異世界少女は獣人王子に溺愛される

ERICA

文字の大きさ
13 / 34
三章

疑われました②

しおりを挟む

「今だ!!!」

呪文を言い終えると、シリウスの周り半径500m圏内に白い結界が張られた。獣人以外には見えない膜のような物で覆われているせいで、結界の内部にいる団員たちも結界を解除するまで結界の外には出れない。結界内にいる団員たちは変わらず危険を伴う事になるが、外部から内部が何も見えないということは結界内にいる限り獣人に戻る事も出来る。しかも、人型よりも傷の治りは早くなるのだ。結界が張られたのが聞こえた団員たちが一瞬で獣人の姿に変貌する。オオカミ特有の尖った獣耳とフサフサの大きな黒い尻尾、指から伸びた硬い爪が現れると団員たちに剣は不要となった。先程より二倍以上も早い動きで目の前にいる人狼を追い込んで行く。その間にシリウスは人狼を拘束する檻を呪文で結界内に転送させていた。オオカミ族の団員たちが束になれば、一匹の人狼など容易く拘束する事が出来る。シリウスが檻を召還させた時、団員たちのチームワークによって人狼は拘束されていた。
檻に閉じ込めた野獣化した人狼の身体はどこかしこも傷だらけで、視点は左右別方向を向き、涎をダラダラと流している。エクステリア国に人狼が突如として現れたのはアスカが襲われた時だった。現在、感染が二桁に及ぶほど増加の一途を辿っているにも関わらず原因が分かっていない。緊急を要する状況で対応策を見つけられず、シリウスは甲斐無い状態で苦悩を強いられていた。仲間の騎士団員たちもいつ感染するか分からない状況、きっと内心は怯えているだろう。

「…そう言えば、前に遭遇した場所に近いね」

騎士団副団員のオオカミ族、ティクス・クライムが、現在地と今までの出現場所を地図を広げて眺めながら呟いた。ティクスは騎士団入団時の同期であり、オオカミ族の次期族長の立場でもある。似た境遇、そしてシリウスが肉体派に反してティクスは頭脳派。だからか、二人は自然と親友の間柄になっていた。

「ティム……どうゆう意味だ?」

質問を投げ掛けると、ティクスが地図から視線を離さずにシリウスにも地図が見えるように向ける。

「今までの出現場所。ここと、ここと、ここと、ここ…何か気付かない?」
「………小屋」
「倒れたリリアス嬢を寝かせていた小屋。あそこに何かがあるのかもしれない」

今まで現れた場所を指で示すティクスの言っている言葉に苦手な知力を働かせて考える。人狼の出現場所を線で引いた場合の中心部、そこを地図で見た瞬間シリウスの手に汗が滲んできた。否定して欲しくて声に出すも、ティクスは否定せず逆に肯定する。地図から視線を外したティクスがシリウスに顔を向けた。灰色の双眸は疑惑に満ちていて、アスカを疑っているのだと視線だけで気付いてしまった。彼女ではないと否定したくても、異世界から来たアスカに身分を証明するものが何もない状況で説明など出来ない。小屋に連れて行ったのは逃げたリリアスだと思っていたからだし、アスカ本人が起きて何かする時間も与えていなかった。

「なら、行ってみるか…。人型に戻れ!」

仲間を変わり果てた姿にさせられているティクスが、疑心暗鬼に陥ってしまう状況も納得出来る。無関係だと分かればアスカに疑いを掛ける事はないだろうと、シリウスは納得して団員に声を掛けた。団長の声に人型に変身したのを確認すると、一先ず人狼の入った檻をエクステリア国の監房に転送させてから結界を解除する。ティクスがその場に救護班と警護班数名を残して、残った団員だけを先に歩かせた。シリウスも先を警戒しながら歩く団員の後ろを付いて行きながら、アスカの疑いをどうやって晴らそうか無い知識をフル回転させて必死に考える。しかし、小屋に着くまでにティクスを納得させられる程の言葉をシリウスは見つける事が出来なかった。

「シリウス…もし、リリアス嬢が原因なら……僕は許さないから」

次期族長の立場で紡がれた仲間を想って出た言葉。アスカへの気持ちを知っているからこそティクスは、敢えてシリウスに告げたのだろう。小屋の中に入ったティクスや団員たちに続こうとした時、仲間の感染原因がアスカだった場合を想像してシリウスの胸は、締め付けられたように痛んだ。突然呼吸困難に襲われ胸を押さえてうずくまり、短い呼吸を繰り返す。オオカミ族の主な罰は爪で身体中の至る所を切り刻むモノだ。人間のアスカが、オオカミ族の刑罰を受けたら確実に死んでしまう。想像だけで胸が引き千切られるほどの激痛なのに、実行されたらシリウスは生きていられないかもしれない。胸を押さえて蹲ったまま何も出ない事をただ祈る事しか出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...