感じるのは快楽だけ

たじょう鹿

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味覚の快楽

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少しの間呆然としていた。

頭が回らない。

男が出て行っドアを見つめる。

今なんて言った?


体調を気遣うのは死なれると困るから当たり前かもしれないが言い方があまりにも、優しいく本当に心配しているような声色だった。

男が何を考えているかまるで分からない。


自分がしたことなのに何をそんな心配なんてするんだ。


男の足音がする。


そういえばさっき食べるものを持ってくると言っていたな。

前男からもらった食べ物には変なものが入っていた。


そんなひどいことするような男なのだ。


そんな男が本気で心配なんてするはずがない。

騙されてはいけない。


ドアが開く。


男はトレイに乗せた小さな鍋とコップに入った水を持っていた。


目の前まで持ってくると、サイドテーブルなんていうのはないのでベットの上にトレイを乗せる。


『タマゴ粥だ。食べれるか?』


そう言って鍋のふたを開ける。

久しぶりに嗅ぐ美味しそうな匂いと一緒にふわっと白い湯気が眼に映る。


美味しそう…。



近くに男がいるのになぜか恐怖を感じない。

よっぽどお腹が空いたのか、


『熱いから気をつけて食べろよ』


そう言ってスプーンを差し出される。


思わず受け取ってしまう。


食べても大丈夫だろうか。

前みたいに何か入っていたりとかするかもしれないし。



美味しそうな匂いに鼻が誘われる。



ぐぅー



そんな時お腹が鳴った。


それ何になかなか食べようとしないのを見かねたのか


『変なものは何も入っていないぞ。だから安心して食べてくれ。』


信じていいのか?


というか食べないなんて出来るのだろうか。

食べないと何かひどいことをされるかもしれないじゃないか。


覚悟を決めスプーンでおかゆをすくう。


口元に持っていき、ふー、と息を吹きかけ冷まし口に含む。



「おいしい…」



思わず小さな声が漏れた。

それぐらい美味しく優しい味がした。



『口にあったならよかった。食べられる分だけでいいからな。』


男が少し笑みを含んだ優しい声色で言った。


なんて言ったらいいか分からず、少し頷いた。


そんな態度にも男は何も言わず何も気にしてないという風にこちらを見ているだけだった。


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