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お嬢さまの身代わり③
しおりを挟む「恋愛結婚したかったなぁ…」
私がいた世界だったら、今の私は中学三年。本当なら結婚のけも想像出来なくて、彼氏と一緒に帰るだけでいっぱいいっぱいだったんだろうな。友達とふざけて遊んだり、好きな人の話をしたり、卒業のお祝いで皆でネズミーランドに行ったりしてたかもしれない。そんなこと想像でしか出来ない。
そんなことを思い出してたら口からぽつりと本音が零れていた。
「大丈夫かい?」
「お義母さん…起きてたんだ…大丈夫だよ」
ポタポタと雫が私の手を濡らしてるのに気付いた。それに気付いたのは私だけじゃなくて、隣のベットで寝ていた義母が心配そうに聞いてくる。大丈夫じゃない、そう言いたいのをグッと我慢した。えへへと笑って服で涙を拭った。きっと、明日には義父と義母にも話は伝わる。その時、二人はどんな反応をするのだろうか。一緒に行ってくれるだろうか、それだけはわからなくて私は不安を感じる。
私の返事に満足したみたいで、義母はおやすみって言って欠伸をしながら布団に潜り込んだ。私は眠れず天窓から空を見つめて夜を明かした。
***
「……寒い」
現時刻は4時。私の世界と同じ24時間で1日。だから私も迷う事もなく生活出来た。厚手の上着と手袋をつけて、義母を起こさないように静かに屋根裏部屋を出て、ショボショボする目をすっきりさせるつもりで庭に出た。
「やっぱり、まだ朝は肌寒いわね…」
「早く洗濯物やっちゃいましょ」
白い息を吐きながら私と同じ年ぐらいのメイドたちが冷たい水に浸かる洗濯物を足で踏んでいる。その姿を私は突っ立って見つめる事しか出来ない。一度も手伝わなくてごめんなさい。心の中で謝罪しても誰にも伝わらないし、本当は手伝った方がいいのはわかってたけど、それでも私は手も足も荒れさせることは出来なかった。
だって、私はリリアナさまの人形だったから。お嬢さまの手足となり、彼女の望むままの台詞を言う人形。それが、私が生き残れるたった一つの生命線だった。
だから、リリアナさまが触れる手に手荒れ一つあっちゃいけなかった。お嬢さの着せ替え人形は足にしもやけを作っちゃいけなかった。ただ、呼吸する人形でいなくちゃいけなかった。
「人形のままでいるか、形だけの旦那さまを得るか、どっちが幸せなんだろ…」
きっと義両親がいなければ私の心は硝子の様に粉々に砕けていた。そして、生きたまま本当に人形になっていたかもしれない。それを考えれば、愛のない結婚生活の方が幸せかもしれない。でも二人が来てくれなかったら私は一人で知らない国に行かなくちゃいけない。
怖い。またあの不安と恐怖を味わわなくちゃいけないなんて、私は出来ない。それでも、もう私には拒否出来ない方向に進んでいて、後戻りは出来ない。
私は、冷たい水で洗濯物を交互に踏みあっているメイドを見つめながら、去年の出来事を思い出していた。
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