ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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明け方、そろそろ起きるのがしんどくなってきたな、と思い始めたころに、わずかに襖の開く音がしてそちらへ移動した。すると、仁人さんが真っ青な顔で立っていて、思わず駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「だ、いじょう、ぶ……じゃ、ない……。きもちわるい……」
「と、トイレ行きましょう!!」
ふらつく仁人さんの身体を支えて、一階のトイレに駆け込み、気持ち悪さをいったん、マシにするために全て吐き出させた。
「ごめ、ごめん、かなで……」
余りの顔色の悪さに、これは父の飲ませすぎと疲れ切っているところに緊張状態といろいろ重なってしまったが故の体調不良だと判断。私は口をゆすがせて、またお布団に連れて行った。
「仁人さん、謝ることはありません。うちの父のせいですし、この体調の悪さも、全部。悪いものはストレスです。あなたは何も悪くない」
お酒の飲みすぎが、これを引き起こしてしまったのは明らかだ。今日は両親がなんと言おうと仁人さんの看病をしなければ。


朝7時になって、両親が降りてきた。襖を開けて小声で事情を言えば、二人はかなり反省しており、人に潰れるまでお酒を飲ませないとノートに反省文を書かせてから反省のための畑仕事に行かせた。私は家のことをする代わりに仁人さんの看病を一手に引き受けた。おそらく体調不良の大半は二日酔いだ。そこへストレスやら何やらでいろいろ症状が出ている。
「かなで……、いくな……」
温かいおじやか何か作ろうかなと思って仁人さんのそばから立ち上がったときだった。遠慮がちに掴まれた手、でも行ってほしくないと主張していることがわかる強さ。
「はい、ここに」
仁人さんが眠ったときに何か作ろうと思い直し、今はそばにいることにする。掴まれた手をそっと外して、逆に両手でその手を包む。
「ごめん、ごめん……」
「大丈夫、何も謝ることはありません。今は休むことだけを考えましょう」
手を優しく握り、声をかける。聞こえていたのか、表情がさっきの悲しそうで苦しそうなものから、少しだけ穏やかになった。それを見て私も安心する。
「ここに、おるよ」
温もりを分け与えるように言葉を紡ぐ。辛いときに誰かがそばにいる、それだけで少しは楽になる。小さな寝息が聞こえ始めた段階で手を離し、マネージャーの鹿島さんに連絡する。
『おはようございます。実は……』
父が仁人さんをお酒で潰してしまって、体調が悪い旨を連絡すると、すぐに返事が来た。
『おはよう、奏ちゃん。仁人、元々体調悪かったからお酒でトドメ刺された感じかな?とりあえず、迷惑かけてごめんね』
『いえ、むしろこちらが悪いので、本当にすみませんでした』
『いや、お酒の勉強になったと思うよ。仁人、最近休めてなかったみたいだから……』
大切な仁人さんのことなのに、こちらのフォローしてくれる鹿島さんも本当に優しい人だ。
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