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序章

落ちました

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 大規模な玉突き事故が発生した。その後も、速度を落とす事が出来なかった車は前方の車に突っ込み続ける。そして修学旅行の途中、バス移動をしていた高校生が乗った大型バスが急ブレーキを掛けた―――。

キキキキィィ!!!!バンッ!!!ガンッ!!ガッシャンッ!!!

 しかし、急ブレーキは間に合わず、前方の車を何台も引いてから、高校生が乗っていた大型バスは崖下に転落してしまったのだった。


*****


「……っ………は?」

 投げ出されたのか、地面に伏している身体を起こした。夜で、あまり周りが見えなかったけど目の前は森林だったと思う。だけど、飛鳥の周りには知り合いが誰一人倒れてない。それに落ちた筈の大型バスまでも存在を消されたように無かった。

「ウウウッ…グルルルッ……」

 突然、暗闇から聞こえて来た獣の唸り声。狼が出たのかと思うけれど、狼情報等無い。真っ暗だから分からないけれど、確実に野生動物なのだろう。少しずつ近付いて来る野生動物。

(熊とかだったら速攻死ぬじゃん。ああ…交通事故で死ななかったのに野生動物に殺されるとか…骨だけになったらお父さんもお母さんも気付いてくれるのかな?)

 思考回路が可笑しくなってる事なんて分かってる。だけど現れた野性動物を見た瞬間、背筋が凍るように寒くなった。

(え?え?え?え?…何あれ!!?)

 人のように二本足で立っているにも関わらず、顔はオオカミそっくりで仮面でも着けているのか思ってしまう。身体中に仮面そっくりの体毛に顔に反して二倍程の大きい体格。動物が好きな飛鳥でも流石に近付きたいと思わない程、目の前の人狼みたいな人は涎よだれを垂らしている。
 充血した目が忙しなく周りを見ていて、歩き方も覚束おぼつか無い。言っちゃ悪いけど、毒キノコを食べて毒に侵されている感じにしか見えない。気付かれていない今のうちに逃げてしまおうと思っていたら、足を挫いてたみたいで動けなかった。

「きゃあああああ!!!」

 そして、無理矢理動こうとした飛鳥に気付いてしまった人狼。分かってましたが、襲って来ました。つい叫んでしまったけれども、彼女の周りには誰もいないのが分かってたので飛鳥は食べられるのだと思ってしまった。

(お父さん、お母さん、和樹…私のこと忘れないでね…っ)

 飛鳥の安否を心配しているだろう両親と弟を頭に浮かべながら食べられるのを覚悟して目を瞑った。


 暫くしても噛まれた感触も衝撃も痛みも無くて、人狼が諦めてくれたのだろうと勝手解釈して目を開ける。目の前には、人狼を檻おりに入れている獣耳や尻尾を垂らしている者たち。フサフサの金色の髪で頭上には丸い獣耳と先端がフサフサの尻尾の男性がリーダーなのかもしれない。檻に入った人狼と同色の髪型や獣耳や尻尾、襟付きの騎士服っぽい服を着ている団員に指示を出していた。

「……大丈夫か?」
「……ライオンが服着て喋って…る……?」

 同じ騎士服を着ていたけれど、身体から溢れ出る高級感。高貴な存在なのだと良く分からない事を考えていたら、振り返った男性が顔を覗き込んで来た。それが、どんな動物か気付いた飛鳥。百獣の王である獣耳の男性や人狼なんて日本には居ない存在か妄想の存在。日本語を喋る獣人の存在なんて飛鳥の頭をショートさせるには十分だった。

「おいっ!!」

 色々な出来事が重なった心労なのだろうか、相手の驚いた表情と声が聞こえた気がしたけれど、飛鳥はそのまま気絶していた。


*****


 次に目を覚ましたとき、飛鳥は小屋っぽい内観の何処かの部屋にいた。

「あっれー…何かあった気がしたんだけどな…」

 交通事故からの落下、森林そして……思い出そうとしたらズキズキと頭が痛んだ。きっと思い出したくもない事だったのだろうと思い出すのを諦める。

(で…ここはどこ?)

 木造の建物。部屋は今寝ているベットと机と本棚ぐらいしか置かれていない。でも、落下した森林で倒れたままだったら野性動物の餌になっていただろう事だけは分かっていたので誰かに助けて貰えた事に素直に感謝する。

「起きたか…」

 シャワーを浴びたらしく、上半身裸の男がタオルで身体を拭きながら現れた。ムキムキではないけど腹筋と胸筋にしっかりと、腕筋には程好く筋肉がついてて、女子高の飛鳥には見慣れないモノ。まだ濡れている金髪と琥珀色の目、鼻筋が整ってるので、余計イケメン感を醸し出している。

(私は何でここで寝ているのだろうか…)
「……体調は、大丈夫そうだな…」

 イケメンが助けてくれたのだろうとは察しが付くが、美少女とも呼べない(自分で言ってて泣きそう…)飛鳥を助けた事で彼に何かの利益が生まれるなんてことは無い。不安そうな表情を浮かべてしまったのか、タオル片手に近付いてきたイケメンが不意に飛鳥の額に触れた。一瞬心配そうな顔を向けられた気がしたけど、きっと気のせいだと思う。
 額に触れていた手が離れると、ベット脇の卓上に置かれた小瓶を掴んだイケメン。何をするのかと思って見てたら飲みました。シャワー浴びると喉が渇くよね…良くわかります。

「……ぇ…っんん…」

 何となく彼の行動に相槌をしていたら、イケメンのドアップが目の前に現れた。と思った途端、飛鳥は何故かキスをされてしまっていた。
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