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終章
48,涙の抱擁(陛下 視点)
しおりを挟む罪人たちの処刑を終えて十四日、そして、紅雪を発見してから二十日が経つ。
紫攸と紅雪を友と慕う者以外は彼女は目覚める気が無いのだと宮中に不穏の空気が飛び交っていた。
怪我を負わされた昭儀が、無傷で発見された等の報告を受けて官史たちは怯え、化物じみた紅雪を廃妃させようと官史たちは強気の姿勢で進言する日々。
その度、紫攸は半身の居ない息苦しさを必死に耐えていた。
***
寝台で規則正しい寝息をする紅雪を見つめる。
紫攸の顔は痩せ細り、目尻にはくっきりと隈が浮き出ており、髭は伸ばしっぱ。
一月前の幸せの渦中にあった紫攸とは全くの別人にしか見えなかった。
「……紅雪、目覚めてくれ…」
紫攸の目尻には涙が浮かび頬を伝う。
何度同じように願い紅雪の名前を呼んだか。
傷一つない身体、そして血色の良い頬色、ただ寝ているだけのようにしか見えない。
紫攸は周りも見えずに泣きながら、紅雪の色付いた唇に口付けを落とした。
「……っ…紅雪!!?」
「………し、ゆう…さま」
ゆっくりと唇を離した紫攸の真正面にいる紅雪の唇が僅かに動いたように見えた。
驚愕に目を見張り、じっと紅雪を見つめている。
パクパクと口を動かしていた紅雪の口から紫攸の名が呼ばれ、そしてゆっくりと彼女の瞳が開いた。
「おい!!医官を呼べっ!!!早くっ!!」
「紅雪さまっ!!!」
寝所の外にまで聞こえる紫攸の叫び声。
何かあったのかと女官たちが慌てて医官を呼びに行き、旬華は蒼白な顔で寝所に飛び込んできた。
「…旬華…っ…八歌は…無事?」
寝台から起き上がり、問い掛ける紅雪の声は出し辛そうに掠れている。
しかし、目が覚めて最初に心配したのが八歌だった事に紫攸は少し嫉妬してしまった。
「はいっ。八歌も八歌の家族も無事でございます…」
珍しくぼろぼろと泣き出す旬華の言葉に紅雪はホッと安堵する。
安心した事でやっと紫攸と向かい合わせに座ると、頭を下げて土下座した。
「私が至らなかったばかりに陛下のお子を流してしまいました…申し訳――……っうう…ぁああああっ!!!!」
「……っく…っ…こう、せつ…っ」
最後まで言い切る前に紅雪を抱き上げてぎゅううううっと力強く胸に押し付けた。
紫攸の温もりを感じて悲鳴のような声で号泣する。
紅雪の声、動く身体、背中に回る腕、紫攸も感極まって彼女を抱き締めたまま声を押し殺して泣いたのだった。
「…申し訳ありませんが暫く二人にしてあげて下さい…」
旬華は二人の空気を感じ取っていつの間にか外に出て、どうしようか戸惑っている医官に頭を下げた。
外にいた女官や下女、紅淡と詩音は紅雪の悲痛な声を聞いて、複雑な感情を浮かべながら涙を流している。
泣き崩れた八歌を支える寡雲の目尻にも涙が滲んでいた。
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