ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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「どんなシーンか、教えていただいても……?」
仁人さんが今している撮影の監督さんが気に食わないシーンって、どんなシーンだろうって純粋に疑問に思った。
「あ~……、仕事だからな?俺も割り切ってるからな?」
「はい……」
なんだかとても言いづらそうな仁人さんに、聞いちゃ不味い内容だったかな、なんて思う。それもそうか、まだ放送されていない、製作中のドラマ。内容は聞いちゃいけない。
「その、キスシーンなんだ。俺、というより主演女優の子がまだ女優になったばかりだから演技が硬い印象を与えるみたいでな……。最初は監督も納得してたんだけど、後でやっぱりってなってな」
だいぶ濁された内容、キスシーンと聞いてちょっとだけ相手の女優がズルいと思ってしまう。私はまだ仁人さんにキスできてないし、してもらってもない。小さな子供のように嫉妬してしまう。
「本当、どうやったらうまくいくのかわからなくてさ……」
どうしたらいいかわからない、その言葉に、ふと自分が新人女優として仁人さんという人気の俳優さんとキスシーンを演じることになったとしたら、と考えた。
「きっと、仁人さんは演技がとんでもなくお上手なんですよね……。それは主演女優になった新人女優さんは緊張してしまうような気がします。あえて、仁人さんも力を抜いた演技が思ったよりもしっくりくるかもしれません…………って、ごめんなさい!!こんな知ったような口をきいてしまって!!」
考えていたことは全て言葉に出ていて、仁人さんがこちらを見ていた。それを見て、一瞬で自分のやらかしに気づいてしまい、すぐに謝罪する。
「奏……」
「は、はい……」
怒らせちゃったかな、と心配になった時だった。
「それだ!!俺が彼女に近づけばいいんだ!!何せ、彼女は今回のドラマが初主演、初ドラマ、演技なんて初めてだらけなんだよ!!ありがとう、奏!!次の撮影、うまくいく気がする!!でも、俺……相手の子に失礼なこと思っちまったな……」
「仁人さん……?」
何かにひらめいた仁人さんは最初のハイテンションはどこへやら、暗い雰囲気だ。聞けば、ド素人だから演技ができないのも仕方がないとは思っていたものの、主演に選ばれたのなら自分のレベルまで上がってきてほしかったのだという。
「仁人さん。本当なら、仁人さんの言うことが、私は正しいと思います。その女優さんも初めての演技と言っても仕事をもらった以上、仁人さんに釣り合うような演技で結果を残さないといけないと、女優でもない外の人間である私はそう、評価基準を設けます。見る立場として言わせてもらえば、それくらいできて当然だと、思ってしまいます。だから、仁人さんの言葉を間違っているとは思えません」
「奏……」
「でも、その女優さんの立場に立つと、仁人さんという大人気の俳優さんとの初めてのお仕事でキスシーンを演じると言うのはとても、想像ができないほどのプレッシャーを感じていると思います。それなら、仁人さんがお手本を見せれば、その女優さんもわかりやすいかなって、思い、まして……。すみません、またこんなわかりもしないのに……」
今日はついつい口が滑る。気を付けないと……。どちらか一方が悪いとは言えない状況だから、ついどちらにもフォローのようなものを入れてしまう。
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