ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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43 -藤木仁人-

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「仁人君、いつまでこっちにおる予定?」
「あ、えっと、明後日の午前中まで……です」
「あら、そうなが!?そら、お布団干さな!!お父さん、布団干してきて」
「はいはい、人使いがまっこと荒い……」
「そんな、今日のうちにはお暇しようと思っていたので……」
昼ご飯をごちそうになり、ダイニングテーブルで椅子を追加して同じテーブルを囲ませてもらって。今は食後のコーヒーを飲んでいるところだ。そこで、奏のお母さんにいつまでいるのか聞かれ、さすがに迷惑かと思い、今日のうちにお暇しようと思っていたという意味も込めて答えると、まさかの布団を干すと言い出した。遠慮すれば、笑顔で泊っていきなさい、と言い、客間に布団を用意してくれることになった。
「そうや、ちょっと外で身体でも動かそうや。服なら俺のを貸しちゃる」
「お父さん、畑手伝わせたいがやろう……」
奏が少し呆れた声を出していたが、気がつけば着替えを貸してもらって、俺は畑に出ていた。食事前に教えてもらった話によれば、奏のご両親は早期退職後に本格的に畑仕事を始めたそうだ。もともとは別に仕事をしながら片手間でたまにやる程度だったらしいが、奏の祖父母にあたる人たちが高齢ということもあって畑仕事が大変ということで、退職してから始めたらしい。
「すごい……」
仕事柄、いろいろな場所にロケや撮影で赴くことは多い。それでもこんな間近で土の香りを、草木の香りを感じられるのは贅沢だ。お父さんの姿を見習って草を引っこ抜けば、小さい頃のことを思い出した。まだ芸能界とか何一つ知らない、本当に小さなころは両親に連れられて草を抜いたりして遊んだものだ。
「もうすぐ収穫やきにゃあ、収穫前に草を抜いちょこうと思ってな」
「そう、だったんですね……」
もうすぐ収穫を迎えるお米、イネは黄金色で秋に見かける光景だった。



「仁人さん、うちの父が急にすみませんでした。よかったらお風呂にどうぞ」
汗だくで家に入ると、奏が出迎えてくれて、お風呂に連れて行ってくれる。一番最初に入るのは、と遠慮すると奏のご両親がまだやることがあるから、ぜひ入ってくれと言って強引に俺を着替えと一緒にお風呂場に突っ込んだ。風呂場のドア一枚隔てたところから、奏の声がする。
「ちゃんと、お風呂に百まで浸かってから出てきてくださいね!!タオルは着替えの横に置いておきます」
ドキっとしたが、奏の言葉とご両親に感謝しながらありがたくお風呂に浸からせてもらい、足を延ばす。思ったよりも長旅で疲れていて、しかもいきなり奏の実家に突撃した緊張が解れていく。しっかりと数を数えて出て、身体を拭いて服を着替える。完全に寝間着なんて持ってなかったから、お父さんに借りた。快く貸してくれたお父さんも、服を洗濯してくれると言うお母さんも心が広すぎる。
「さあ、仁人君!!飲むで!!」
しばらくして全員がお風呂から出て食事の時間になった。お父さんは、俺に飲めるお酒を聞くや否や、それを出してきてコップと一緒にドーンと効果音でもしそうな置き方をした。そこから俺の記憶はほぼ、曖昧だった。
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