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第16話 集合体の調査
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「どう思ったのルティは?」
ユズキがそう言った。そう言って真っすぐと僕を見つめる目。もうユズキは気づいているんだろうな。そう思った。
会議が終わって、そして、『終わりの森』へ調査に向かう前の日だった。
目の前ではグラシアがスゥっと眠っていた。今日も、『生命の樹』の回収のために殺されて、それで疲れたのだろう。
「一体化するって僕らだよなって思ったよ。でも、僕が丸ごと一体化するってなった途端、実感が湧かない」
それに他種も取り込んでいるとなると僕らとまた少し違う、そこも関係してるのかもしれない。
「だから、怖い。どうなるか分からないからさ……。でもさ…」
ずっと探していた。どう生きればいいかっていう悩み。幸せとか、生きる意味とか。それを突き詰めようとすればするほど、時折襲ってくる耐え難い孤独感。
「でも、一つになればそこには完全な調和が待ってるのかって」
そうすると、生きる意味とか幸せとか考えなくてすむ気がして。
「でも、それって豊富な栄養があるからだよね」
ユズキが言った。
僕もユズキと長い間いることである程度、言う前に言いたいことは分かっていて。でも、それに返す言葉が見つからなかった。
「そうだね」
返事だけは早かった僕。
心には暗雲が立ち込めていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
眼下にある『終わりの森』がどんどんと近くなっていく。
今、僕とエツィオとシーナは蔦に絡ませた檻に乗り、ゆっくりと『終わりの森』へと向かっていた。
折が揺れるたび、服にセットされた瓶がコツンコツンとぶつかって、僕は心配になって瓶を確認する。
ヒビが入ってないか瓶を覗き込む。どこもヒビは入っておらず、その中に入っている苗木も変わった様子がない。
便の中で蠢いていたり、奇妙な形の葉を持っていたり、何もついてない無骨な幹だけのものだったり、様々な苗木が入っている。
「大丈夫だよ。そんなやわな瓶じゃない」
軽く笑いながら言うエツィオ。それでもその表情はどこか厳しい。
それもそのはず今から行く場所は危険に満ちている。いくら防御策を講じたとしても何も感じないわけがないだろう。
逆に隣でボゥっとしているシーナのほうがおかしいのだろうと僕は思った。
基本的に危険な場所と思われる場所に調査に行く際はこの三人だ。
その理由は『生命の樹』によって生存率が高いから。エツィオもシーナも幾たびの手術で体の半分以上は『生命の樹』の体になっている。
まだほとんど行われていない。あとは、噂の範疇ではトニー博士も行っていると聞いたくらいだ。
『終わりの森』に鬱蒼と生える『暴食の樹』の一本に降り立った僕ら。快感が押し寄せてくる。グラシアの放つエネルギーに限りなく近いものだった。
不意に僕はもう一度作戦内容について振り返っていた。
「今回の調査の目的はまずはあの『ガベト族』と思われる人間の形をした植物の調査だ。本当にガベト族なのか、そして、彼らに意識はあるのか」
博士がぽつりとつぶやいた。
「調べているんだが、『終わりの森』の『生命の樹』では人間の脳ほど複雑なものに変質出来るように思えないんだ。それに、何十年も、ただ植物たちのエネルギー源となる生活を続けているか」
エツィオは首をひねって。
「ですが、襲ってきたんですよ? なにか意志があると思うしか」
「そうだね。だから、余計にわからないんだ。あの後、幾度も人を派遣して観察しているが襲ってくる気配すらない。たまたまなのか、もしくは、あの時、グラシアがいたから」
「もう、考えれば考えるほどまた考えないと行けないところでできますね」
エツィオがそう言って頭を抱えて、
「まぁ、そうだね……」
そう同意をする博士。どこかもうすでに疲れている様子で。
「とにかく、調べるにはまずあの生命体だ。あの総括した生命体でそこの蓋をしている部分でもある。一番に調べないといけない」
博士が神妙な面持ちでそう言った。
ゴウッ
強い風が襲って、僕は思わず目を細めた。同時に我に返った。眼科に広がる『終わりの森』。木々の隙間からちらりと巨体が地面を這っているのが見える。
