20 / 34
四章
離れました②
しおりを挟む
飛鳥が連れて来られた場所は、エクステリア国の地下牢。
拘束された後、魔法騎士数十名が呼吸を合わせ転送魔法を唱えて、自国に転送された。エクステリア王家の者1人居るだけで、団員全員の転送が可能なのだが、今のシリウスに転送魔法を掛けて貰う事は出来ない。現在も、立ち尽くしたままで居るのかとティクスは心配になってしまう。しかし、今は彼女を親友の婚約者としてではなく、騎士団副団長として尋問しなければならない。気持ちを切り替えて、壁に両腕を伸ばした状態で手枷を固定された飛鳥に向き直った。
「リリアス嬢・・・否、アスカ嬢、僕は騎士団の副団長をしているオオカミ族のティクス・クライムです。団長から聞きましたが貴女は異世界から来られたらしい。何か意図があって、ヴァルディオン公国やエクステリア国に現れたのでしょうか?」
「……私は、何も知りません…。目が覚めたら小屋で…寝ていたんです…っ…」
「小屋…で目覚めたのが最初ですか…」
警戒心を解こうとティクスは微笑み掛ける。飛鳥は地面に足が着かないせいで、固定された両腕に全ての重心が掛かってしまい激痛が襲っていた。痛みを我慢しながら質問に返答した時、ティクスの双眸がキラリと光り、疑惑の目を向けられてしまう。自分が、異世界に来た当初に起こった出来事の記憶を喪失している事を知らない飛鳥は、疑心に満ちた団員たちの視線に恐怖心を感じてしまっていた。
(私の知らない事をティクスさんたちは…知っている?)
「教えて……下さいっ…おね、が…い…しま…す…っ」
あの日、起こった事実を知りたい。飛鳥は痛みに耐えながらティクスに懇願する。固定する枷が擦れてしまったらしく手首から腕に掛けて赤い線が滴り流れていた。痛みは耐えられる。でも、知らない事でシリウスの立場を悪くする事など出来ない。必死に懇願を続けると、ティクスが飛鳥の腕の枷を外して椅子に座らせた。彼女の様子を眺めていたティクスは、飛鳥が本当に記憶障害を起こしているのだと気付いたらしい。
「僕たちはアスカ嬢が襲われた場所に一緒にいました。突如感染し人狼へと変貌を遂げてしまったオオカミが貴女を襲おうとしました。アスカ嬢が現れた日、初めて発生した事件です。僕は貴女が原因ではないかと疑っています。治療薬が無い状態で今現在も感染は広がっています。このままだと僕たちオオカミ族は滅亡します。僕たちだけではない!このまま感染が広がれば別の種族も感染してしまうかもしれない。――疑惑を向けられた理由、分かってくれますよね?」
ティクスは、壁に寄り掛かり腕を組むと、あの日を思い出して飛鳥に分かり易く伝えた。告げられた内容は、彼女にショックを与えるものだった。驚愕に目を見開き、何も言えない飛鳥にティクスは、周りにいる団員たちに外に出るように視線を向ける。指示されてしまえば聞くしか出来ない団員たちは1人ずつ階段を上がって牢から離れていく。最後の1人が離れて、階段上のドアが閉まる音が聞こえると、ティクスは飛鳥に向き直った。
「ここからはシリウスの親友としてアスカ嬢に伝えます。お願いです、シリウスの為に異世界に帰って下さい。このままだとアスカ嬢が首謀者とされて連れて来たシリウスに罰が下ってしまう。本当に王位を剥奪されます。シリウスを想っているなら……シリウスを守って下さい!」
「・・・帰ります」
今度はティクスが、懇願する番だった。次期族長のティクスと、次期国王のシリウス。自分のことのように苦悩するティクスの様子に、切磋琢磨し合った二人には、飛鳥の知らないような絆があるように感じられた。短期間しか居なくても、シリウスがとても魅力的な男性だと分かっている。そして、仲間にとても大切にされているのだと知ることも出来た。これ以上、シリウスに迷惑を掛ける事は出来ない。飛鳥は、締め付けられるほど痛む胸を押さえる。我慢しても止まる事の無い涙を流しながら、自分の生まれた世界に帰る事を決めたのだった。
