《R18》皇帝陛下は白銀髪の王女を寵愛する

ERICA

文字の大きさ
上 下
49 / 53
終章

48,涙の抱擁(陛下 視点)

しおりを挟む

罪人たちの処刑を終えて十四日、そして、紅雪を発見してから二十日が経つ。
紫攸と紅雪を友と慕う者以外は彼女は目覚める気が無いのだと宮中に不穏の空気が飛び交っていた。
怪我を負わされた昭儀が、無傷で発見された等の報告を受けて官史たちは怯え、化物じみた紅雪を廃妃させようと官史たちは強気の姿勢で進言する日々。
その度、紫攸は半身の居ない息苦しさを必死に耐えていた。


***


寝台で規則正しい寝息をする紅雪を見つめる。
紫攸の顔は痩せ細り、目尻にはくっきりと隈が浮き出ており、髭は伸ばしっぱ。
一月ひとつき前の幸せの渦中にあった紫攸とは全くの別人にしか見えなかった。


「……紅雪、目覚めてくれ…」


紫攸の目尻には涙が浮かび頬を伝う。
何度同じように願い紅雪の名前を呼んだか。
傷一つない身体、そして血色の良い頬色、ただ寝ているだけのようにしか見えない。
紫攸は周りも見えずに泣きながら、紅雪の色付いた唇に口付けを落とした。


「……っ…紅雪!!?」
「………し、ゆう…さま」


ゆっくりと唇を離した紫攸の真正面にいる紅雪の唇が僅かに動いたように見えた。
驚愕に目を見張り、じっと紅雪を見つめている。
パクパクと口を動かしていた紅雪の口から紫攸の名が呼ばれ、そしてゆっくりと彼女の瞳が開いた。


「おい!!医官を呼べっ!!!早くっ!!」
「紅雪さまっ!!!」


寝所の外にまで聞こえる紫攸の叫び声。
何かあったのかと女官たちが慌てて医官を呼びに行き、旬華は蒼白な顔で寝所に飛び込んできた。


「…旬華…っ…八歌は…無事?」


寝台から起き上がり、問い掛ける紅雪の声は出し辛そうに掠れている。
しかし、目が覚めて最初に心配したのが八歌だった事に紫攸は少し嫉妬してしまった。


「はいっ。八歌も八歌の家族も無事でございます…」


珍しくぼろぼろと泣き出す旬華の言葉に紅雪はホッと安堵する。
安心した事でやっと紫攸と向かい合わせに座ると、頭を下げて土下座した。


「私が至らなかったばかりに陛下のお子を流してしまいました…申し訳――……っうう…ぁああああっ!!!!」
「……っく…っ…こう、せつ…っ」


最後まで言い切る前に紅雪を抱き上げてぎゅううううっと力強く胸に押し付けた。
紫攸の温もりを感じて悲鳴のような声で号泣する。
紅雪の声、動く身体、背中に回る腕、紫攸も感極まって彼女を抱き締めたまま声を押し殺して泣いたのだった。


「…申し訳ありませんが暫く二人にしてあげて下さい…」


旬華は二人の空気を感じ取っていつの間にか外に出て、どうしようか戸惑っている医官に頭を下げた。
外にいた女官や下女、紅淡と詩音は紅雪の悲痛な声を聞いて、複雑な感情を浮かべながら涙を流している。
泣き崩れた八歌を支える寡雲の目尻にも涙が滲んでいた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】円満婚約解消

里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。 まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」 「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。 両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」 第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。 コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...