「じゃあ行くか」
エツィオが言った。
その声をともに僕とエツィオとシーナは三手に別れて進んでいく。観察を続けることによって、人間の形をした植物の行動は大体わかってきた。
毎日、だいたい同じような時間帯、同じような場所を歩く。
そして、三手に別れる理由は、それも幾度となく行われた実験によって最も効率がいいと判断したからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「頼むよ。グラシア」
その博士の声とともに、グラシアはコントロール下に置いた木を4本、隊列を組ませ、『終わりの森』に向かって進ませる。グループの中で2本ずつ二手に別れさせある程度距離を離し進ませる。
すると、森の中から現れる数本の木。その木は全て白い繊維質のような糸が至る所についていて。まるで様子を見ているようにある程度距離を取って動かない。
「よしっ、お願いグラシア」
博士がそう言うとともに、グラシアは片方のグループの木を暴れさせた。森の中から現れた木に向かって攻撃を仕掛けたのだ。
途端に、森の中から現れた木はそのグラシアが暴れさせた木に攻撃を仕掛けた。その幹に傷をつけ、そして自分の体をそこに押し付けた。
グラシアの思うとおりに暴れていた木、しかし、次第に動かなくなり、森の中から現れた木と一体化した。
首を振るグラシア。
一方、暴れさせていない方の木に関しては、その体を白い繊維質の糸がまさぐる。そして、ゆっくりと時間をかけてその体についていく白い繊維質。
「まだ操れる?」
そう尋ねる博士。首を振るグラシア。博士は森の中へと戻っていく木を見て、
「まるで免疫物質みたいだね」
博士がぽつりとつぶやいた。
もうその後も何度も実験を重ね出した結果。
・三人で動けば、まとめて取り込まれる可能性があること。
・暴れなければ取り込まれるまで時間に余裕があること。
その間に、持ってきている苗木を使うか、もしくは、グラシアの援護があれば、一人でも逃げ切れる。
以上の理由に、さらに効率を考慮に入れ、三人で別れることになったのだ。
エツィオ達と別れて歩き出した僕。辺りを見て不思議な気分になる。
太陽に向かって伸びる木が珍しいのだ。斜めに生え、根が他の木の幹に生えている。違和感がすごい。
歩いているだけで平衡感覚が狂ってくる。
少なくとも、いつも過ごす世界と同じと思えない。まるで別の世界に来たような。
ずりっ
後ろから物音がした。それもすぐ近くから。
心臓が跳ねた。まずい。慌てて振り返る僕。そこには尻餅をついているシーナが。
「……大丈夫?」
「すいません」
そう真顔で言って立ち上がるシーナ。
「どうしてここに?」
三手に別れるという話だったのに。
「たまたま歩いてたら目に入ったんで」
シーナはあたりを見渡しながらそう言って。
「…あっ、そうなんだ」
なにか、引っかかるが言及できるほどでもなくて。
そこから次に言う言葉をお互い分かっていないのか、少し無言の間が続く。
「せっかくですし、二人で調査しますか」
当然のように言うシーナ。
「……えっ?」
三人で調査することになったのに、二人でいたら意味がなくなる。
しかし、僕の返事も待たずに歩き出すシーナ。尋ねる余裕もなく、また何を聞いても答える気がなさそうなシーナ。
「ちょっ……ちょっと」
思わずあとを追いかけてしまう僕。
結局、二人で調査する形になってしまう。
何がなんだかわからない。
結局、二人で歩き出したが、ひたすらのっぺりとした空気が続いているだけで、特に意見を交わし合うこともない。
というのも、辺りを気を張り続けないといけないので、話を考える余裕もなくずっと無言の時間が続いているのだ。
しかも、なぜかこの無言の間がいつもよりひどく気持ち悪く感じて。何かいつもより気まずさが強いというか、息苦しさすら感じるというか。腹の奥にズンと重いものを感じて。
何だろう。何か嫌な気がする。今はいつどんな目に合うかわかりやすい恐怖と、シーナが来たことによってその陰に隠れるような恐怖が有るような。何か肌で感じ取っているような。
そんな時だった。シーナが思い出したように口を開く。
「逃げようとしないんですか?」
不意に訪ねてきたシーナ。
「ずっと疑問に思ってたんですけど、こういう調査の時、簡単に逃げれますよね。逃げようと思っても誰も止めれないし、こんなところで逃げても私かエツィオさんだけじゃないですか。探すことが出来るの」