拘束された後、魔法騎士数十名が呼吸を合わせ転送魔法を唱えて、自国に転送された。エクステリア王家の者1人居るだけで、団員全員の転送が可能なのだが、今のシリウスに転送魔法を掛けて貰う事は出来ない。現在も、立ち尽くしたままで居るのかとティクスは心配になってしまう。しかし、今は彼女を親友の婚約者としてではなく、騎士団副団長として尋問しなければならない。気持ちを切り替えて、壁に両腕を伸ばした状態で手枷を固定された飛鳥に向き直った。
「リリアス嬢・・・否、アスカ嬢、僕は騎士団の副団長をしているオオカミ族のティクス・クライムです。団長から聞きましたが貴女は異世界から来られたらしい。何か意図があって、ヴァルディオン公国やエクステリア国に現れたのでしょうか?」
「……私は、何も知りません…。目が覚めたら小屋で…寝ていたんです…っ…」
「小屋…で目覚めたのが最初ですか…」
警戒心を解こうとティクスは微笑み掛ける。飛鳥は地面に足が着かないせいで、固定された両腕に全ての重心が掛かってしまい激痛が襲っていた。痛みを我慢しながら質問に返答した時、ティクスの双眸がキラリと光り、疑惑の目を向けられてしまう。自分が、異世界に来た当初に起こった出来事の記憶を喪失している事を知らない飛鳥は、疑心に満ちた団員たちの視線に恐怖心を感じてしまっていた。
(私の知らない事をティクスさんたちは…知っている?)
「教えて……下さいっ…おね、が…い…しま…す…っ」
あの日、起こった事実を知りたい。飛鳥は痛みに耐えながらティクスに懇願する。固定する枷が擦れてしまったらしく手首から腕に掛けて赤い線が滴り流れていた。痛みは耐えられる。でも、知らない事でシリウスの立場を悪くする事など出来ない。必死に懇願を続けると、ティクスが飛鳥の腕の枷を外して椅子に座らせた。彼女の様子を眺めていたティクスは、飛鳥が本当に記憶障害を起こしているのだと気付いたらしい。
「僕たちはアスカ嬢が襲われた場所に一緒にいました。突如感染し人狼へと変貌を遂げてしまったオオカミが貴女を襲おうとしました。アスカ嬢が現れた日、初めて発生した事件です。僕は貴女が原因ではないかと疑っています。治療薬が無い状態で今現在も感染は広がっています。このままだと僕たちオオカミ族は滅亡します。僕たちだけではない!このまま感染が広がれば別の種族も感染してしまうかもしれない。――疑惑を向けられた理由、分かってくれますよね?」
ティクスは、壁に寄り掛かり腕を組むと、あの日を思い出して飛鳥に分かり易く伝えた。告げられた内容は、彼女にショックを与えるものだった。驚愕に目を見開き、何も言えない飛鳥にティクスは、周りにいる団員たちに外に出るように視線を向ける。指示されてしまえば聞くしか出来ない団員たちは1人ずつ階段を上がって牢から離れていく。最後の1人が離れて、階段上のドアが閉まる音が聞こえると、ティクスは飛鳥に向き直った。
「ここからはシリウスの親友としてアスカ嬢に伝えます。お願いです、シリウスの為に異世界に帰って下さい。このままだとアスカ嬢が首謀者とされて連れて来たシリウスに罰が下ってしまう。本当に王位を剥奪されます。シリウスを想っているなら……シリウスを守って下さい!」
「・・・帰ります」
今度はティクスが、懇願する番だった。次期族長のティクスと、次期国王のシリウス。自分のことのように苦悩するティクスの様子に、切磋琢磨し合った二人には、飛鳥の知らないような絆があるように感じられた。短期間しか居なくても、シリウスがとても魅力的な男性だと分かっている。そして、仲間にとても大切にされているのだと知ることも出来た。これ以上、シリウスに迷惑を掛ける事は出来ない。飛鳥は、締め付けられるほど痛む胸を押さえる。我慢しても止まる事の無い涙を流しながら、自分の生まれた世界に帰る事を決めたのだった。
0
お気に入りに追加
1,103
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる