと思う。
「とりあえず、奏ちゃんに連絡しておけよ」
「そのことなんだけど……。俺、奏に何も言われてない……」
「俺のところにも来てないけど、俺たちを彼女は慮ってくれたのかもしれないな。彼女はそういう人だろう。遠慮がちで優しい、人のことを思いやれる人だ」
「たしかに……、それはそうだけど……」
奏は俺に何も言わなかった。そのことが気がかりで仕方がない。電話は時間がなくてできていないけれど、メッセージを送ればちゃんと返事は来るから油断していた。守るといったのに、守れていない自分が恥ずかしい。今度は奏にもっと気を付けないと、大事なサインまで見逃してしまいそうだ。
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