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「あった…。これだ」
午後八時すぎ、大学図書館を出て歩いて二十分ほどの距離にある本屋さんにさっそく行ってみた。藤木さんに教えてもらった小説は普通に置いてあったので、注文などもせずにその場で買えた。いきなり全部買うつもりもなかったので、参考書と一緒に二冊ほど購入する。
「カバーはどうされますか?」
「お願いします」
「お会計3888円になります……、ちょうどお預かりいたします」
「ありがとうございます」
「ありがとうございましたー」
商品をもらってお礼を述べて、店を出る。明日はバイトがあるから今日中に授業の復習と予習をして、一冊読んでおこう。いつ藤木さんと会うかわからないからね。次会ったときに感想が言えるように。
「んんっ、身体が固まっちゃった…」
ご飯を少し食べて、お風呂にも入ってからテレビに興味もないので授業の予習復習を軽くする。三十分ほどで終わったのでそこからずっと勧められた小説を読んでいた。ずっと同じ体勢で本を読んでいたせいで、身体がバキボキと音を立てる。
「でも、すごく面白かったな。改めて読んでみると、新しい世界が見える。なんだか自分の価値観が広がった気がするな」
カバーのかかった表紙をそっとなぞって、小説の世界観に浸る。文豪として名前は知っていても、教科書くらいでしか読んだことのなかった文章を、こうも改めて読んでその世界を見せつけられて。好きにならないわけがなかった。面白い、本当に純粋にそう思えた。ここ数年、テレビさえも見ることがなかった私が久しぶりに趣味になりそうなものを見つけた。藤木さんには感謝だ、今度会えたら感想を伝えよう。そう思って未だ、ストレス環境がひどかったせいで寝付けなくなった身体をベッドの横たえて、クラシック音楽をかけながら目をつむる。目を閉じれば思い出す、言われた数々の嫌味と押し付けられる仕事。できません、とは言えなかった。少しでも戸惑ったりすると「できないなんて言わないよね」という一言が先輩女性社員からかけられ、その道が閉ざされたからだ。結局、わからなくても手探りでなんとか進めて、間違っていたら「そんなのもできないのか」と怒られて、それでも必死で仕事を仕上げていた。フロアに誰もいなくなって私一人になっても限界まで仕事をしたし、幸いにも会社からアパートが近かったから誰よりも早く出勤して片付けた。労基どこ行った、と思う余裕もないほどサビ残しまくったし、パワハラもセクハラも耐え抜いた。
「あーもう!!忘れよう、もう私は社会人じゃない。今は大学生、明日からもまた頑張るの」
大学生活に必要なお金のために始めたアルバイトも、幸いにしてとてもいいところで無理やりシフトを入れられるようなこともなく、のんびりと、でもしっかりと稼げるバイト先だった。きっと私が今まで仕事で苦しんだから神様がアルバイト先は優しいところにしてくれたんだと、名もわからぬ神に感謝したほど感動した。
午後八時すぎ、大学図書館を出て歩いて二十分ほどの距離にある本屋さんにさっそく行ってみた。藤木さんに教えてもらった小説は普通に置いてあったので、注文などもせずにその場で買えた。いきなり全部買うつもりもなかったので、参考書と一緒に二冊ほど購入する。
「カバーはどうされますか?」
「お願いします」
「お会計3888円になります……、ちょうどお預かりいたします」
「ありがとうございます」
「ありがとうございましたー」
商品をもらってお礼を述べて、店を出る。明日はバイトがあるから今日中に授業の復習と予習をして、一冊読んでおこう。いつ藤木さんと会うかわからないからね。次会ったときに感想が言えるように。
「んんっ、身体が固まっちゃった…」
ご飯を少し食べて、お風呂にも入ってからテレビに興味もないので授業の予習復習を軽くする。三十分ほどで終わったのでそこからずっと勧められた小説を読んでいた。ずっと同じ体勢で本を読んでいたせいで、身体がバキボキと音を立てる。
「でも、すごく面白かったな。改めて読んでみると、新しい世界が見える。なんだか自分の価値観が広がった気がするな」
カバーのかかった表紙をそっとなぞって、小説の世界観に浸る。文豪として名前は知っていても、教科書くらいでしか読んだことのなかった文章を、こうも改めて読んでその世界を見せつけられて。好きにならないわけがなかった。面白い、本当に純粋にそう思えた。ここ数年、テレビさえも見ることがなかった私が久しぶりに趣味になりそうなものを見つけた。藤木さんには感謝だ、今度会えたら感想を伝えよう。そう思って未だ、ストレス環境がひどかったせいで寝付けなくなった身体をベッドの横たえて、クラシック音楽をかけながら目をつむる。目を閉じれば思い出す、言われた数々の嫌味と押し付けられる仕事。できません、とは言えなかった。少しでも戸惑ったりすると「できないなんて言わないよね」という一言が先輩女性社員からかけられ、その道が閉ざされたからだ。結局、わからなくても手探りでなんとか進めて、間違っていたら「そんなのもできないのか」と怒られて、それでも必死で仕事を仕上げていた。フロアに誰もいなくなって私一人になっても限界まで仕事をしたし、幸いにも会社からアパートが近かったから誰よりも早く出勤して片付けた。労基どこ行った、と思う余裕もないほどサビ残しまくったし、パワハラもセクハラも耐え抜いた。
「あーもう!!忘れよう、もう私は社会人じゃない。今は大学生、明日からもまた頑張るの」
大学生活に必要なお金のために始めたアルバイトも、幸いにしてとてもいいところで無理やりシフトを入れられるようなこともなく、のんびりと、でもしっかりと稼げるバイト先だった。きっと私が今まで仕事で苦しんだから神様がアルバイト先は優しいところにしてくれたんだと、名もわからぬ神に感謝したほど感動した。
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