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朝一番の講義を終え、お昼休みが終わるまでは講義も入っていないのでお昼になるまで図書館にこもることにした。教室のある建物は、総合大学なだけあってとても多いのだが、どの建物にも一階部分にロビー兼ラウンジがあって机や椅子も置かれているから、昼食を取ったり休憩に使ったりといろいろな使い方ができる。それだけあってか、やはり少し騒がしいし、一人でいるにはちょっと寂しいのでやっぱり図書館にこもる。
「小テストの範囲はちょうど、ファイリングしてあるプリントのはず…。参考資料を追加で入れる程度で大丈夫そうだね」
前までの大学生活を反省し、入った学部も以前通っていた大学とは違うということできっちりと予習復習をしているおかげか、小テストに対して極度の不安も緊張もない。少しはうまくできるかな、とか緊張はあるけど今までの勉強に自信を持っていれば大丈夫だって信じないとね。
「あ、こんにちは」
小テストのためにと参考資料を探していると、トントン、と肩を叩かれた。振り返れば藤木さんがいて、今日は早めに会ったなぁ、なんて思う。いつもは最終講義である五限終わりとかだったりしたから、余計に朝会うのは珍しかった、というか初めてかもしれない。
「ああ、こんにちは。今日は早いんだな」
「はい、早めに一限の講義が終わったので」
小声で少し話をしていると、藤木さんにこっち、と言われて移動することになった。そこは図書館内にある二人以上で使える個室の学習室だった。この学習室はカウンターで申請さえすれば簡単に使えるので雑談はダメだけど授業についての話し合いとかならできる個室だった。まあ、実際は図書館内で怒られないで話ができる場所、という認識になっているけれどね。
「初めてここの個室使いました…」
「俺はよく使ってる」
「そうだったんですね」
藤木さんが向かいの席を促してくれたので、ありがたく座らせてもらった。そこから少しだけ紹介してもらった本の話をして、各々の勉強に入った。時折、藤木さんが心理学に興味があるらしく内容を聞いてくるので、わかりやすく説明するために頭を使うことでいい復習になった。
ふ、と見た両親が就職祝いにくれた腕時計。もう数年使っているから傷も入った、年季のある時計。時間を確かめようと見たら、電池がなくなったのか止まっていた。
「どうした」
カチャン、と金属音を立てて時計を外したらサラサラとノートに書きこんでいた手を止めて藤木さんがこちらを見た。
「ごめんなさい、その時計が止まってしまったみたいで。外そうかな、と」
邪魔をしてしまった、と思い咄嗟に謝って理由を述べた。謝って理由を言うのは、会社で嫌というほどやった。社会人にもなって言い訳を使うなと怒られ、でも理由を聞かれて言っただけなのに、なんて理不尽なことは何度もあった。だから怒られる、と一瞬思ってしまって身体が少し強張った。
「そうか、この周辺なら…そうだな、この宇津木時計店ってとこで電池替えられる。行ってみるといい」
「あ、ありがとうございます…。そのすみません…」
わざわざ時計屋さんまで教えてもらって、という意味も込めて謝罪すれば謝るな、と言われた。本当に優しい人だ。イケメンで優しいなんて、この人は前世でどれだけ徳を積んだのだろうか…。前の会社のハゲ上司も見習え、と叫びたい。
「小テストの範囲はちょうど、ファイリングしてあるプリントのはず…。参考資料を追加で入れる程度で大丈夫そうだね」
前までの大学生活を反省し、入った学部も以前通っていた大学とは違うということできっちりと予習復習をしているおかげか、小テストに対して極度の不安も緊張もない。少しはうまくできるかな、とか緊張はあるけど今までの勉強に自信を持っていれば大丈夫だって信じないとね。
「あ、こんにちは」
小テストのためにと参考資料を探していると、トントン、と肩を叩かれた。振り返れば藤木さんがいて、今日は早めに会ったなぁ、なんて思う。いつもは最終講義である五限終わりとかだったりしたから、余計に朝会うのは珍しかった、というか初めてかもしれない。
「ああ、こんにちは。今日は早いんだな」
「はい、早めに一限の講義が終わったので」
小声で少し話をしていると、藤木さんにこっち、と言われて移動することになった。そこは図書館内にある二人以上で使える個室の学習室だった。この学習室はカウンターで申請さえすれば簡単に使えるので雑談はダメだけど授業についての話し合いとかならできる個室だった。まあ、実際は図書館内で怒られないで話ができる場所、という認識になっているけれどね。
「初めてここの個室使いました…」
「俺はよく使ってる」
「そうだったんですね」
藤木さんが向かいの席を促してくれたので、ありがたく座らせてもらった。そこから少しだけ紹介してもらった本の話をして、各々の勉強に入った。時折、藤木さんが心理学に興味があるらしく内容を聞いてくるので、わかりやすく説明するために頭を使うことでいい復習になった。
ふ、と見た両親が就職祝いにくれた腕時計。もう数年使っているから傷も入った、年季のある時計。時間を確かめようと見たら、電池がなくなったのか止まっていた。
「どうした」
カチャン、と金属音を立てて時計を外したらサラサラとノートに書きこんでいた手を止めて藤木さんがこちらを見た。
「ごめんなさい、その時計が止まってしまったみたいで。外そうかな、と」
邪魔をしてしまった、と思い咄嗟に謝って理由を述べた。謝って理由を言うのは、会社で嫌というほどやった。社会人にもなって言い訳を使うなと怒られ、でも理由を聞かれて言っただけなのに、なんて理不尽なことは何度もあった。だから怒られる、と一瞬思ってしまって身体が少し強張った。
「そうか、この周辺なら…そうだな、この宇津木時計店ってとこで電池替えられる。行ってみるといい」
「あ、ありがとうございます…。そのすみません…」
わざわざ時計屋さんまで教えてもらって、という意味も込めて謝罪すれば謝るな、と言われた。本当に優しい人だ。イケメンで優しいなんて、この人は前世でどれだけ徳を積んだのだろうか…。前の会社のハゲ上司も見習え、と叫びたい。
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