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「いっっ」
帰り道、バイトもなかったから痛む頬を押さえつつトボトボ、と歩く。きっと彼女たちは仁人センパイ、おそらく仁人さんのことだと思うけれど、彼のことが好きなのだろう。だから余計に近くにいる私の態度が鼻につく。そもそも彼女たちは仁人さんに近づく私が気に食わない。きっと仁人さんに近づく女の子がいたら、それを彼女たちは牽制してきたんだと思う。
「うわ、ひっかき傷になってる」
部屋に帰りついて鏡を見やれば、わずかに赤く腫れた頬に一筋の線。爪は綺麗にネイルで整えられていた。それが引っ掛かったのだろう。私を叩いてしまったときの彼女たちの表情も、何もかもがあの人たちと被ってしまう。嫌なものだ、あの日々を思い出すようで。辛かった、でも誰にも弱音なんて吐けなかった。一番の新人だった私が弱音なんて吐けるわけがない、吐く暇があるなら仕事を少しでもまともにできるようにすることだ。実際にそうやって言われた。今までのことを思い出してしまい、鬱々とした気持ちになってしまう。忘れたくても、そう簡単に忘れられるものでもない。
「電話?」
食事をする気持ちにもなれず、お風呂に入って頭を冷やす。嫌な気持ちとなんで私がこんな目に遭わないといけなんだ、という怒りがごちゃ混ぜになって苦しい。どうしよう、頭から離れない、なんて髪の毛を拭きながら思っていると、マナーモードを解除したスマホが着信を告げた。どうせ昼間に連絡をしてきた母親だろうと、たいして確認もせずに普通に通話を押してしまった。
「はい、っふ、藤木さん!?」
『ははっ、今、大丈夫か?』
「だ、だいじょうぶですっ!!」
突然、なんなんだろう。初めての連絡が電話なんて、ちょっとびっくりだ。普通、メールとかしない?今の人は電話が主流なの?メッセージアプリじゃなかったっけ?
『明日の昼、一緒に食べないか?その、空いてる教室をこの間見つけたんだ。よかったら、だけど』
「え、いいんですか?」
初めて、お昼に誘われた。今までは昼は別れていたから、一緒に食べたことなんてない。夕方のことも忘れて私は、つい、食い気味に返事をしてしまった。引かれてないかな、気持ち悪いって思われてないかな?そんなことばかりが気になってしまう。
『じゃあ、明日。いつもより早めに切り上げて一緒に教室行こう』
「はいっ」
『あ、悪い。そろそろ時間だわ』
「いえ、お誘いありがとうございました。また、明日」
『ああ、お休み』
「おやすみなさい」
静かに電話を切って、ベッドにダイブする。明日のお昼が楽しみで、今日の夕方に起こった嫌なことなんて頭から一瞬で消し飛んだ。お弁当はどんな風にしようかな、とかいっぱい考えるけど、いつも通りでもいいか、と落ち着かせてすぐに明日のおかず作りに取り掛かる。
帰り道、バイトもなかったから痛む頬を押さえつつトボトボ、と歩く。きっと彼女たちは仁人センパイ、おそらく仁人さんのことだと思うけれど、彼のことが好きなのだろう。だから余計に近くにいる私の態度が鼻につく。そもそも彼女たちは仁人さんに近づく私が気に食わない。きっと仁人さんに近づく女の子がいたら、それを彼女たちは牽制してきたんだと思う。
「うわ、ひっかき傷になってる」
部屋に帰りついて鏡を見やれば、わずかに赤く腫れた頬に一筋の線。爪は綺麗にネイルで整えられていた。それが引っ掛かったのだろう。私を叩いてしまったときの彼女たちの表情も、何もかもがあの人たちと被ってしまう。嫌なものだ、あの日々を思い出すようで。辛かった、でも誰にも弱音なんて吐けなかった。一番の新人だった私が弱音なんて吐けるわけがない、吐く暇があるなら仕事を少しでもまともにできるようにすることだ。実際にそうやって言われた。今までのことを思い出してしまい、鬱々とした気持ちになってしまう。忘れたくても、そう簡単に忘れられるものでもない。
「電話?」
食事をする気持ちにもなれず、お風呂に入って頭を冷やす。嫌な気持ちとなんで私がこんな目に遭わないといけなんだ、という怒りがごちゃ混ぜになって苦しい。どうしよう、頭から離れない、なんて髪の毛を拭きながら思っていると、マナーモードを解除したスマホが着信を告げた。どうせ昼間に連絡をしてきた母親だろうと、たいして確認もせずに普通に通話を押してしまった。
「はい、っふ、藤木さん!?」
『ははっ、今、大丈夫か?』
「だ、だいじょうぶですっ!!」
突然、なんなんだろう。初めての連絡が電話なんて、ちょっとびっくりだ。普通、メールとかしない?今の人は電話が主流なの?メッセージアプリじゃなかったっけ?
『明日の昼、一緒に食べないか?その、空いてる教室をこの間見つけたんだ。よかったら、だけど』
「え、いいんですか?」
初めて、お昼に誘われた。今までは昼は別れていたから、一緒に食べたことなんてない。夕方のことも忘れて私は、つい、食い気味に返事をしてしまった。引かれてないかな、気持ち悪いって思われてないかな?そんなことばかりが気になってしまう。
『じゃあ、明日。いつもより早めに切り上げて一緒に教室行こう』
「はいっ」
『あ、悪い。そろそろ時間だわ』
「いえ、お誘いありがとうございました。また、明日」
『ああ、お休み』
「おやすみなさい」
静かに電話を切って、ベッドにダイブする。明日のお昼が楽しみで、今日の夕方に起こった嫌なことなんて頭から一瞬で消し飛んだ。お弁当はどんな風にしようかな、とかいっぱい考えるけど、いつも通りでもいいか、と落ち着かせてすぐに明日のおかず作りに取り掛かる。
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