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四章
離れました⑤
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「おねえちゃん…泣いてるの?大丈夫?」
「…大丈夫だよ。それより、どうして1人でいるの?」
「…ふぇ?」
災いの元である飛鳥が、ここにいたらシリウスに迷惑が掛かってしまう。エクステリア国から離れないと、と思いながらも腕の中にいる可愛い子供を飛鳥は置いていけなかった。それに、少しでもシリウスの近くに居れるのならここから離れたくない。そんな想いが、涙となって流れていたのかもしれない。飛鳥は子供に言われて、自分が泣いている事に気付いた。にこっと笑い大丈夫と伝えると、子供と視線を合わせて今まで疑問に思っていた質問を投げ掛けてみる。質問の意図が分からないのか、きょとん、と首を傾げる子供の表情と仕草に、飛鳥は胸に矢を射抜かれてしまった。
「ひとりじゃないよ!」
可愛い!!!そう思いつつ、質問の答えを考えついたらしい子供が、飛鳥に向かってニコッと満面の笑顔を浮かべながら答えた。1人だと思っていた自分の耳に入って来た衝撃発言。静かにしてみると、1階の廊下や部屋からは足音や話し声が聞こえていた。今までどこにいたのかと聞きたくなる程の大人数がせっせと仕事に励むように早足で廊下を歩いているみたい。飛鳥は不法侵入で捕まってしまうのではと不安になってしまった。捕まれば本当にシリウスの邪魔になってしまう。しかし、飛鳥のそんな焦りを全く持って知らない子供は、さっきまで泣いてたのが嘘のようにニコニコとずっと笑顔。しかも、自分から離れる様子も見せない。
「……えっと」
「ボクの名前はシリア!…これ、父さまの名前から取ってくれたんだっ!」
「…シリアくん……お父さんのお名前は?」
少年の名前を知らないのにやっと気付いて戸惑いを見せる。それに気付いたシリアが自分の名前を伝えてくれた。ピンっと立ったケモ耳と尻尾、ニッと八重歯を見せて笑うシリアは、自分の名前が自慢なのだろう。だが、名前を聞いてしまった飛鳥は、それを余裕で見ている事など出来なかった。シリアなんて名前をエクステリア国で聞いた事がなかったから。まだ、見たこともないシリウスの五歳の弟の名前はイーシャン。てっきりイーシャンだと思っていた飛鳥は戸惑いを覚えて、ついシリアの父親の名前を尋ねてしまっていた。
「……?シリウスだよ!ボクの父さまはエクステリアの国王さまで、母さまは人間なんだけど、父さまにすっごい愛されててっ。でも、母さまが初めてライオン族の女の子を生んだから――」
両親がとても好きなのが、シリアの口調や態度でとても伝わってくる。しかし、飛鳥は頭上にタライを落とされてしまったような衝撃と、予想が当たっていた消失感で胸が苦しかった。シリアの名前は、シリウスのシリと、リリアスのアから取ったのだろう。自分が居なくなったあと、彼は婚約者を見つけたのだろうと直ぐに予想が出来てしまった。
(転送に失敗するなら、もっと違う場所に連れてってくれれば良かったのに・・)
飛鳥はシリアが喋り続けている内容が頭に入らず、相槌を打つ事しか出来なかった。このままここにいれば、また泣いてしまうかもしれない。彼らの幸せな夫婦の姿を見る前に、早くこの場から離れたい衝動に駆られてしまった飛鳥はシリアを離すと無意識に駆け出していた。廊下を走っている姿を、怪訝そうに見ているメイドや執事たちが見えたけど気にする余裕もなく、屋敷から飛び出してしまう。その後ろからシリアが追って来ているなんて全く気付く事が出来ず、ただ飛鳥は夢中で走り続けていた。
そんなシリアと飛鳥の姿を、屋敷の窓際から眺めている二人の人物がいた。
「本当に、昔から変わっていないな…」
「ふふ…それでも、私を愛してくれてる?」
「俺は変わらず、お前しか愛せないよ」
「…私も永遠に貴方だけ」
男は妻の腰に腕を回して、昔を思い出してクスッと笑う。妻が、旦那を見つめて問い掛けると、心外だとばかりに苦笑を浮かべた男は妻を抱きかかえ、そのままベットに連れ込ていく。妻を押し倒しながら耳許で囁くと、妻も最愛の男の首に腕を回しながら幸せな笑みを向けたのだった。
