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朝になった、仁人さんが東京へ出立する日だ。
「おはよう、奏」
「おはようございます、仁人さん」
「もう、行かなくちゃならない……。奏の家は、楽しいところだった」
「いつでも、ここに、来てください。私も、私の両親もいつだってあなたを迎え入れます」
「本当にありがとう……、元気になったよ」
「よかった」
帰る支度の済んだ仁人さんのいる客間で少し話をする。昼に乗る便の搭乗手続きが始まるより前に着くようにでなければならないため、少し早めに出ることになっている。運転は両親がしてくれると言っているので、私は仁人さんと後部座席に座る予定だ。
「奏ー、仁人君ー、そろそろ時間でー」
母が玄関から呼ぶので、私は仁人さんを玄関まで連れていく。父は車を車庫から出していた。
「今日はご飯でもどっかで食べてから空港まで行こうかね」
「そうだね、あのお店とかいいかも」
空港まで行く道のりの合間にはいくつもお店がある。そこのモーニングでも食べて仁人さんを元気づけたい。そう思っているのは私だけではない。
「そんな、そこまでは……」
「いいがよ~、次もおいしいところ連れて行っちゃおうき、今日はここに行こうや」
仁人さんは一応、変装用にマスクも伊達メガネもしているから、マスクを外しても大丈夫だと思うし、今日行くところは個人経営の喫茶店なので騒がしいところではない。
「ありがとうございます、本当に……」
そんなわいわいとした車、到着した喫茶店もほどよく空いており、ちょうどいい時間だった。しっかりと朝食を食べて、父がすべて支払ってくれた。仁人さんはそのことにも申し訳なさそうにしていたが、車の中で父が息子だと宣言したために、今度は恥ずかしそうにしていた。
「仁人さん、また、東京でお会いしましょう」
「うん」
「仁人君、元気でね。いつでも帰ってきてえいきね」
「はい、お義母さん」
「仁人君、疲れた時にゃ休みに来たらえい。いつでもうちは歓迎するきにゃあ、遠慮らぁ、せんだちかまん。頑張ってきい」
「はい、お義父さん」
ありがとうございました、と言って頭を下げてゲートへ消える仁人さん。手を振る私たちにそっと手を振り返してくれた彼はそのまま見えなくなった。こうして、仁人さんは誰にもバレることなく私の実家で休み、また東京へと戻っていった。最後に仁人さんは私の両親をお義父さんお義母さんと呼んでくれた。それが嬉しくて。両親もどこか嬉しそうで、帰りの車内は別れの悲しさよりも嬉しさが勝っているようだった。
「奏、アンタもあと一週間で行くがか……。寂しいもんやね」
「お母さん……。また戻ってくるよ。それに連絡だってするし」
「俺も寂しいにゃあ……。一人娘やきに、寂しいもんよ……」
「お父さん……。今度の長期休暇にはまた帰ってくるから……」
家に帰りついたころ、両親はそう言って少し寂しそうにする。そんな表情をされると私も寂しくなる。
「一生会えんわけじゃないがやき、そんなしんみりしなちや」
「そうやね、また帰ってきてよ」
「うん、もちろん」
「おはよう、奏」
「おはようございます、仁人さん」
「もう、行かなくちゃならない……。奏の家は、楽しいところだった」
「いつでも、ここに、来てください。私も、私の両親もいつだってあなたを迎え入れます」
「本当にありがとう……、元気になったよ」
「よかった」
帰る支度の済んだ仁人さんのいる客間で少し話をする。昼に乗る便の搭乗手続きが始まるより前に着くようにでなければならないため、少し早めに出ることになっている。運転は両親がしてくれると言っているので、私は仁人さんと後部座席に座る予定だ。
「奏ー、仁人君ー、そろそろ時間でー」
母が玄関から呼ぶので、私は仁人さんを玄関まで連れていく。父は車を車庫から出していた。
「今日はご飯でもどっかで食べてから空港まで行こうかね」
「そうだね、あのお店とかいいかも」
空港まで行く道のりの合間にはいくつもお店がある。そこのモーニングでも食べて仁人さんを元気づけたい。そう思っているのは私だけではない。
「そんな、そこまでは……」
「いいがよ~、次もおいしいところ連れて行っちゃおうき、今日はここに行こうや」
仁人さんは一応、変装用にマスクも伊達メガネもしているから、マスクを外しても大丈夫だと思うし、今日行くところは個人経営の喫茶店なので騒がしいところではない。
「ありがとうございます、本当に……」
そんなわいわいとした車、到着した喫茶店もほどよく空いており、ちょうどいい時間だった。しっかりと朝食を食べて、父がすべて支払ってくれた。仁人さんはそのことにも申し訳なさそうにしていたが、車の中で父が息子だと宣言したために、今度は恥ずかしそうにしていた。
「仁人さん、また、東京でお会いしましょう」
「うん」
「仁人君、元気でね。いつでも帰ってきてえいきね」
「はい、お義母さん」
「仁人君、疲れた時にゃ休みに来たらえい。いつでもうちは歓迎するきにゃあ、遠慮らぁ、せんだちかまん。頑張ってきい」
「はい、お義父さん」
ありがとうございました、と言って頭を下げてゲートへ消える仁人さん。手を振る私たちにそっと手を振り返してくれた彼はそのまま見えなくなった。こうして、仁人さんは誰にもバレることなく私の実家で休み、また東京へと戻っていった。最後に仁人さんは私の両親をお義父さんお義母さんと呼んでくれた。それが嬉しくて。両親もどこか嬉しそうで、帰りの車内は別れの悲しさよりも嬉しさが勝っているようだった。
「奏、アンタもあと一週間で行くがか……。寂しいもんやね」
「お母さん……。また戻ってくるよ。それに連絡だってするし」
「俺も寂しいにゃあ……。一人娘やきに、寂しいもんよ……」
「お父さん……。今度の長期休暇にはまた帰ってくるから……」
家に帰りついたころ、両親はそう言って少し寂しそうにする。そんな表情をされると私も寂しくなる。
「一生会えんわけじゃないがやき、そんなしんみりしなちや」
「そうやね、また帰ってきてよ」
「うん、もちろん」
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