「……そんなこと考えてなかった」
「トニー博士に聞きましたよ。いろいろとあるみたいですね。まぁ、確かに研究ばっかで、つまらないですよね。それにどうなるか未来もどうなるかもわかんないですし」
そう愚痴っぽく言うシーナ。普段あまりしゃべる瞬間を見ないこともあって、何か新鮮で。
同時に、シーナの言う通り、どうして自分かわ逃げることを考えていなかったことにも疑問に思って。
何か頭に引っかかるものがあるが、けどその詳しく形骸化できない。
「その逃げた先でもどう生きていけばいいか分からないからですか?」
そう尋ねたシーナ。瞬間、頭に引っかかっていたものが妙に親和性がある気がして。
「そうかもしれない」
僕はぽつりとつぶやいた。僕も結局は虚構に縛られている。治療した彼らのように。
新しく気づく自分の人間らしさ。でも、それは重くのしかかってくる呪いのようなもので、消化しきれず、ただ苦しさが増していくだけのもので。
「人って生きづらいんだね」
僕は思わずつぶやいていた。
「……一つだけいい方法があるかもしれないですよ」
そう顔を覗き込んでくるシーナ。その表情はいつもとは違って。
シーナはゆっくりと僕に向かって歩いてくる。
ガリガリガリッ
そういう音ともに、微かに地面から振動が伝わってきて。僕らのいる『暴食の樹』を駆け上がってくる木。体中に白い糸がついていて。その体表は細かい突起が無数についていて、体を這うだけで木の表面を削っていく。
シーナが瓶を投げた。瓶が割れると同時にまるで相手に巻き付くように成長する『檻の樹』すぐに相手は体を動かせないほど縛り付けた。
「行きましょうか」
そう言って歩き出すシーナ。迷いなく進み出すので、何か言おうとしていたことを聞くタイミングすらない。
僕はちらりと後ろを見た。数本こちらに向かってくる木。まだ僕らを見つけ切れていないのかゆっくりと這いずり回っている。
「だめだ、二人だから集まりやすくなってる。やっぱり分かれて進もう」
そう提案する僕。しかし、シーナは何を思ってるのか歩みを止めない
嫌な気が強くなる。
様子がおかしい。
僕は思わず足を止めた。
振り返るシーナ。そして、僕の顔色から何かを悟ったのか、はぁっとため息をついた。
嫌な予感がより一層強くなった。
ユズキがそう言った。そう言って真っすぐと僕を見つめる目。もうユズキは気づいているんだろうな。そう思った。
会議が終わって、そして、『終わりの森』へ調査に向かう前の日だった。
目の前ではグラシアがスゥっと眠っていた。今日も、『生命の樹』の回収のために殺されて、それで疲れたのだろう。
「一体化するって僕らだよなって思ったよ。でも、僕が丸ごと一体化するってなった途端、実感が湧かない」
それに他種も取り込んでいるとなると僕らとまた少し違う、そこも関係してるのかもしれない。
「だから、怖い。どうなるか分からないからさ……。でもさ…」
ずっと探していた。どう生きればいいかっていう悩み。幸せとか、生きる意味とか。それを突き詰めようとすればするほど、時折襲ってくる耐え難い孤独感。
「でも、一つになればそこには完全な調和が待ってるのかって」
そうすると、生きる意味とか幸せとか考えなくてすむ気がして。
「でも、それって豊富な栄養があるからだよね」
ユズキが言った。
僕もユズキと長い間いることである程度、言う前に言いたいことは分かっていて。でも、それに返す言葉が見つからなかった。
「そうだね」
返事だけは早かった僕。
心には暗雲が立ち込めていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
眼下にある『終わりの森』がどんどんと近くなっていく。
今、僕とエツィオとシーナは蔦に絡ませた檻に乗り、ゆっくりと『終わりの森』へと向かっていた。
折が揺れるたび、服にセットされた瓶がコツンコツンとぶつかって、僕は心配になって瓶を確認する。
ヒビが入ってないか瓶を覗き込む。どこもヒビは入っておらず、その中に入っている苗木も変わった様子がない。
便の中で蠢いていたり、奇妙な形の葉を持っていたり、何もついてない無骨な幹だけのものだったり、様々な苗木が入っている。
「大丈夫だよ。そんなやわな瓶じゃない」
軽く笑いながら言うエツィオ。それでもその表情はどこか厳しい。
それもそのはず今から行く場所は危険に満ちている。いくら防御策を講じたとしても何も感じないわけがないだろう。
