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クリストファー・L・ウィンターソンの道のり①
しおりを挟む人族のみが住むカスティオーネ国のアシュテイル伯爵の令嬢に求婚したのは一年前。しかし、令嬢は成人には達しておらず、来年の成人の日まで婚約者として私たちは文通を始める事になった。
好きそうな物を手紙で聞き、彼女に相応しい物を贈り、届く度にお礼の手紙が届く。文章の最後に彼女が可愛い動物や絵を描いてくれる。最初は拙い文章だったのが、徐々に上手になっていくのが楽しみでもあった。
文通を始めて半年、森に魔獣が大量発生してしまい、私と弟が騎士団を連れて討伐に向かうことになった。激戦となり、手紙を送る事も出来ない日々が続いた。やっと討伐が終わり手紙を出したが、彼女からは返事が無く、文通が途絶えてしまった。最後の手紙には討伐に行く事への心配と無事を祈りますの文字が書かれていた。
「……彼女は健在だろうか」
手紙を送らなかった事に後悔はしたが、国を民を護る事が王子の役割と思っていた私は、仕方ないと諦めもついた。求婚から八ヶ月、文通が終了したならば実る事はないだろう。そう判断して新たな妻を捜し始めた。自分の娘こそはと美化させた絵姿を見るたびに溜息が出てしまう。女性の似顔絵を卓上に並べられ、それを眺めていると一気に疲れが出る気がする。そして、つい求婚した相手を思い出してしまい、哀愁を漂わせ深い溜息をついた。
「アシュテイル家から手紙が届きました」
「娘の持参金を寄越せ、だそうだ」
一年まで残り一ヶ月の時、突如途絶えていた伯爵家からの手紙をアダムから受け取る。婚約破棄の申し出だろうと予想した私の目を疑う返事が書かれていた。金食い虫め。上級貴族にはヘコヘコ、下級貴族や平民には威張り散らしていて性根は腐っている。令嬢とは似ても似つかない。だが、令嬢と結婚すれば自動的に姻戚関係になってしまう…手はうっておこう。
持参金の金額の桁に執事は顔を曇らせたが、気付かないフリをして手紙の通りに進めるように指示を出した。アダムは命令に反した行動は起こさないと信じているからな。きちんと丁寧にやってくれるだろう。
「もうすぐ逢えるよ」
アダムが席を外すと、執務室の背凭れに寄りかかりながら執務机の一番下から箱を取り出した。その中にはアシュテイル令嬢から届いた手紙が数十枚入っている。暇があれば何度も読んでいるせいで、少し汗でシワシワになってしまっていたが内容は読める。好きな本を読んで過ごしていた事、ケーキが美味しくて二個も食べてしまった事、ドレスを新調したけど、スカートが長すぎてコケてしまった等、他愛もない内容でも想像出来て、逢えなくても我慢できた。
最後に届いた手紙の最後を指で撫でる。その返事をするように口ずさむと、また一から手紙を読み始めたのだった。
そして、待ちに待った日がついに来た。
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