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四章
離れました④
しおりを挟む孤独感や恐怖感で屋敷の玄関をノックする事が出来ずにいる間に、外は夜空に変わり自分の気持ちとは裏腹な程に星が煌めいていた。
大樹を背凭れにして体育座りしたまま屋敷を見つめ続ける。ノックはしたくない。誰かが出てくるかもしれない。そんな淡い期待で座り続けていたけど、屋敷から出てくる人は今のところ誰も居なかった。もしかしたら、空家なのかもしれない。飛鳥は意を決して立ち上がると、ゆっくりと屋敷に近付いてドアノブを掴む。鍵が掛かっていたら留守、掛かって居なければ空家。そんな事を考えながらドアノブを回して押してみた。
ギィィイイと、音を立てながらドアが開空家なのだと判断して、即座に閉めようとしていた飛鳥の耳に泣き声が聞こえた。子供の声だと気付いて、無意識に屋敷に踏み込んでしまう。一瞬つい行くのを躊躇したけれど、子供の悲痛な泣き声が耳から離れず、飛鳥は薄暗い屋敷の中を泣き声を頼りに階段を上り始めた。
(心配で来ちゃったけど…おばけだったらどうしよう…)
泣き声が聞こえる部屋の前まで来て飛鳥は寒気を感じて不安になってしまう。また躊躇したけれど、覚悟を決めてドアノブを回しゆっくりと扉を押した。隙間から覗き見える景色を眺め、そしてベッドで膝を抱えて泣いている子供を視界に捉える。一度視線を廊下に移してみるけど誰も居らず、子供しかいない様。泣き続ける子供に違和感を覚えた飛鳥は、その正体に気付いてつい音を立ててしまう。音に敏感な動物は誰でも気付くだろう古いドアの開く音は、泣いていた子供の耳にも勿論届いてしまっていた。俯いていた子供が顔を上げたのだと薄暗い室内でも分かる。目の前の子供の頭上にはケモ耳、そしてお尻には毛先がフサフサの尻尾。飛鳥は目の前にいる子供がライオン族の子供だと気付いていた。
「……母さまっ……」
「……泣かないで…大丈夫よ…」
すがり付く様に抱き付いて来た子供は、飛鳥を母親と勘違いしているらしい。同じように薄暗いせいで飛鳥も子供の顔までは分からない。ただ、薄暗い中でも光り輝く黄金色の髪色だけでライオンだと分かってしまう。きっとシリウスにそっくりなんだろうと予想しながら、子供を膝に抱えて座り直した。ブンブンと振られる尻尾、安心したように身を委ねる子供のそんな姿に、夢中になってしまいそうな程可愛くて頬が弛んでしまう。小さな王子の金色の髪を片方で優しく撫でながら落ち着くのを待った。
「・・・母さま…じゃない?あれ…でも、匂いは……え?え?」
「そうだよ。でも、ライオンさんが好き
だから恐いことなんてしないよ」
落ち着いたらしい子供が顔を上げて、飛鳥と視線を合わせた途端、戸惑いの表情を浮かべた。子供が1人でいるのだから警戒しても仕方ない。飛鳥はにっこりと微笑んだまま答えると、子供の後頭部を撫でた。シリウスと同種に何かするつもりも、何か出来る訳もない。ただ、こうやって子供を抱き締めているだけで飛鳥は何故か穏やかな気分になった。シリウスの所に帰れないなら、このままここにいたい。そんな想いが彼女の中に生まれては消えていくを繰り返している最中、飛鳥は子供を抱き締めたまま気付いてしまった。ここがエクステリア国のどこかならシリウスは王宮に必ずいる。逢えるかもしれない、そんな淡い期待をしてしまった飛鳥だったけど、直ぐにティクスに言われた言葉を思い出してしまった。自分がここにいる限り、オオカミ族の感染は続いてるのかもしれない。
(なら、私はどこに行けば良いのかな)
言いようの無い不安が飛鳥を襲い、無意識に子供を抱き締める腕が強くなっていた。
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