逆に隣でボゥっとしているシーナのほうがおかしいのだろうと僕は思った。
基本的に危険な場所と思われる場所に調査に行く際はこの三人だ。
その理由は『生命の樹』によって生存率が高いから。エツィオもシーナも幾たびの手術で体の半分以上は『生命の樹』の体になっている。
まだほとんど行われていない。あとは、噂の範疇ではトニー博士も行っていると聞いたくらいだ。
『終わりの森』に鬱蒼と生える『暴食の樹』の一本に降り立った僕ら。快感が押し寄せてくる。グラシアの放つエネルギーに限りなく近いものだった。
不意に僕はもう一度作戦内容について振り返っていた。
「今回の調査の目的はまずはあの『ガベト族』と思われる人間の形をした植物の調査だ。本当にガベト族なのか、そして、彼らに意識はあるのか」
博士がぽつりとつぶやいた。
「調べているんだが、『終わりの森』の『生命の樹』では人間の脳ほど複雑なものに変質出来るように思えないんだ。それに、何十年も、ただ植物たちのエネルギー源となる生活を続けているか」
エツィオは首をひねって。
「ですが、襲ってきたんですよ? なにか意志があると思うしか」
「そうだね。だから、余計にわからないんだ。あの後、幾度も人を派遣して観察しているが襲ってくる気配すらない。たまたまなのか、もしくは、あの時、グラシアがいたから」
「もう、考えれば考えるほどまた考えないと行けないところでできますね」
エツィオがそう言って頭を抱えて、
「まぁ、そうだね……」
そう同意をする博士。どこかもうすでに疲れている様子で。
「とにかく、調べるにはまずあの生命体だ。あの総括した生命体でそこの蓋をしている部分でもある。一番に調べないといけない」
博士が神妙な面持ちでそう言った。
ゴウッ
強い風が襲って、僕は思わず目を細めた。同時に我に返った。眼科に広がる『終わりの森』。木々の隙間からちらりと巨体が地面を這っているのが見える。
「じゃあ行くか」
エツィオが言った。
その声をともに僕とエツィオとシーナは三手に別れて進んでいく。観察を続けることによって、人間の形をした植物の行動は大体わかってきた。
毎日、だいたい同じような時間帯、同じような場所を歩く。
そして、三手に別れる理由は、それも幾度となく行われた実験によって最も効率がいいと判断したからだ。
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「頼むよ。グラシア」
その博士の声とともに、グラシアはコントロール下に置いた木を4本、隊列を組ませ、『終わりの森』に向かって進ませる。グループの中で2本ずつ二手に別れさせある程度距離を離し進ませる。
すると、森の中から現れる数本の木。その木は全て白い繊維質のような糸が至る所についていて。まるで様子を見ているようにある程度距離を取って動かない。
「よしっ、お願いグラシア」
博士がそう言うとともに、グラシアは片方のグループの木を暴れさせた。森の中から現れた木に向かって攻撃を仕掛けたのだ。
途端に、森の中から現れた木はそのグラシアが暴れさせた木に攻撃を仕掛けた。その幹に傷をつけ、そして自分の体をそこに押し付けた。
グラシアの思うとおりに暴れていた木、しかし、次第に動かなくなり、森の中から現れた木と一体化した。
首を振るグラシア。
一方、暴れさせていない方の木に関しては、その体を白い繊維質の糸がまさぐる。そして、ゆっくりと時間をかけてその体についていく白い繊維質。
「まだ操れる?」
そう尋ねる博士。首を振るグラシア。博士は森の中へと戻っていく木を見て、
「まるで免疫物質みたいだね」
博士がぽつりとつぶやいた。
もうその後も何度も実験を重ね出した結果。
・三人で動けば、まとめて取り込まれる可能性があること。
・暴れなければ取り込まれるまで時間に余裕があること。
その間に、持ってきている苗木を使うか、もしくは、グラシアの援護があれば、一人でも逃げ切れる。
以上の理由に、さらに効率を考慮に入れ、三人で別れることになったのだ。
エツィオ達と別れて歩き出した僕。辺りを見て不思議な気分になる。
太陽に向かって伸びる木が珍しいのだ。斜めに生え、根が他の木の幹に生えている。違和感がすごい。
歩いているだけで平衡感覚が狂ってくる。
少なくとも、いつも過ごす世界と同じと思えない。まるで別の世界に来たような。
