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三章
疑われました②
しおりを挟む「今だ!!!」
呪文を言い終えると、シリウスの周り半径500m圏内に白い結界が張られた。獣人以外には見えない膜のような物で覆われているせいで、結界の内部にいる団員たちも結界を解除するまで結界の外には出れない。結界内にいる団員たちは変わらず危険を伴う事になるが、外部から内部が何も見えないということは結界内にいる限り獣人に戻る事も出来る。しかも、人型よりも傷の治りは早くなるのだ。結界が張られたのが聞こえた団員たちが一瞬で獣人の姿に変貌する。オオカミ特有の尖った獣耳とフサフサの大きな黒い尻尾、指から伸びた硬い爪が現れると団員たちに剣は不要となった。先程より二倍以上も早い動きで目の前にいる人狼を追い込んで行く。その間にシリウスは人狼を拘束する檻を呪文で結界内に転送させていた。オオカミ族の団員たちが束になれば、一匹の人狼など容易く拘束する事が出来る。シリウスが檻を召還させた時、団員たちのチームワークによって人狼は拘束されていた。
檻に閉じ込めた野獣化した人狼の身体はどこかしこも傷だらけで、視点は左右別方向を向き、涎をダラダラと流している。エクステリア国に人狼が突如として現れたのはアスカが襲われた時だった。現在、感染が二桁に及ぶほど増加の一途を辿っているにも関わらず原因が分かっていない。緊急を要する状況で対応策を見つけられず、シリウスは甲斐無い状態で苦悩を強いられていた。仲間の騎士団員たちもいつ感染するか分からない状況、きっと内心は怯えているだろう。
「…そう言えば、前に遭遇した場所に近いね」
騎士団副団員のオオカミ族、ティクス・クライムが、現在地と今までの出現場所を地図を広げて眺めながら呟いた。ティクスは騎士団入団時の同期であり、オオカミ族の次期族長の立場でもある。似た境遇、そしてシリウスが肉体派に反してティクスは頭脳派。だからか、二人は自然と親友の間柄になっていた。
「ティム……どうゆう意味だ?」
質問を投げ掛けると、ティクスが地図から視線を離さずにシリウスにも地図が見えるように向ける。
「今までの出現場所。ここと、ここと、ここと、ここ…何か気付かない?」
「………小屋」
「倒れたリリアス嬢を寝かせていた小屋。あそこに何かがあるのかもしれない」
今まで現れた場所を指で示すティクスの言っている言葉に苦手な知力を働かせて考える。人狼の出現場所を線で引いた場合の中心部、そこを地図で見た瞬間シリウスの手に汗が滲んできた。否定して欲しくて声に出すも、ティクスは否定せず逆に肯定する。地図から視線を外したティクスがシリウスに顔を向けた。灰色の双眸は疑惑に満ちていて、アスカを疑っているのだと視線だけで気付いてしまった。彼女ではないと否定したくても、異世界から来たアスカに身分を証明するものが何もない状況で説明など出来ない。小屋に連れて行ったのは逃げたリリアスだと思っていたからだし、アスカ本人が起きて何かする時間も与えていなかった。
「なら、行ってみるか…。人型に戻れ!」
仲間を変わり果てた姿にさせられているティクスが、疑心暗鬼に陥ってしまう状況も納得出来る。無関係だと分かればアスカに疑いを掛ける事はないだろうと、シリウスは納得して団員に声を掛けた。団長の声に人型に変身したのを確認すると、一先ず人狼の入った檻をエクステリア国の監房に転送させてから結界を解除する。ティクスがその場に救護班と警護班数名を残して、残った団員だけを先に歩かせた。シリウスも先を警戒しながら歩く団員の後ろを付いて行きながら、アスカの疑いをどうやって晴らそうか無い知識をフル回転させて必死に考える。しかし、小屋に着くまでにティクスを納得させられる程の言葉をシリウスは見つける事が出来なかった。
「シリウス…もし、リリアス嬢が原因なら……僕は許さないから」
次期族長の立場で紡がれた仲間を想って出た言葉。アスカへの気持ちを知っているからこそティクスは、敢えてシリウスに告げたのだろう。小屋の中に入ったティクスや団員たちに続こうとした時、仲間の感染原因がアスカだった場合を想像してシリウスの胸は、締め付けられたように痛んだ。突然呼吸困難に襲われ胸を押さえて蹲り、短い呼吸を繰り返す。オオカミ族の主な罰は爪で身体中の至る所を切り刻むモノだ。人間のアスカが、オオカミ族の刑罰を受けたら確実に死んでしまう。想像だけで胸が引き千切られるほどの激痛なのに、実行されたらシリウスは生きていられないかもしれない。胸を押さえて蹲ったまま何も出ない事をただ祈る事しか出来なかった。
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