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二章
奪われました⑥
しおりを挟む「……何をしている」
昼食会は概ね成功に終わり、シリウスの両親は飛鳥が演じていたリリアスをとても気に入った。後は彼女と交代するだけなので飛鳥は、着ていたドレスを脱いで制服に着替える。出て行く為の身支度を整えていた時、部屋に入って来たシリウスが開口一番に問い掛け怪訝そうな表情で飛鳥を見つめた。出て行く準備です、なんて自分では言えない。気まずい気持ちで彼から視線を外すと、いつの間にか近付いていたシリウスが飛鳥の着ている制服を魔法で引き千切った。上下とも無残な姿になってしまった制服が、カーペットに残骸を落とす。下半身を覆い隠していた下着までも切られてしまい、飛鳥は裸体の姿でシリウスと向かい合う形になってしまった。突然の行動に呆気に取られていた彼女が思い出した様に慌てて大事な部分を手で隠そうする。しかし、シリウスがいち早く察し、飛鳥の腕を押え付けて彼女をベッドに押し倒した。
「帰す事は出来ない…行かせない!!」
飛鳥に覆い被さり、手首を両手で拘束しながらシリウスは初めて感情を露にする。感情的になっているシリウスを初めて見た飛鳥の胸は期待に満ちていて、自分が求めている言葉を待ってしまっていた。しかし、シリウスは急に口を閉じてしまう。王家の秘宝でもある大鏡の存在は、国王の妻となった女性にしか伝える事を許されていなかった。本当の事を伝える事が出来ない歯痒い思いをするシリウス。逆に飛鳥は、何も言ってくれない彼に期待を打ち砕かれてしまっていた。目の前にいる存在を遠く感じてしまう。そして、お茶会の時に初めて知らされたシリウスの身分。身分違いの恋なんて元から叶う筈も無かったのだ。王太子だと知っていれば好きにならないようにしたのに、そう思ってもきっと無駄だったと分かっている飛鳥は自嘲的な笑みを浮かべてしまった。
「私はリリアス様ではありません。だから帰ります…」
相思相愛の関係になれないのに、一緒にいれば苦痛しか生まれない。身代わりとして傍に居られるならと思ったけど、身分違いに悩むのは嫌だった。飛鳥は必死に懇願するが、シリウスは一向に退こうとする気配を見せない。腕を解こうと動かすけどガッチリと固定されていて動けなかった。無言のシリウスの表情が徐々に苦悩に満ちていいく。彼の表情を間近で見てしまった飛鳥はズキッと胸が痛んで動けなくなった。二人の絡み合う視線、シリウスの顔がゆっくりと近付いていき互いの額がコツンと触れ合った。
「行かないでくれ…」
彼の切実な懇願。シリウスの縋る様な琥珀色の双眸が揺れて、飛鳥は身動きが取れなくなった。彼の言葉は彼女の求めている言葉では無い。それなのに飛鳥は必要とされている自分の存在価値を見出したように、シリウスの頬に手を添える。猫の様に手に擦り寄って来る彼の仕草にきゅううっ、と胸が締め付けられた。
(ああ、これが…愛しいって事なんだ…)
好き、愛してる等の言葉はただのまやかし。ただ、傍にいたい。そう思える相手に出逢えて初めて『愛』が何か分かるんだ。飛鳥の頬には涙が流れている。何で泣いてるのかなんて本人には分からない。だけど、自分を求める仕草や視線を向けるシリウスを見ているだけで胸が高鳴る。彼の双眸の瞳に自分が映っている、それだけで幸福な気持ちになった。
「…います。リリアス様が戻られるまで待ちます」
「ありがとう…俺のアスカ…ずっと…一緒にいてくれ」
理由があって自分を離せないなら、リリアスの代わりでも良いから傍にいたい。なんて、言い訳をしながら飛鳥は自分の気持ちを隠すようにシリウスに向けて微笑んだ。擦り寄っていた頬が止まり、飛鳥の言葉で一瞬揺らめいたシリウスの瞳が彼女の視線と絡み合う。潤んだ瞳のまま破顔し微笑んだ彼は、飛鳥の掌にキスをしながら呟いた。シリウスの言葉、他人が聞いたら愛の囁きにしか聞こえない。現に、聞いていた飛鳥の頬は赤く紅潮し、キスされた掌までも熱を帯びて赤くなっているようにしか見えなかった。気持ちが落ち着き正常の思考に戻ったシリウスは、裸体のまま微笑んでいる飛鳥の姿を間近で見てしまい一気に欲情が昂ぶり唾を飲む。獣人特有なのか、愛おしい相手には年がら年中、獣欲をぶつけてしまいたくなってしまう。今まさに、飛鳥の中に自分の精子を注ぎ込んで自分色に染めてしまいたい衝動に駆られていた。だが、ついさっきまで出て行く出て行かせないで揉めていたばかり。落ち着いたばかりで、欲情のまま行動を起こせば怒ってしまうかもしれない。最悪、嫌われてしまうかもしれない。そう、想像したシリウスは必死に自分の欲望を我慢して抱き締めるだけに留めておいた。
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