ずりっ
後ろから物音がした。それもすぐ近くから。
心臓が跳ねた。まずい。慌てて振り返る僕。そこには尻餅をついているシーナが。
「……大丈夫?」
「すいません」
そう真顔で言って立ち上がるシーナ。
「どうしてここに?」
三手に別れるという話だったのに。
「たまたま歩いてたら目に入ったんで」
シーナはあたりを見渡しながらそう言って。
「…あっ、そうなんだ」
なにか、引っかかるが言及できるほどでもなくて。
そこから次に言う言葉をお互い分かっていないのか、少し無言の間が続く。
「せっかくですし、二人で調査しますか」
当然のように言うシーナ。
「……えっ?」
三人で調査することになったのに、二人でいたら意味がなくなる。
しかし、僕の返事も待たずに歩き出すシーナ。尋ねる余裕もなく、また何を聞いても答える気がなさそうなシーナ。
「ちょっ……ちょっと」
思わずあとを追いかけてしまう僕。
結局、二人で調査する形になってしまう。
何がなんだかわからない。
結局、二人で歩き出したが、ひたすらのっぺりとした空気が続いているだけで、特に意見を交わし合うこともない。
というのも、辺りを気を張り続けないといけないので、話を考える余裕もなくずっと無言の時間が続いているのだ。
しかも、なぜかこの無言の間がいつもよりひどく気持ち悪く感じて。何かいつもより気まずさが強いというか、息苦しさすら感じるというか。腹の奥にズンと重いものを感じて。
何だろう。何か嫌な気がする。今はいつどんな目に合うかわかりやすい恐怖と、シーナが来たことによってその陰に隠れるような恐怖が有るような。何か肌で感じ取っているような。
そんな時だった。シーナが思い出したように口を開く。
「逃げようとしないんですか?」
不意に訪ねてきたシーナ。
「ずっと疑問に思ってたんですけど、こういう調査の時、簡単に逃げれますよね。逃げようと思っても誰も止めれないし、こんなところで逃げても私かエツィオさんだけじゃないですか。探すことが出来るの」
「……そんなこと考えてなかった」
「トニー博士に聞きましたよ。いろいろとあるみたいですね。まぁ、確かに研究ばっかで、つまらないですよね。それにどうなるか未来もどうなるかもわかんないですし」
そう愚痴っぽく言うシーナ。普段あまりしゃべる瞬間を見ないこともあって、何か新鮮で。
同時に、シーナの言う通り、どうして自分かわ逃げることを考えていなかったことにも疑問に思って。
何か頭に引っかかるものがあるが、けどその詳しく形骸化できない。
「その逃げた先でもどう生きていけばいいか分からないからですか?」
そう尋ねたシーナ。瞬間、頭に引っかかっていたものが妙に親和性がある気がして。
「そうかもしれない」
僕はぽつりとつぶやいた。僕も結局は虚構に縛られている。治療した彼らのように。
新しく気づく自分の人間らしさ。でも、それは重くのしかかってくる呪いのようなもので、消化しきれず、ただ苦しさが増していくだけのもので。
「人って生きづらいんだね」
僕は思わずつぶやいていた。
「……一つだけいい方法があるかもしれないですよ」
そう顔を覗き込んでくるシーナ。その表情はいつもとは違って。
シーナはゆっくりと僕に向かって歩いてくる。
ガリガリガリッ
そういう音ともに、微かに地面から振動が伝わってきて。僕らのいる『暴食の樹』を駆け上がってくる木。体中に白い糸がついていて。その体表は細かい突起が無数についていて、体を這うだけで木の表面を削っていく。
シーナが瓶を投げた。瓶が割れると同時にまるで相手に巻き付くように成長する『檻の樹』すぐに相手は体を動かせないほど縛り付けた。
「行きましょうか」
そう言って歩き出すシーナ。迷いなく進み出すので、何か言おうとしていたことを聞くタイミングすらない。
僕はちらりと後ろを見た。数本こちらに向かってくる木。まだ僕らを見つけ切れていないのかゆっくりと這いずり回っている。
「だめだ、二人だから集まりやすくなってる。やっぱり分かれて進もう」
そう提案する僕。しかし、シーナは何を思ってるのか歩みを止めない
嫌な気が強くなる。
様子がおかしい。
僕は思わず足を止めた。
振り返るシーナ。そして、僕の顔色から何かを悟ったのか、はぁっとため息をついた。
嫌な予感がより一層強くなった。
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