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出会い
しおりを挟む今日は良い天気だ。気持ちの良い小春日和。
私はお気に入りの赤いスニーカーを履き、家を出た。
そのまま、目的地を決めずに、思うままに歩き出す。
私、花沢栞は散歩をするのが好きだ。
宛もなく、ぶらりと近所を歩いてみたり。
少し足を延ばして遠くへ行ってみたり。
それこそ、ちょっとした旅気分で、新しいものを見つけに行くのが好きだ。
例えば、入ったことのない脇道を歩いた先で偶然雰囲気の良い喫茶店を見つけたり。
例えば、たまたま見つけた、緑豊かな公園で猫の親子を見つけて和んだり。
例えば———————
偶然見つけた、小川に架かる橋の上で、不思議な出会いをしたりする散歩が好きだ。
山沿いにある大きな緑地。田舎のため、基本的に人が来ることは無い。
その緑地の外れには小さな川があり、そこには山なりになった朱塗りの橋がかけられていた。
川沿いに佇む木々が風に揺られて、桜の花弁が舞い落ちる。
まるでピンクの絨毯が敷き詰められた様な、美しい顔を見せる小川。
そんな光景に目を落とす少年に、私は目を奪われた。
真っ白な髪に、澄んだ青い瞳。加えて、背は高く175㎝はあるだろうか。
整った端正な顔立ちは、女性と見間違えるほどに美しく、肌は驚くほどに白い。
だが、髪色とはうって変わって、服装は青を主につかった着物に、控えめな花の刺繍が入った羽織。と、近代化が進む現代社会においては古風な和服をまとっている。
加えて、まるで山の中で見つけた白い狐の様に、神秘的な雰囲気を持っていた。
他の人とは違った雰囲気に、何故だか気持ちがたかぶるのを感じる。
すると、その美しい青年が徐に口を開いた。
「おい、そこの人間。」
「はひっ!」
突然声を掛けられて、私は飛び上がった。
その声は風鈴の音のように澄んでいて、美しい。
だが、何故だろう。どこか懐かしい。というようにも私は感じていた。
「そこで、こそこそ何をしている。」
「あ、い、いや、別に、何をしていたというわけでも。」
視線が川面から私に移されドギマギしてしまう。
貴方の、女性と見間違えてしまいそうな繊細で整った横顔が美しくて見惚れてました。とか何処の逆ナンだよ。と突っ込まれそうな事は口が裂けても言えないので、それとなく、散歩です。と付け加えておいた。
すると青年は不服そうに眉を寄せた。
「なんだつまらん。珍しく我が見える人間に会ったと思ったら、陰陽師でもないただの小娘とはな。」
「はい……?」
相手の発した初めての言葉が、全く理解不能なもので、やや動揺してしまう。
我が見える……?陰陽師……?
なんだ。この人、ただのイケメンかと思ったら、俗にいう中二病ってやつなのか、とやや引き気味の視線を送る。
じきに右腕がうずく!とか言って暴れだすかもしれない。危ない人だ。さっさと帰ろう。と、踵を返したところで彼が。
「待て待て。折角、久しぶりに我が見える人間に出会ったのだ。少し雑談に付き合うがいい。」
「すみません、私、急いでるんで。」
有無を言わさずそのまま足を進める私に、彼は背後から至って冷静に。
「この辺りをぶらぶらとあてもなく彷徨い歩いた挙句、我に暫し見とれておった分際で何を言う。」
まさか見られていたとは思わず、ギクリと肩を震わせて肩越しに振り返る。気づかれていたようです。お恥ずかしい。
「ヌシ、名は何という。」
橋の欄干に寄りかかりながら、鋭く、だがどこか優しい瞳をして私を見据えるイケメン男児。
これで、頭が普通の人ならパーフェクトだったのに。と私は心の奥底でボヤいた。
「……井波楓。」
さらりと流れるような嘘をつく。知らない人に名前を教えてはいけない、ましてや、こんな変な人に。常識だ。だが彼はじっと私の目を見つめてから、小さく首をもたげた。
「嘘だな。何故嘘をつく。」
見抜かれるとは思わなかった私は、ぐっと言葉に詰まって、眉根にシワを寄せる。一層相手への不信感が深まった所で彼はこういった。
「そうだな。相手に名前を聞くときは、まず自分から名乗るべきだった。」
彼は欄干から離れ、桜の舞い散る美しい春の日の日差しによく似た、柔らかな表情で、こう続ける。
「我は、魍魎。この河に住まう妖である。周りは我のことを魍魎と呼んでおる。魍魎でもみずはでも、どちらでも好きに呼ぶがよい。」
それは、春の日の昼下がり。
あてもなく散歩していた私が、初めて向こう側の存在と出会ったときのお話。
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