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三章

疑われました⑤

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時間は過ぎ、太陽は沈んで月が顔を出す時間帯になっていた。突然ズキズキと胸が痛み始めた飛鳥は咄嗟に胸を押さえる。心臓が半分失われた様な感覚に、シリウスに何かあったのかもしれないと不意にそんな言い様の無い不安が襲い掛かった。彼の傍に行きたい、飛鳥はそれだけを考えて双子メイドに内緒で部屋を抜け出してしまう。向かう場所は、とっくに決めていた。一度闇雲に走って流れ着いた場所だから行き着く事が出来るか不安はあったけれど、暗い廊下をぶつからないように進みながら目的地に急ぐ。見たことがある階段を降りて前回勢い良く開けたドアの前に立つと深呼吸して扉をノックした。

「…リリアス嬢?こんな遅くに如何しましたか?」
「私を、シリウス様に逢わせて下さい」

寝間着姿のランディがドアを開ける。目の前にいる飛鳥の存在を認識したランディが動揺する。しかし、それを微塵にも見せずに彼女に微笑みながらランディが問い掛けた。飛鳥の必死な表情と声色で、兄に何かあったのかと彼も不安感を覚えてしまう。だが、許可も得ていない状況下で飛鳥をシリウスの傍に転送しても良いものなのかランディは困惑してしまった。

「お願いします!!」
「分かりました。入って下さい」

飛鳥が今頼る事が出来るのは、シリウス以外にランディしかいなかった。必死に懇願を続ける彼女に諦めて白旗を挙げると、ドアから離れ部屋に入るように声を掛けながら暗室だった部屋の明かりを灯す。飛鳥が部屋に入ると、前回シリウスに滅茶苦茶にされた部屋は何事も無かった様に綺麗になっていた。

「今から呪文を唱えます。その間、絶対に動かないで下さい」
「ランディ様、無理を承知で願いを聞いて下さりありがとうございます」

ドア付近で止まるように指示された飛鳥は立ち止まると、ランディに視線を向けた。真剣な表情の彼の言葉に、飛鳥は婚約者を演じながら深々とお辞儀をして感謝の言葉を述べる。顔を上げた彼女の目の前に立っていたランディは、気恥ずかしそうにニカッと屈託な笑みを浮かべるも直ぐに真剣な表情に戻ると呪文を唱え始めた。飛鳥が立つ床に、彼女を囲うように円が浮かび、そして円に飛鳥が詠めない文字が浮かび上がる。これが魔方陣だと気付いた時には、飛鳥の周りは陣から発せられる光壁に包まれてた。

「…兄上と必ずお戻り下さい」

呪文を唱え終えると、ランディの目の前にいた飛鳥は消えていた。成功した安堵感と、無許可での転送呪文の使用での説教を考えると一緒に行けば良かったのかな、とランディは一瞬考えてしまう。だが、行った後のシリウスの怒声を想像して身震いしながらも、兄と飛鳥の無事を祈るランディだった。


****


目を開けた飛鳥の双眸に映る景色は、ランディの部屋から、シリウスに媚薬を飲まされた小屋の部屋へ変貌を遂げていて転送が成功した事を示していた。

「シリウスさん!!!――良かった…」

ベットに倒れ込むように横になっているシリウスに気付いて動揺を隠せずに駆け寄ると、彼の頬に涙の痕がくっきり付いているのに気付いた。戸惑いながらシリウスに手を伸ばした時、安定した呼吸音が飛鳥の耳に入って来て安心する。彼の寝ている向きを縦から横に足を持って動かそうとするけど、重くて少しずつしか動かせない。それでも寝かせる向きを変えた飛鳥は、シリウスの服の襟を緩めて身体に布団を掛けた。眉間に皺を寄せて寝ている彼の寝顔を横に座って眺める。シリウスが隣にいる、それだけで飛鳥は幸せで無意識に頬が弛んでいた。

「……ン」

どの位倒れていたのか知らないが、胸に走っていた激痛は今は落ち着いている。双眸を開けたシリウスは、壁に寄り掛かって寝ている飛鳥を見つけて驚愕した。ガバッと勢い良く起き上がると、寝息を立てている寝顔に手を伸ばす。掌に温かな体温を感じて、本物だと気付いたシリウスは飛鳥を抱き寄せた。彼の行動に彼女は身じろいだが起きる気配は無い。飛鳥の目尻の隈を指の背で撫でながら、シリウスは求めるように彼女の唇にキスをした。行為に反応した飛鳥の肩がピクッと揺れる。ディープキスに行為を変えてゆくと、彼女の唇から甘い吐息が漏れ始めた。起きて自分を見つめて欲しい、シリウスは双眸を細めたまま彼女の舌を愛撫し続けながら飛鳥のドレスを片手で脱がし始めた。
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