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試験を無事に終え、やっと待ちに待った夏季休暇がやってきた。バイトの入れ放題で、稼ぎ時。今のバイト先は本当にありがたいことに試験期間は入らなくていいと学生に理解のある、優しい職場。休んでいた分、頑張らなければ、と気合を入れる。
「うん?メッセージ……?」
『今日の夜、会えないか……?』
「夜、バイト……。あんまり遅い時間はよくない、よね……」
今日はバイトで夜遅くになると連絡を返す。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
『仕事が終わるのがだいたいこの時間なんだ。どうしても貸したい本があるから、会いたいんだ』
写真付きで送られてきたそれは、前から私がほしいと思っていた本だった。でも今月は買いに行く時間もお金もなくて、諦めていたもの。せっかくなので、お言葉に甘えて今日の夜、本を貸してもらうことにした。私のほうがバイトも終わるのが早いので、少し、時間はある。
『悪いけど、あとでメールでじゅうしょ送ってほしい。あとでいくときにまたれんらくする!』
おそらく、わずかな休憩時間に送ってくれたのだろう、ところどころ変換がされていない。言われた通り、メールで住所を送り、私もバイトに向かった。



「ふぅ、疲れたなぁ……。久しぶりの出勤だったし……」
いつもの退勤時間よりも少しだけ遅れて退勤し、重い足を動かして帰ってきた。今から仁人さんが来るのだと思うと、疲れた心もちょっと回復する。
「あ、掃除!」
部屋の電気を慌ててつけて、部屋が汚くないかを確認する。やっぱりみられて恥ずかしいものは隠したいし、汚いとか思われたくない。常日頃から散らかさないように気を付けてはいるけれど、やっぱり髪の毛が落ちているだとかそういうことはある。掃除機を今の時間からはかけられないので、さっとシートで拭き掃除をする。ついでに出しっぱなしになっていたフライパンをコンロに戻して蓋をする。今日は賄いをいただいたから、お昼に作ったおかずは後で冷蔵庫だ。
『今、アパートの下に来た。そのまま上がってもいいか?』
「はや!?」
先ほど連絡をもらってから、早くもついたらしく、上がっていいかという連絡がきた。
「えっと、部屋番号に間違いなしっと」
部屋の外で待とうと、是という連絡を返し、玄関の前で待機する。
「お疲れ様です、仁人さん」
「奏も、お疲れ様。それと、ありがとう、部屋の前で待っててくれて」
「いえいえ、狭いところですが、どうぞ」
「お邪魔します」
夜も遅いので、声が響かないように小声であいさつをして、部屋へと招き入れる。
「ごめんなさい、あんまり綺麗じゃなくて……」
「いや、絶対に俺より綺麗」
他愛無い話をしながら、荷物を置いてもらい、シンクで手洗いうがいをしてもらった。
「シンクで申し訳ないです……」
お風呂の中に洗面台があるので、床が濡れているときは使えない。今日は濡れていないけど、いつも自分が使っているシンクでお願いした。
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