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一章
05,蒼鳴国の皇帝《2018.06.24改稿》
しおりを挟むそして、冒頭に戻ってくる。
(齢六十過ぎのお爺さん皇帝が待ち構えていると思っていた…)
「お前が朱津から献上された王女か…?」
「――左様で御座います」
目の前の壇上で宝飾された椅子に座る青年男性。
予期していなかった事態に驚きを隠す事が出来ずに立ち尽くしてしまう。
紫珠の瞳と目が合った瞬間、慌てて膝を付いて最高礼を行った。
侮蔑の様な視線が後頭部に突き刺さっている。
「朱津六女、楊紅雪。皇帝陛下に拝謁致します」
それでも、躾けられた台詞を口にして、床に額が付きそうな状態のまま彼の返答を待っていると、鷹揚の無い「立て」の返事が頭上から聞こえた。先程の行動の𠮟咤が無い事にホッとしながら、緩慢な動作で立ち上がり真正面から青年を見つめる。
「朱津の王族は皆、お前のように血色をしているのか?父上は何故、こんな異質な髪色の女を娶ろうと思ったのか…わからんな…」
私の染めた髪色を眺めていたらしい彼の眉間には皺が増えていて、嫌悪感を隠そうともしていない。
先帝を父上と呼んだ青年は、私の予想通り先帝の息子で現皇帝陛下だと窺える。
そして、何故かわからないけれど、赤色・・血色を嫌悪しているように感じられた。
今のままの髪色で過ごす必要が無くなりそうな期待を一瞬宿してしまうけれど、直ぐにその期待は失われてしまった。
「今、私の後宮には母である皇太后しかおらん。献上されてもお前は好みでも無いし、今の所は妃嬪を増やすつもりも無いしな」
わざとらしく「困った、困った」と言葉を連発しているけれど、要は蒼鳴国から出て行けって言っていた。ここで追い出されてしまったら私の帰れる場所など何処にも無い。
「私は故郷を捨てた身です。帰る所等、陛下の傍しかありません。心苦しいのですが、お傍において頂けませんか?置いて頂けるなら、今後現れます皇后様や寵妃様のお目を汚す様な真似は一切せず宮の片隅で静かに一生を終える事をお約束致します」
両膝を床に付き、一抹の希望に縋り付く様に必死に懇願をする。
生き恥を晒すようなものだけれど、朱津国に戻れば殿下に任務の失敗を理由に有無を言わせず私はきっと殺害されてしまう。殺害されるのなら、侮蔑を滲ませ、嫌悪感を露にしていて、私に近付く事もしないだろう陛下の方が何百倍も良い。
殺害される恐怖に身体が震え、泣きたくもないのに涙が滲んできた。
「ならば、白蘭宮をお前にやる・・・宦官に案内させる、下がれ」
「・・・感謝致します」
陛下の言葉が頭上から聞こえると、所作など忘れて勢い良く身体を起こした。
私の切実な訴えが彼に伝わったのかどうかは分からない。それでも、陛下が認めてくれた事で皇居に来て初めて表情が和らいでいた。
目許に溜まっていた涙を指で拭いて、感謝を表すようにお辞儀を数回繰り返すと、もう一度彼に感謝の視線を向ける。
目が合ったと思ったら陛下は即座に視線を逸らしてしまい、結局出て行く最後まで目が合うことは無かった。
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