ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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「昼はどうする?」
「あ、家に帰って食べるつもりだったんですけど、食べなくてもいいかなと」
そろそろお昼か、という時間になって一度シャーペンを置いた。思ったよりもお腹も空いていないので、このまま続けてもいいかな、なんて。
「昼、食わないのか?」
「その、お腹空いてなくて」
朝、早起きしたしと思って張り切って朝食(サラダとヨーグルトとバナナ、目玉焼き)を食べたら思ったよりも多くて胃が重い。お昼用にいろいろ用意していたけど、全部夜と明日のおかずになりそうだ。
「ただでさえ細いのに、ちゃんと食わないと倒れるぞ」
「前よりは食べてますので」
ある程度の冗談を言い合える仲になったので、胸を張って答えると苦笑いされた。解せぬ。



「じゃあ、頑張れよ。俺は今日はもう帰るから」
「ありがとうございます、お疲れさまでした」
お昼、結局休み時間も勉強に費やして講義五分前に別れた。その時、彼はさっきまでつけてなかったマスクをしていたのが印象的だった。
「はい、講義始めるよー。出席簿を回してるから回ってきたら丸つけてねー」
講義が緩い女性の先生で、おしゃべりしていても注意しない、いわゆる放置型の先生だった。だからなのかこの講義はわりと騒がしいので先生の近くに座って配布される資料と照らし合わせてノートを取り、時に資料にマーカーを引く。重要そうな先生の話は全て書き写して吹き出しで囲んだりする。ノートの取り方も前みたいに雑にするんじゃなくて、丁寧にするように心がけている。
「これ、どうぞ」
「ありがとうございます」
後ろから出席簿が回ってきて、どうやら私で最後のようなので丸を付けて先生に渡す。それからまたすぐにノートを取ることに集中する。結構、私も前はそうだったけど講義中とかにスマホをどうしても見たくなる。だけど今はそれも全部しなくなった。以前、好きだったゲームも会社に行っているうちにやる気をなくしアンインストールしてしまった。今は連絡用のメッセージアプリくらいしか入っていない。
「この検査はこの年齢から、こっちはこの年齢、全部覚えておいてね。今日やったこと、全部期末テストに出すよー」
先生の言葉を逃さぬように耳を澄ませ、メモを取る。そういえばそろそろ期末テストも近いんだっけ、なんて思う。早いものだ、入学してもう二か月半、藤木さんと出会ってそれくらい経った。もうあと二週間も経てば期末テストが始まる。
「来週は期末テストの範囲を言うから必ず出席するように。期末テストで通らなかったら、再試はしないのでまたこの科目の取り直しだからね」
おしゃべりに夢中になっている一部に向けてなのか、全体になのかはわからないが、先生は釘を刺して講義を終わらせた。そんな風に午後の講義は全て終了し、みんなざわざわしながら帰り支度をする。一年生のうちは他学科とも合同の一般科目だったり、学科必修科目もあるので人が多いのが特徴だ。特に私の所属している心理学科も学科の人数自体が多いので、どうしても必修でもざわついてしまう。
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