異世界少女は獣人王子に溺愛される

ERICA

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四章

離れました②

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飛鳥が連れて来られた場所は、エクステリア国の地下牢。
拘束された後、魔法騎士数十名が呼吸を合わせ転送魔法を唱えて、自国に転送された。エクステリア王家の者1人居るだけで、団員全員の転送が可能なのだが、今のシリウスに転送魔法を掛けて貰う事は出来ない。現在も、立ち尽くしたままで居るのかとティクスは心配になってしまう。しかし、今は彼女を親友の婚約者としてではなく、騎士団副団長として尋問しなければならない。気持ちを切り替えて、壁に両腕を伸ばした状態で手枷を固定された飛鳥に向き直った。

「リリアス嬢・・・否、アスカ嬢、僕は騎士団の副団長をしているオオカミ族のティクス・クライムです。団長から聞きましたが貴女は異世界から来られたらしい。何か意図があって、ヴァルディオン公国やエクステリア国に現れたのでしょうか?」
「……私は、何も知りません…。目が覚めたら小屋で…寝ていたんです…っ…」
「小屋…で目覚めたのが最初ですか…」

警戒心を解こうとティクスは微笑み掛ける。飛鳥は地面に足が着かないせいで、固定された両腕に全ての重心が掛かってしまい激痛が襲っていた。痛みを我慢しながら質問に返答した時、ティクスの双眸がキラリと光り、疑惑の目を向けられてしまう。自分が、異世界に来た当初に起こった出来事の記憶を喪失している事を知らない飛鳥は、疑心に満ちた団員たちの視線に恐怖心を感じてしまっていた。

(私の知らない事をティクスさんたちは…知っている?)
「教えて……下さいっ…おね、が…い…しま…す…っ」

あの日、起こった事実を知りたい。飛鳥は痛みに耐えながらティクスに懇願する。固定する枷が擦れてしまったらしく手首から腕に掛けて赤い線が滴り流れていた。痛みは耐えられる。でも、知らない事でシリウスの立場を悪くする事など出来ない。必死に懇願を続けると、ティクスが飛鳥の腕の枷を外して椅子に座らせた。彼女の様子を眺めていたティクスは、飛鳥が本当に記憶障害を起こしているのだと気付いたらしい。

「僕たちはアスカ嬢が襲われた場所に一緒にいました。突如感染し人狼へと変貌を遂げてしまったオオカミが貴女を襲おうとしました。アスカ嬢が現れた日、初めて発生した事件です。僕は貴女が原因ではないかと疑っています。治療薬が無い状態で今現在も感染は広がっています。このままだと僕たちオオカミ族は滅亡します。僕たちだけではない!このまま感染が広がれば別の種族も感染してしまうかもしれない。――疑惑を向けられた理由、分かってくれますよね?」

ティクスは、壁に寄り掛かり腕を組むと、あの日を思い出して飛鳥に分かり易く伝えた。告げられた内容は、彼女にショックを与えるものだった。驚愕に目を見開き、何も言えない飛鳥にティクスは、周りにいる団員たちに外に出るように視線を向ける。指示されてしまえば聞くしか出来ない団員たちは1人ずつ階段を上がって牢から離れていく。最後の1人が離れて、階段上のドアが閉まる音が聞こえると、ティクスは飛鳥に向き直った。

「ここからはシリウスの親友としてアスカ嬢に伝えます。お願いです、シリウスの為に異世界に帰って下さい。このままだとアスカ嬢が首謀者とされて連れて来たシリウスに罰が下ってしまう。本当に王位を剥奪されます。シリウスを想っているなら……シリウスを守って下さい!」
「・・・帰ります」

今度はティクスが、懇願する番だった。次期族長のティクスと、次期国王のシリウス。自分のことのように苦悩するティクスの様子に、切磋琢磨し合った二人には、飛鳥の知らないような絆があるように感じられた。短期間しか居なくても、シリウスがとても魅力的な男性だと分かっている。そして、仲間にとても大切にされているのだと知ることも出来た。これ以上、シリウスに迷惑を掛ける事は出来ない。飛鳥は、締め付けられるほど痛む胸を押さえる。我慢しても止まる事の無い涙を流しながら、自分の生まれた世界に帰る事を決めたのだった。
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