ニセモノ彼女、始めました

高福あさひ

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 今日も初夏の風に吹かれながら大学構内を歩いて、図書館にやってきていた。早いもので入学してから一か月以上が経ち、授業にも慣れて、入学してしばらくして始めたバイトも慣れてきたころだった。
「俺は藤木仁人ふじきひろと。君は?」
「あ、先日の。柊奏ひいらぎかなでです」
今日はいつもと違った。普段通りに時間の合間を縫って図書館で本を探していると小声であるが、声をかけられた。その人はこの間、私を助けてくれた人だった。普通に話しかけてきたので私が元会社員の二十五歳だとは思っていないのだろうな、と少しばかりこの童顔と低身長を恨む。
「俺は文学科四年だ。柊はもしかして心理学科?」
「そうです」
「すごいな、今のうちから文献読んだりしてんの」
「学べる環境にあるうちはしっかりと学ぶべきですから」
大学を出て働き始めた時に、思ったことだった。もっとちゃんと学んでおけばよかったとか、将来を見据えて資格を取るなりして努力をするべきだったと後悔ばかり。後悔後先に立たず、とはこのことかと痛感したし両親には高い学費を払ってもらってまで私立の大学を出たのにこんな親のお金を無駄にするようなことになってと自分が許せなかった。
「藤木さんは文学科なら、何か本を読まれるんですよね。おすすめとかありませんか?最近、本を読んでいなかったので何か読みたいと思っていて」
純粋にずっと本を読むひまがなかったから、おすすめしてもらえたら本を読みたいなと思って聞いてみた。踏み込みすぎたかな?とも思ったが声に出した言葉はもう戻らない。
「うーん、そうだな。俺は古典文学が好きなんだ。これとか、おすすめ」
スマホでわざわざ検索してくれたらしい藤木さんは、検索結果の画面をこちらに見せてくれた。そこには中学校や高校で習うような古典文学が載っていて、いきなり読み始めても嫌になりづらそうな手を出しやすいものばかりだ。
「もうちょっと近代だったら、ここからこの辺りまでの文豪の作品は一通り目を通してみるといい」
柔らかい表情の藤木さんに見惚れそうになりながら、お礼を述べる。本当にイケメンだな、この人。芸能人していてもおかしくなさげなくらいだ。
「本当にありがとうございます。今日帰ったら探して読んでみますね」
今日はバイトもないから、本屋にでも寄って探そうと思う。いつも専門書ばかり読んでいると飽きるからね。それにしても久しぶりに誰かと喋ったなぁ。友達いない勢の私は大学で話をすると言えば、教授くらいしかいない、たまに声をかけられることもあるが、一言二言程度だ。
「それじゃあ、また」
「はい、失礼します」
彼はニッコリ笑って帰っていった。私は私でさっき、また取ってもらった専門書を抱えて自習用の机へと向かった。図書館が閉まるのは午後八時、それまでは勉強して本屋に向かう予定だ。大学の近くというのはさすがというべきか、どこの店も大体が夜遅くまで開いている。寄ろうと思っている本屋も例外ではない。
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