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二章
奪われました③
しおりを挟む「…っ…中出し…」
「中出しとは何だ?」
余韻に浸っていた飛鳥だったけれど、蜜壷から流れ出る感覚に飛び上がる。腰が重いし、陰部は痛いけど、それよりも太股やシーツを濡らしていく精子。初体験で中出しされてしまい飛鳥は、困惑し戸惑っているのだけれども、中出しした本人でもあるシリウスは目の前で幸福そうな表情で飛鳥を見つめていて、全くもって心配している様子を見せなかった。
「妊娠するかもしれないって事!」
シリウスの質問に呆気に取られた飛鳥は、焦ったように叫んでしまう。獣人は基本的に動物と同じで繁殖を求めている為、性の勉強などする必要が無い。だが、人間は気にするもの。シリウスは焦る飛鳥の頭を優しく撫でるけれど、彼女は不安に泣き始めてしまった。
「俺たちは今月中に結婚する。だから、もし妊娠していても大丈夫だ」
何のフォローをしているのかも分からない。今月中に結婚?プロポーズもされていないのにいつの間に決まった話なのか、飛鳥はさっきよりも戸惑ってしまった。
(少し、ってかかなり食い違いがある気がするの…気のせいじゃないよね?)
驚き過ぎて泣けないし、涙も引っ込んでしまった。飛鳥は、所々で感じていた違和感に漸く気付く。そしてランディが飛鳥の名前を、別の呼び名で呼んだ事を思い出した。
(リリアス…。もしかして私は、この人と勘違いされてる??)
そう思った途端、サァーーッと背筋が凍りそうになった。婚約者がいる人と性行為をしてしまったショックもかなりのモノだけど、それよりも初体験の相手が飛鳥に、一ミリも好意を持っていないことに気付いてしまい彼女の顔はみるみる蒼白になってしまう。胸がズキズキと痛み、そして別の涙が溢れてくる。その時、飛鳥はやっと自分の気持ちに気付いてしまった。
(……私、シリウスさんが好きなんだ…)
自分の恋人に100%ならない人を好きになってしまった飛鳥は、心の中で呟いて自嘲気味に笑った。彼女を胸元に抱き締めているからシリウスは、飛鳥の表情に一切気付く事は無い。それが良かったのかは飛鳥には分からないが、自分の気持ちに気付いて、即失恋したこんな複雑な感情。そんなものを見せたくなくて、飛鳥はシリウスの胸元に顔を埋めた。
***
「落ち着いたか?」
「……はい」
泣いていたのに気付いていたらしく、泣き止むまで抱き締め続けてくれていたシリウスに、どんな反応をすれば良いのか分からない。飛鳥は、無意識に素っ気無い返事をしてしまう。違和感を感じたのか顔を上げさせられた彼女の目の前に、心配そうな表情を浮かべたシリウスのドアップが現れ、琥珀色の双眸が飛鳥を見つめていた。自分が婚約者では無いのだと伝えようと口を開くが言葉が出てこない。もし伝えなければ飛鳥はシリウスの傍にずっと居られる。でも、リリアスがもしどこかでシリウスを待っていたら、そう思ったら隠す事は出来なかった。
「シリウスさん、私はリリアスさんと別人です…」
リリアスとシリウスの事を考えれば、愛し合っている二人を引き離す事なんて出来ない。飛鳥は決意して本当の事を伝えると、シリウスの双眸の瞳が揺れた。緊迫した空気になってしまい、また泣きそうになった飛鳥は彼から急いで離れようとするも、それを許さないシリウス。両頬に添えられた手が、彼女を逃がさないと伝えているようで、飛鳥は頭では否定しているのに心は無意識に期待してしまっていた。
「…リリアス嬢では、無いと?」
「はい。最近に告げた通り私は、アスカ・ミナグチと言います。日本って呼ばれている所から来ました」
リリアスじゃないことを期待するような強調の言葉。しかし期待してはいけないと飛鳥は、必死に自分の気持ちを抑えながら二度目の自己紹介をした。『日本』と言った瞬間、驚愕に目を見開いたシリウスが、自分の口に手を添えて視線を逸らした。何か思案するように静かになってしまうも、もう片手は飛鳥の背中に回されていて、離してくれそうにない。ドレスに彼の手が触れた事で、上半身が丸見えになっているのを思い出してしまう。飛鳥は、慌てて破けた布で前を隠すと、未だ思案を続けているシリウスの様子を眺める事しか出来なかった。
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