「…大丈夫だよ。それより、どうして1人でいるの?」
「…ふぇ?」
災いの元である飛鳥が、ここにいたらシリウスに迷惑が掛かってしまう。エクステリア国から離れないと、と思いながらも腕の中にいる可愛い子供を飛鳥は置いていけなかった。それに、少しでもシリウスの近くに居れるのならここから離れたくない。そんな想いが、涙となって流れていたのかもしれない。飛鳥は子供に言われて、自分が泣いている事に気付いた。にこっと笑い大丈夫と伝えると、子供と視線を合わせて今まで疑問に思っていた質問を投げ掛けてみる。質問の意図が分からないのか、きょとん、と首を傾げる子供の表情と仕草に、飛鳥は胸に矢を射抜かれてしまった。
「ひとりじゃないよ!」
可愛い!!!そう思いつつ、質問の答えを考えついたらしい子供が、飛鳥に向かってニコッと満面の笑顔を浮かべながら答えた。1人だと思っていた自分の耳に入って来た衝撃発言。静かにしてみると、1階の廊下や部屋からは足音や話し声が聞こえていた。今までどこにいたのかと聞きたくなる程の大人数がせっせと仕事に励むように早足で廊下を歩いているみたい。飛鳥は不法侵入で捕まってしまうのではと不安になってしまった。捕まれば本当にシリウスの邪魔になってしまう。しかし、飛鳥のそんな焦りを全く持って知らない子供は、さっきまで泣いてたのが嘘のようにニコニコとずっと笑顔。しかも、自分から離れる様子も見せない。
「……えっと」
「ボクの名前はシリア!…これ、父さまの名前から取ってくれたんだっ!」
「…シリアくん……お父さんのお名前は?」
少年の名前を知らないのにやっと気付いて戸惑いを見せる。それに気付いたシリアが自分の名前を伝えてくれた。ピンっと立ったケモ耳と尻尾、ニッと八重歯を見せて笑うシリアは、自分の名前が自慢なのだろう。だが、名前を聞いてしまった飛鳥は、それを余裕で見ている事など出来なかった。シリアなんて名前をエクステリア国で聞いた事がなかったから。まだ、見たこともないシリウスの五歳の弟の名前はイーシャン。てっきりイーシャンだと思っていた飛鳥は戸惑いを覚えて、ついシリアの父親の名前を尋ねてしまっていた。
「……?シリウスだよ!ボクの父さまはエクステリアの国王さまで、母さまは人間なんだけど、父さまにすっごい愛されててっ。でも、母さまが初めてライオン族の女の子を生んだから――」
両親がとても好きなのが、シリアの口調や態度でとても伝わってくる。しかし、飛鳥は頭上にタライを落とされてしまったような衝撃と、予想が当たっていた消失感で胸が苦しかった。シリアの名前は、シリウスのシリと、リリアスのアから取ったのだろう。自分が居なくなったあと、彼は婚約者を見つけたのだろうと直ぐに予想が出来てしまった。
(転送に失敗するなら、もっと違う場所に連れてってくれれば良かったのに・・)
飛鳥はシリアが喋り続けている内容が頭に入らず、相槌を打つ事しか出来なかった。このままここにいれば、また泣いてしまうかもしれない。彼らの幸せな夫婦の姿を見る前に、早くこの場から離れたい衝動に駆られてしまった飛鳥はシリアを離すと無意識に駆け出していた。廊下を走っている姿を、怪訝そうに見ているメイドや執事たちが見えたけど気にする余裕もなく、屋敷から飛び出してしまう。その後ろからシリアが追って来ているなんて全く気付く事が出来ず、ただ飛鳥は夢中で走り続けていた。
そんなシリアと飛鳥の姿を、屋敷の窓際から眺めている二人の人物がいた。
「本当に、昔から変わっていないな…」
「ふふ…それでも、私を愛してくれてる?」
「俺は変わらず、お前しか愛せないよ」
「…私も永遠に貴方だけ」
男は妻の腰に腕を回して、昔を思い出してクスッと笑う。妻が、旦那を見つめて問い掛けると、心外だとばかりに苦笑を浮かべた男は妻を抱きかかえ、そのままベットに連れ込ていく。妻を押し倒しながら耳許で囁くと、妻も最愛の男の首に腕を回しながら幸せな笑みを向けたのだった。
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